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「病理医が明かす死因のホント」出版と近況

 ご無沙汰しています。

 4月からちょっとだけ働き方が変わりました。やっていることは同じで、フリーランス病理医、かつ行っている病院も同じなのですが、新しい科の検体が出るようになった病院があって、検体数が増えると同時に、時間がかかっています。

 一日90件の病理組織標本が出る日もあって、いっぱいいっぱいな感じです。仕事があって有難いのですが、睡眠時間が減っており、ちょっときついで状況ではあります。

 新型コロナウイルス蔓延の状況ですが、私の仕事はあくまでがんを中心に、病理組織標本を見ること。通常医療です。しかし、そうした日常を守ることも重要だと思って頑張っています。

 さて、そんな多忙な日々の中、本を出しました。日本経済新聞出版から発売された「病理医が明かす死因のホント」です。

 1年ちょっと前の「研究不正と歪んだ科学」(日本評論社、共著、編集)以来、単著で言えば、「嘘と絶望の生命科学」(文春新書)以来となります。

 実は死因に関する本を出すという計画は、前の単著である嘘と絶望の生命科学より前からあります。

 もう言ってもいいと思いますが、「死の科学」として講談社のブルーバックスで企画が通っていました。ブルーバックスで本が出せるというのは本当に嬉しくて、気合も入っていたのですが、企画が通ったすぐ後にSTAP細胞事件があり、前単著を優先して書きました。

 その後も何度も書こうと思って、3〜4万字程度は書いたのですが、死の科学は生半可な気持ちでは書けるものではないタフなテーマで、書いては消し、書いては消しの繰り返しになりました。病理診断の仕事などて手一杯な状態になったこともあり、苦戦しました。

 そうこうしているうちに、担当編集者さんの退職等もあり、企画は立ち消えてしまいました。最近ニュートンが死の科学の本を出しており、旬なテーマであったのですが、全ては書けなかった自分の責任です。講談社さんにはご迷惑をおかけしました。

 岩波科学ライブラリー(すでに「わたしの病気は何ですか 病理診断科への招待」を共著で出版)とブルーバックスの2つから本を出すことができたら、科学読み物の書き手としてステップアップもできたかもしれないと思うと、チャンスは前髪しかないと痛感しています…。

 そんな事情をSNSに書いたところ、いくつかの出版社から書いてみませんか、というお誘いがあり、出版に至ったわけです。日経BP(日本経済新聞出版社)の皆様、特に編集の櫻井さんには心より御礼申し上げます。

 とはいえ、死の科学はタフなテーマで、生半可なことでは書けないのは変わりありません。しかもフリーランス病理医としてかなり多忙な日々を送っているので、オリジナル記事を書く余裕がなかなかありません。

 そこで利用したのは、Yahoo!ニュース個人に書いていた死に関する記事でした。

 2014年のSTAP細胞事件の頃、Yahoo!ニュース個人の著者にしていただき、時々記事を書いていました。最初はSTAP細胞事件の記事などを書いていたのですが、2015年に著名人の死に関する記事を書き始めると、想像以上に反響がありました。

 死に関する記事で、その月の良記事に送られる「Most Valuable Article (MVA)」を2度受賞させて頂いたり、100万以上のページビューを超える記事が何本も出るなど、記事に手応えを感じていました。

 この記事をまとめて一冊の本にすればいいのではないかと思ったのです

 とはいうものの著名人の死で記事を書くことには賛否あり、ご批判をいただくことも多々ありました。

 そこで、著名人の名前は一部を除いてイニシャルにして、あくまで著名人の死から着想を得た死因の解説ということにしました。

 とはいえ、過去に書いた記事の利用ということではありますが、データは最新にしなければならず、文章や内容も適切なものに変える必要があり、それなりに時間はかかりました。編集担当の櫻井さんにおんぶにだっこで、なんとか一冊の本にまとめた次第です。

 新型コロナウイルスの解剖例や、臨床検査技師の仕事の重要さなど、他の本ではあまり触れられていないことも書いており、自分が読んでもそこそこ面白いのではないかと思っています。Yahoo!ニュース個人だけではなく、その他の媒体に書いた記事も大幅改変のうえ収録しているので、Yahoo!ニュース個人の記事と全く同じ、というわけでもありませんので、ぜひ手にとって頂けたらと思っています。

 出版はAmazonでは5月8日、書店では5月11日。出版直後の日経新聞の広告で、Amazonの順位は最高175位まで上がりました。ベストセラーというほどではありませんが、じわじわと読んでいただいているようです。Amazonの評価も平均4点台いただいています。 

 本の出版のタイミングで書いたYahoo!ニュース個人の記事(新型コロナワクチン接種後の死亡例〜検証は十分か?病理専門医の視点から)が、4度目のMVAを受賞するなど、死因究明に関心を持たれている方は多いなあと思っており、この本が死因究明など死のことを考えるきっかけになればいいなあと思っています。

 さて、元々の主題である死の科学を解説する本ですが、こちらも出版計画を立てています。やはり相当タフな内容であり、事例紹介だけではとても書けません。

 しかし、強力な共著者を得て、少しずつ書き進めています。なんとか今年中には目処が立てられればと思っています。乞うご期待。

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