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【海外】エンタメの成長を阻害する、組織の構造的な問題について【就職・転職・キャリア】

緊急事態宣言が延長が決定が発表されました。
コンサート業界は、無観客の制限を撤廃することを要請しました。

医療体制の確保、経済活動の維持、世論のコントロール、色々と考えないといけないことがあるのはわかりますが、方針が揺れていると感じられますし、この1年間の対策は全てが場当たり的で、学びが不足しているのでは、と感じます。

今回は、緊急事態宣言延長について思うこと、そしてそれを踏まえて、エンタメ業界は何を学ぶべきか、について書いてみたいと思います。

この1年間、苦しい状況のエンタメ企業で難しい舵取りをしている経営者の方や、その下でいつエンタメは再開されるのか、雇用は維持されるのか不安に思われている方々にとって、この先、どうしていけば良いか、どう考えるべきか、のヒントになればと思います。

緊急事態宣言延長について思うこと

音事協、音制連らライブエンタメ4団体が共同声明 「無観客要請」撤廃申し入れ

「緊急事態宣言」31日まで延長 きょう決定へ 愛知 福岡も追加

そして、その要請を受けてか、緊急事態宣言の期間は延長するものの、大型商業施設への休業要請や、イベントやスポーツの無観客とする措置は緩和するようです。

エンタメ業界としては、実施できるだけマシなのですが、ある程度の根拠を示すか、それなりの声明・説明をしてから、緩和しないと逆効果になりかねません。

この報道を見た人は「緊急事態宣言」と「まん延防止等重点措置」との違いがあいまいになってきます。
あくまでも大規模イベントを無観客にすることや、大規模施設を休業する目的は「人流を抑制すること」だったはずです。
そして、医療崩壊の兆しがある大阪では、「より強い措置が必要」として、「まん防」から「緊急事態宣言」へと移行したはずなのに、実質的な対策は緩和してしまうのであれば「緊急事態宣言」と「まん防」の違いは何なのでしょうか?

私は、エンタメ業界の立場からは「イベント・コンサートは実施しても問題ない」という認識ですので、規制が緩和されることには賛成です。

しかし、来場者にとっての不安が解消されない限り、結局イベントへの参加は辞退・自粛される方もおられますし、気持ちよく楽しんで参加できない人も、一定数いることも事実です。

ですので、規制緩和に至った考え方の道筋は、丁寧に説明する必要があると思います。
つまり『「まん防」を「緊急事態宣言」へ移行した理由は、GW期間は人手が多くなることが見込まれるので、この期間中については最大限、人流の抑制に協力してほしい、ついては無観客開催・大規模施設は休業をお願いしたい。そして、GWを明けたら自然と人流は抑制されるので、当初から感染拡大の危険性が確認されなかった大規模イベントやコンサート、大規模施設の営業は、これからもガイドラインに則った感染対策を行なうことで、少しでも経済活動を取り戻してほしい』といった発言があるだけでも、多少は理解が広がるのではないでしょうか。

勿論、変異株の急激な拡大や、医療体制の強化等、緊急の対応も多くあるとは思います。
そこまで説明に時間をかけていられない、ということかもしれません。

しかし、結局1年前からコロナの対策をやってきた中で「政府の方針や対策がすべて場当たり的に見える」から、国民の多くは不安を感じ、どうしてよいかわからなくなっているのが現状ではないでしょうか。

きちんと今ある情報を開示、共有し、どのように分析して、どうしようと考えたか、その結果として具体的な対策はこうする、ということを丁寧に説明していれば、もう少し多くの国民に理解を得られたのでは、と思ってしまいます。

結果として、イベントの規制は緩和されるので、ルールとしては問題なく実施できるはずのイベントであっても、開催すればイベント事業者は「緊急事態宣言が延長されたにも関わらず実施(を強行)した」という風評にさらされることになります。

そうならないためにも、きちんと緩和した背景にある考え方について説明を尽くすべきですし、その証明のためにも、既に実施した大規模イベントのその後の追跡・検証をしっかり行ない、エビデンスとして提出できると良いと思います。

その上で、この先に控えるオリンピックの実施方法について具体的な対策を打っていくことが出来れば、前向きなのではないでしょうか。

そして「選手と、オリンピック観覧希望者には、ワクチン接種を義務付ける」とか「そのために必要数を確保した」とか言えれば、まだ理解を得られるのかもしれませんが、その説明が不足していると感じます。
そして、説明はしていても、メディアによる報道が不十分なこともあるかもしれません。

では、国や政府はそんなことを考えていないのか、と言えばそんなことは無いと思います。
個別の事案について詳しく知らないということは多々あると思いますが、判断の基準がどこにあるか、むしろ無いのか、揺れているのか、世論や政党幹部等からの意図があるのか、色んな状況を踏まえた上で、今あるベストと思われる選択肢を選んでいると思いますが、結局大事なことを忘れているように感じます。
それは「目的」と「目標」です。それが定まっていて初めて具体的な対策を選ぶ話になると思うのですが、ここでの議論は置いといて、「目的」と「目標」、というのは企業・組織にも存在するもので、しかも忘れがちだったりします。
そのことが招いている業界の、ひいては日本経済の衰退にも共通する話だと思いますので、ここから何を学ぶべきかを考えてみたいと思います。

「既得権益を守ること」と「新たな投資を行なわないこと」

政府が場当たり的な対応に終始していること、や音楽業界がフィジカルの減少にダメージを受けたこと、そして業界に限らず日本企業が相変わらず失われた30年から抜け出せずにいることには、共通して言えることがあると思います。

それは、「既得権益を守ること」と「新たな投資を行なわないこと」です。
下記の記事からもそうしたことを読み取ることが出来ます。

端的に言えば、邦画やドラマが海外でパッとしない理由として、テレビと番組制作が一体になっていた構造が、国内需要にのみ最適化されていたことで、海外に通用するコンテンツを作る能力が失われていった原因、としています。

つまり、「国内需要で十分」という判断が「海外へ収益機会を広げることへ投資する機会を奪っていった」ということです。

「投資」というのは、経済的なことだけではなく「人材育成」も含まれます。
経験やノウハウを身に付けさせるということも投資に入ります。そのための「時間」と言い換えてもいいかもしれません。

確かに順調にいっている間にわざわざリスクを取る必要はないですし、致命傷を負うようなリスクを取り続けることは、経営としては間違っています。
しかし、適正なリスクを取らないとリターンを得ることは出来ません。
株式投資の世界ではよく言われることですが、リスク=危険、ではなく、リスク=変動幅、という考え方です。
リスクがない、ということの意味は、リターンもない、ってことです。
ある程度のリターンを得ようとすれば、ある程度のリスクを負う必要がある、ということです。
リターンとリスクは表裏一体、です。
許容できる範囲でリスクを取る必要があります。

しかし、右肩上がりの給料で、順調に出世して、ようやく昇進した立場を、自ら脅かすような事業に投資したり、これまでのやり方を変えたりするのは、人間の心理として難しいのです。

わざわざ、不確実な将来のために、今ある利益を減らして投資に使うことは、誰にとっても簡単ではないはずですからね。

そして、企業が営利目的である以上、短期の利益を追求される圧力もかかります。

株式会社なら、投資家・オーナーから経営者へ、そしてそれが経営方針になり、組織の文化として長年のうちに浸透していくにつれて、不文律として「当たり前」となり、前提を疑わない思考停止になります。
いつしか、企業の幹部がサラリーマンから出世した人たちで占められるようになると、企業の「目的」と「目標」が不鮮明になっていきます。

大抵の場合、企業の「目的」は「利益」になり、「目標」は「4半期で〇〇円」になっていきます。それこそが「仕事」だと。

例えば、エンタメの仕事は「楽しませること」で、それを継続することです(目的)。
そして、生業として続けていくためには利益が必要(目標)になります。
まず、「楽しませること」「面白いこと」を考えて生み出すことが何より大切な仕事であり、エンタメの目的です。

そして、得られた利益の使い途は、この「楽しみを継続するため」と「次の新たな楽しみを生み出すため」に使われるべきです。

「楽しみを継続するため」には、その楽しみを生み出す演者へ対価(生活の保障とやりがい)と、それを支える人達の雇用の確保が必要です。
そして、「次の新たな楽しみを生み出す」の中には、「より良い内容にブラッシュアップする」ということも大切ですが、「さらなる市場の拡大」も必要です。
この時に、どうしても国内需要に“のみ”目が向いてしまいます。
ここに構造的な問題がります。
エンタテインメントの目的は「楽しませること」であって、「日本人だけを楽しませること」ではないはずです。実際、日本には海外からのエンタテインメントはたくさん入ってきますが、海外でそこまでの影響力を持てているのは日本では「アニメ」と「ゲーム」くらいです。
「ドラマ」や「邦画」、「音楽」といったエンタテインメントの影響力はそこまで大きくないのです。

サラリーマンからそれを変えていくためには、実績を上げて発言力を持ち、トップの利益を守りながら、次世代への投資を行なうしかないわけですが、これには長い時間がかかります。

その過程で、年を重ね、リスクを取りにくくなり、新たなエンタメの情報を吸収することもやりにくくなります。
だから既に儲かっている事業のみを継続、拡大することが仕事、と思い込み、全く新しいエンタテインメントを探したり、生み出したり、さらには海外にその機会を求めることが出来る立場になるころには、定年間近になって、「後のことは任せる」となってしまうのです。

投資といっても大きなリスクを取る必要はない、について

それは、巨額の投資であったり、大幅な経費削減や増収が必要な話ではありません。
過去にも何度も紹介している書籍「シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成 (NewsPicksパブリッシング)ニューズピックス」の中では、日本の教育・研究開発費を取り上げ、国際競争力を高めるために、社会保障給付費120兆円のわずか2%程度の2兆円を配分するだけ、と提言しています。



若い世代にリスクを取らせるといったときに、何も赤字になるかもしれない事業をやらせる、とか無謀なことである必要はないと思います。
日本のエンタメを海外でも収益化するために必要な、まず語学力を身に付けるために英会話スクールの受講やオンライン英会話の費用は会社が負担する、とかからでもいいのではないでしょうか。
そのための時間を確保できる体制を整える、というのも一つの手かもしれません。
海外の企業との提携を考えてみる、とか海外のエンタテインメントの産業構造を勉強するために研修に行かせる、というのもありかもしれません。
現地で日本のコンテンツのマーケットをリサーチしてみるだけでも、新たな可能性に気付くことは出来るのではないでしょうか。
年間利益の1%を5年間は海外での事業に投資する、とかほんのわずかでも、海外事業向けにリソースを振り向けることを継続してみるのはどうでしょう。

リスクの取り方について参考になるのは「billboardを呼んできたサラリーマン 電鉄会社の傭兵たちが作った夢の棲家(ダイヤモンド社)」です。

本書では、阪神電鉄が今のBillboard Liveを軌道に載せるまでが描かれていますが、会社の投資判断が興味深いです。
「累積赤字が5億円溜まったら会社を潰すこと」という約束があったというのです。
同時、鉄道会社が音楽事業をやるなんて、かなり異色だったと思いますが「ここまでは好きにやらせてみる」というラインを決めて任せる、という判断こそが、経営陣の懐の深さだと思います。

興味のある方は是非読んでみてください。

何が当たるかわからないから、何でもやる

「千三つ」という言葉あります。
これは「1,000のうち当たるのはせいぜい3つ」という意味です。

新しいことは何もインパクトのあることだけでなくてもいいと思います。
面白そうなことは何でもやればいいと思います。
何が当たるかなんて誰にもわからないからです。

エンタテインメントの目的は「楽しませること」ですが、「やってみないとわからない」ことが多いです。

だったらやってみるしかありません。
やってみて市場の受けを見るしか、方法はないのです。

これを実現するために、経営幹部がするべきことは「リスクを取って投資すること」「撤退ラインを決めること」です。

管理職は、「現場に任せること」「実績をウォッチすること」「現場が成功するために必要な手助けをすること」です。

現場が行なうことは「大きく考えること」「アイディアを出すこと」「実行すること」です。

こうなっていればいいなという願望を過去にも「理想の会社」という記事で書いています。

そして、当初から日本のエンタメは素晴らしい!と心から信じて書き始めたnoteなので、日本のエンタメが向かってほしい方向については、一番最初の記事からも書いています。参考にしてもらえると嬉しいです。

まとめ

まだこのnoteを書き始めて3か月ほどですが、読んでくださっている方がいることが励みになっています。
エンタメ業界の方なら、共感して頂けるのであれば是非コメントやスキしてもらえると嬉しいです。
もしかしたら、いつかどこかで仕事をご一緒出来るかもしれません。
エンタメ業界以外の方からみて、「同じようなことはウチの業界にもあるな~」とか「そんなことはこうやって解決してるよ~」とか、ご意見・ご感想を頂けると嬉しいです。
エンタメ業界は、それ以外の業界や団体とも仕事をご一緒させて頂くことが多い業界でもあります。
地方自治体の方とも、様々の規制や手続きで足並みを揃えることもありますし、企業の方とはスポンサーになって頂いたりPRに協力することもあります。
エンタメが元気になれば、きっと日本を元気にできる、そう思っています。
是非、これから学んで、発信して、皆さんと共有していければ良いなと思います!


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