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未来は常に過去を変える

学生時代、工学部にいながらも歴史研究(のようなもの)をしていた。歴史を探る手法や意義を十分に学び考えたわけではないので、それを専門として向き合ってきた人からは叱られそうだ。それでも、歴史とは何か、なぜ歴史を学ぶのかという問いは、今でも頭の片隅にくっついて離れない。

先人の蓄積を知ることは、なんとなく必要そうで、大事そうだ。だけど、必ずしも直接的な教訓を得られるわけでもない。
そもそも、教訓を得ようとしている時点である種の偏見を持って過去を見ているのではないか。では、過去を見るってどういうことなんだろう。

数か月前、たまたま目に留まった小説と新書を一緒に買った。本当に適当に買ったのだけど、引き合わされたかのように、過去を見る視点についての共通する考え方がそれぞれの重要なテーマとして書かれていた。

『音楽は、未来に向かって一直線に前進するだけじゃなくて、絶えずこんなふうに、過去に向かっても広がっていく。』
『人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。』 ー 平野啓一郎 「マチネの終わりに」
『歴史とは、歴史家と事実との間の相互作用の不断の過程であり、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話なのであります。』 
ー E.H.カー 「歴史とは何か」

過去を見る目は、いまの価値観(いま何が重要か/何が役に立つか)から生まれたものだ。いまが未来に移っていくにつれ、未来の価値観から新たな視点が生まれる。その結果として過去はこれまでとは全く違った姿で表れる。
もちろんこれは研究に限った話ではない。日々のくらしの中で、ある出来事が振り返る度に違った意味を帯びているというのは誰でも経験があると思う。

時間の流れの中で私たちは完全に客観的な存在ではなく、変化し続けるいまと過去の相互作用の中にいると意識することは、過去を正しく見つめ、よりよい未来をつくるために大切なことだと思う。

歴史とは何か、なぜ歴史を学ぶのかという問いにはまだ答えられそうにないけど、過去を見ることがどういうことなのか、少しだけわかった気がする。

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