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自宅で研究者という道

 いわゆる「在野研究者」がScience誌の表紙を飾る研究論文の著者一人になる…。

 こんな心躍るストーリーがNHKで紹介された。

 記事はこれだ。

 これは9月29日朝の「おはよう日本」で紹介された。以下はNHKプラスへのリンクで、放送部分にダイレクトに飛ぶようになっている。いずれリンクが切れるのでご注意。

 取り上げられたのは萩野恭子博士。

 萩野博士がフルタイムで研究機関などに所属していない「在野研究者」という側面が強調されているが、論文の内容が画期的だ。

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk1075

 さすがScicenceの表紙になっているだけはあり、窒素を取り込む細菌が共生し、オルガネラになったという話でもあり、かつ窒素を取り込む細菌という応用可能性も魅力的だ。

その結果、従来、この藻の細胞には窒素を利用できるバクテリアが共生していると考えられてきましたが、実際にはバクテリアは共生関係ではなく、「オルガネラ」と呼ばれる細胞の一部として藻と一体化しつつあることがわかったということです。
このことから、この藻は窒素を直接取り込んで利用する能力を獲得しつつあるユニークな生物だと考えられるとしています。

https://www3.nhk.or.jp/lnews/kochi/20240508/8010020442.html

 そのあたりは専門家に任せるとして、今回は、萩野博士が在野研究者であるという点をフォーカスしたい。

 NHKの記事や放送、reseachmapの業績などの情報を総合すると、萩野博士は子供との時間を増やすために、あえて自宅に研究室を作って研究されているという。

 そして、完全に独立しているというわけではなく、ときに高知大学の助教などのポジションを得ている時期もあり、現在も高知大に客員のポジションを有し、科研費を取得し続けている。

 パートナーの方も研究者だ。夫婦別姓のようだ。

 そういう意味で、ポジションを得ようと思えば得られるけれど、自分で在野の道を選んでいるということになる。

 萩野博士は見方を変えれば、ほぼ高知大所属のプロフェッショナルな研究者ともいえる。パートナーがプロフェッショナル研究者であり、支援も収入もある。こうした点を踏まえると、在野独立というのはちょっと違うのではないか、という声もあるが、在野研究者に明確な定義があるわけではなし、自宅に研究室を開く「バイオパンク」「DIYバイオ」的な側面からも非常に興味深い。

 そもそも在野研究にこうあるべき、などという正解などないのだ。

というのも、在野研究と一口にいっても、それは〈就職している? 結婚している? 子供は?/どんな研究を? どれくらい? どの媒体で?〉といった多様なニーズと制約のなかで個々人が選ばねばならないものだからだ。在野の幅広さ(前項の問い)と研究の幅広さ(後項の問い)、この掛け算のなかで個々の研究生活が決まるのだから、自然、在野研究は多様なものにならざるをえず、唯一の正解を提示するのはむしろ危険なことだ。

https://gendai.media/articles/-/67039


 萩野博士がある人にとって「在野研究者」ではないとしても、それは仕方ない。それを止める気はないが、こうしたアカデミアの境界を軽々と超える存在はもっといていいと思う。

 在野研究者に関しては、私もかねてから注目し、いろいろ記事も書いてきた。

 これらの記事を書いたのが、2018から19年。私自身が近畿大学の無期雇用の講師を辞めた前後だ。

 noteにも在野研究者に関する記事を書いている。

 在野研究者の動向も注視しており、今年話題になった以下の記事からもいろいろ考えさせられた。

 私自身、研究自体はやっていないが、マンションの一室を事務所にしてマイクロ会社を作り、病理検査を遠隔などで行ったり、科学技術政策ウォッチャー兼科学ジャーナリスト賞受賞者として記事を書いたりしている。

 在野という意味で、在野研究者に対しシンパシーを感じる、というかほぼ仲間と思っているわけだ。

 というわけで、今回の記事、放送には、一人の在野人として非常に勇気づけられた。

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