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調子に乗れない世の中で、調子に乗ることを薦めたい

「イノウ君のくせに調子乗んなよ」

そう言われたのは、小学校5年生の時だっただろうか。その頃僕は中学受験のために塾に通わされていて、小学校で行う授業は随分と簡単に思えていた。隣で席をくっつけたO君は、体がでかく、ガキ大将のような風貌だった。

その彼が、授業中算数の問題がわからないと言うから、解き方を教えていたら、ちょっと僕の声が大きかったと言う理由だけで、自分が算数の問題を解けないことを周りに馬鹿ににされたくないと思ったのか、「イノウ君のくせに調子乗んなよ」と言われた。

小学生なんて理不尽の塊だし、今更掘り返して彼をどうこう言うつもりはない。

だけど、「可愛いからって」「ちょっと人気だからって」「先輩や先生に気に入られてるからって」「学生のくせい」「若いくせに」「太ってるくせに」「下手なくせに」「女のくせに」

“調子に乗んなよ”

と言われた経験のある人は多いのではないだろうか。

僕たちの生きている国では、なぜか「調子に乗る」と言うことが悪いことのように捉えられる。「空気」や「世間」の見えない暗黙のルールを読み取り、できるだけ出る杭にならぬようにと教えられる。

でも、「調子に乗る」と言うのは本来望むべき状態のはずだ。調子が悪いよりは良い方がいいし、うまく行っている波に乗っかることはむしろ喜ぶべきことなのに。

「調子に乗っている」とやんややんやと言う人は、いつだって同じ土俵の調子に乗れていない人だ。

調子に乗れてない人が悪いと責めているわけではない。

人にはタイミングや積み上げてきたものがあるし、早々に見初められるか、遅咲きかは、神のみぞ知るところ。だけど、調子に乗る努力をしていないのに、調子乗っていると騒ぐのはお門違いではないだろうか。

僕も昔は、「調子に乗っている」と心の中でこっそりとひがむ側だった。

小学生の頃、自分がされて嫌だったにも関わらず、自分の身近な人と少しづつ離れていくたびに羨ましいと思っていた。公の場で呟いたり、誰かに愚痴を言ったという訳ではなかったけど、自分の内でボソボソと僻んでいた。

人は誰かを褒めるよりも、誰かを責めるほうが得意だ。まるで批評家のように、「〇〇だから」というラベルをつけてしまえば、立派な自分を正当化するための「言い訳」が完成する。

そうやって丘でぼーっと眺めているうちに、果敢に波に乗らんと挑戦する人たちは、溺れる恐怖に打ち勝ちながら、調子という波に乗っていく。

調子に乗り続けているのだって大変だ。

それこそ、乗っている波の高さはどんどんと勢いがまし、バランスを保つのが難しくなってくる。

今までやり続けたことをやめてしまえば、調子の波からはすぐに落とされてしまう。

だから、調子に乗っている人というのは、レンガを重ねるように努力を重ねた人であり、決して傲岸不遜でいい気になって、ドヤ顔を振りまいているわけではないのだ。

最近、同年代で活躍する友人が増えてきたことがきっかけで、僕もやっと浅瀬に泳ぎだし、ボードの上に立てるようになった。自分の考えを文章にして人に届けたいと思いつつも、いっつも周りの目を恐れて踏み出すことができなかった。だけど、まだ視界に見えるところから「早くこっちにこいよ」と、頑張る彼らに声をかけられている気がして、ようやく世界に言葉を出すことができた。

今でも怖くないかと聞かれれば、嘘になる。いつも文章を世の中に送り出すときは、まるで拳銃の引き金を引くような気持ちだ。引いてしまえば後戻りはできない。罪を犯しているわけではないけど、ヒヤリとした気持ちになる。

それでも発信できるのは、読んでくれた方が暖かい言葉をかけてくださるからだ。調子に乗れているかと言われるとまだわからないけど、感想の一つ一つが更なる高波に挑戦する勇気を与えてくれる。

調子に乗るなと言われる?

大いに結構。もっともっと調子に乗って、乗りまくれば、手のひらを返したように何も言ってこなくなるから。それでも怖いと思っている人に、岡本太郎の著書「自分の中に毒を持て」からこの言葉を届けたい。

挑戦した上での不成功者と、挑戦を避けたままの不成功者とではまったく天地のへだたりがある。挑戦した不成功者には、再挑戦者としての新しい輝きが約束されるだろうが、挑戦を避けたままでオリてしまったやつには新しい人生などはない。ただただ成り行きに任せてむなしい障害を送るにちがいないだろう。

少し厳しい言葉かもしれないなと思いつつ、僕も波をスルーしそうな時はこの言葉を思い出して自分を奮い立たせている。

そうして調子に乗る人が増えれば、そこに便乗してやりたいことを実現できる人が増えるのではないか、と思っている。

調子に乗るのが難しい世の中だけど、そういう空気だからと諦めず、前に進む人が増えればいいなと思うのだ。


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