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【読書】「密会」ウィリアム・トレヴァー

なんと美しい一文だろうと陶酔した。

秘密の影のなかに、暗黙の愛を大切に思う裏切りの影のなかに、あの冬の花がひっそりと散らばっていた。

グレイリスの遺産

新潮社のクレスト・ブックスは外れな装丁がない。この本もタイトルにぴたりとマッチしている。
12篇の短篇が収められているが、どれ一つとして分かりやすかったり、大団円だったりしない。
一篇、一篇に潜んでいる執着、苦悩、諦め、孤独、懐古、誰にでも一つや二つ潜んでいるそれらをつまびらかにされる。それも美しい文章で。

私は表題作の「密会」より、
文学作品を通じて心を通わせた男女の、女性の死によってもたらされた男性の回顧「グレイリスの遺産」が良かった。

彼らは裏切らなかった。彼女はすでに終わってしまった過去を、彼はまだ続いている生活を。

思い出のなかでは、すべてが永遠にそこにあり、何も変えることはできない。

グレイリスの遺産

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