JKのころ、百合小説みたいな片想いをしていた


始めに、この記憶をこうして公開する理由は「客観的に見てかなりエンターテイメントなので、もういっそ娯楽として消費されることによって実らなかった想いの成仏を促そう…」というものです。
何かの足しにしてくれ。徒花と散った私の青春も浮かばれるだろう。多分。


片想いの相手となる女の子(以下彼女)は、幼稚園からの幼なじみです。今のところ、人生で一番好きだった人です。
(あまり関係はないのですが、私が他に好きになったりお付き合いをした人は全員異性です。念のため。)
幼稚園、小学校あたりは特別仲良くもなかったのですが、中学でクラスが同じになりかなり距離が近くなったと記憶しています。
その頃から可愛いヤツだなあとは思ってはいました。友人として相当好きでした。

脳内アバターはデレマスの乙倉悠貴ちゃんにしておいてください。つまり細身で明るく運動神経抜群、ショートヘアに大きな目が印象的な、ハツラツとした可愛い女の子です。私とは何もかも真逆の。
閑話休題。

私の感情がバグり始めたのは、少し遠方にある、同じ高校に入学してからでした。
明るく人気者の彼女が、同じ中学からの親しい友人として私を贔屓したのが良くなかったんだと思います。
私はなかなか高校に馴染めなかったのもあり、彼女が私を特別扱いする以上に、私にとって彼女が特別な存在になっていきました。

もしかしたらあれは恋なんかではなく、依存と醜い友情の延長だったのかもしれません。今となっては確かめる術もないのですが。

中学生で文化部だった超インドア派の私は、彼女に勧められるがまま同じ運動部に所属することになります。絶望的運動オンチなのに。
放課後毎日一緒に汗をかき、部活のあとは会話をしながら二人の家まで長い時間自転車を漕ぎ帰る日々。気付いたときには感情はバグり切っていました。
このあたりで、私は彼女への、恋が友情か分からない感情を自覚し始めていました。
絶対に口にしてはいけないと思いました。彼女はきっと、私に友人以外の関係を求めてはいない。確認するまでもなく分かりきっていました。
友人という肩書を失ったら、私と彼女を繋ぐものはなにもないということもです。

部活の後、夕闇のグラウンドを二人きりで整備した後の出来事をまだよく覚えています。
整備が終わっていよいよ星が現れだした空を、二人ベンチから眺めていました。
私は特に何も考えず、ボーッと空を見ていました。しかし彼女は何を考えていたのか「こうして二人で星を見るなんて、まるで恋人みたいだね」なんて言ったのです。冗談めかして。
彼女が、私の気持ちを知らないことだけが確かでした。私は何も返事ができませんでした。


夏には合宿もありました。少年漫画さながらの、ラッキースケベという概念に初めて遭遇したり青春(?)だなあと後から思うのですが彼女にはあまり関係がないのでそこは割愛します。
話を戻します。合宿の夜、バーベキューの後にこっそり彼女は話しかけてきました。
「今日、ふたりだけで徹夜しない?」
私は特に断る理由もなかったので二つ返事で頷きました。
夜、大部屋で同級生や先輩が寝息を立てるなか、抜き足差し足で、二人だけで隣の少し小さな部屋に行きました。
何をするわけでもなく、他愛もない話をしながら、窓から明けていく空を眺めていました。
私はそのとき、日の出の光景というものを初めて他人と共有したと記憶しています。

しかし、私が彼女の”一番”である期間はそう長くも続きませんでした。
彼女が男子に告白されたのです。彼女は告白に「はい」と返していました。
彼女はそのことを、私に真っ先に話してくれました。
男子もまた明るく人気者、おまけに運動神経抜群です。何より愉快な”良いヤツ”でした。彼女ともきっとうまくやれるでしょう。
否定する理由はありませんでした。私は、「おめでとう」しか言うことができませんでした。

喉を焼くような嫉妬にまみれた、地獄の日々が始まりました。
私は彼女の”一番の親友”として、彼女ごしに二人の仲が縮まる様を眺めることになります。
彼女は恋愛について困ったら、第一に私に相談していました。私も親身に話を聞き、答えました。

「キスをするときに唇が切れていたら嫌われるかもしれない」「コスメ詳しいよね、一緒に来て選んでほしいな」
そんなことを言われ、部活の帰りにリップクリームを買いに行ったこともあります。
彼女は、今まで唇が切れるといいながら部活の合間に給水機の水で口元を湿らせていたような女の子だったのに。
好きな女の子とコスメを選ぶ時間は純粋に楽しいものでしたが、長い帰り道で別れた後は苦しさだけが残りました。
私が選んだリップクリームを塗って、彼氏とキスをするのか。二人きりで。
何だかそう考えると、楽しかった時間も、存在した事実を否定されるような感じがしました。

彼女と二人きりで海に行ったこともありました。
「彼氏と行きたいから下見をしたい」というクソみたいな理由です。
でも、名乗りをあげたのは私自身で、彼女も あなたがついて来てくれるなら嬉しい。みたいなことを言っていたような気がします。

幸い高校から海はそう遠くありません。部活帰りに、夏の夕焼けの海に行きました。
浜辺に着くと、足が濡れると困るから、と二人して靴を脱いでしまいました。昼間の太陽で砂が灼けているとも知らずに。
すぐに靴を履きなおせばいいのに、熱い熱いと言いながら浜を二人で駆けまわりました。
どんな理由から始まっていても、その時幸せだと思ったことだけは事実でした。きっと一生、あの時の気持ちは忘れません。
熱を持った足の裏を、寄せる波が冷やす感覚も。

翌日の部活で、私たち二人は足裏の軽い火傷でランニングが多少の苦痛でした。
しかし理由が理由なので、そんなことで走れないだなんて先輩はもちろん誰にも言えません。二人で「やっちゃったね」と、そんなことを言って、痛みを堪えて走りました。
いけない秘密を共有しているようでした。


しばらくして私は同じ部活の男子に告白されるのですが、断っています。だって、好きな人がいるから。
しかしそれを後から知った彼女は「どうして断ったの?他に好きな人がいたりするの?教えてよ」なんて言うのだから困ってしまいました。
キミ、キミだよ。
喉元まで出かかりました。私は代わりに「別に、いないよ。タイプじゃなかったから」とだけ返事をしました。

その後、私は彼女たちとは全く関係のない健康上の理由で転学し、いろいろありその際に知人の連絡先を全て消しました。
なので、私と彼女の話はこれだけです。

そのあとはお付き合いしたり、何人かの人といろいろあったのですが、未だに本当の意味で誰も好きにはなれていません。

心の傷なのか、美しい思い出なのか、未だ判断しかねている記憶の話でした。

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