憧れのリリィについて
感情の起伏が激しい私は、安定感に憧れがある。
私の思う安定感というのは、関わる範囲を決めていること、努力すべき上限と下限がわかっていること、ひとりでいる時間と誰かといる時間のバランスがちょうどいいこと、そして必要なときに必要最低限の要求ができること。
つまりは、自分を理解していて、周囲との距離感をいちばん快適な状態に保ち続ける能力があることだと思っている。
大きいしゃぼん玉をまとっていて、必要があれば割る。用事が済んだらまたまとう。そんなイメージ。
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それがリリィだった。
リリィは実家の猫で、赤ちゃんを3回産んだ。
産んだばかりの赤ちゃんが別の飼い主さんにもらわれていったとき、子供が大怪我をして帰ってきたとき、我が子が自分より先に死んだときも、リリィは大きいしゃぼん玉をふんわりまとっていた。
いつも、ほかの猫と取り合いにならないタイミングですうーっと歩いてきて、ちょこんと膝に乗って甘えてくる。ゴロゴロ喉を鳴らして、少しするとまたすうーっと去っていく。
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私が中学生の頃に生まれたリリィは、歳をとってグレーの毛と縞模様が少し濃くなったけど、青い目は綺麗な青のままで、痩せたり、毛が抜けたりもしなくて、たまにじーっとこっちを見つめて、すうーっと甘えにくるリリィのままだった。
体調が悪くても、リリィはずっとしゃぼん玉をまとっていた。
丸まっている時間が増えて、彼女が亡くなるとき私は東京にいたけど、家の裏でやっぱり丸まっていたらしい。
リリィがいない事に気付いた父親が、丸くなったリリィを見つけて連れてきて、家の中で息を引き取った。
猫は死ぬとき姿を消す。
うちはいままで50匹以上の猫と一緒に暮らしてきた。
出て行ってそのまま帰ってこなくなる子もたくさんいた。
一回いなくなるけど、最後にほんの少しだけそーっと甘えてくるのがリリィらしい。
たくさんの猫がいて、みんなそれぞれ性格が全然違う。
毎日のように傷を創って帰ってくる喧嘩っ早い子、危なっかしく道を走って渡るやんちゃな子、挙動不審で怖がりな子、犬みたいに甘えん坊な子。
そんな個性がキラキラと光る中で、一切点滅することなく、ギラギラ主張するでもなく、じーっと動かずに一点光っているのがリリィだった。
私はそんなリリィに憧れていて、大好きだった。
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