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裏・桃太郎 その8

「なんだ?どうしたんだ・・誰もいないのか?」
桃太郎は村の入り口にたち、戸惑いました。


カァァァ・・カァァァ・・・
カラスが口々に何かを言っています。
「こんなにカラスが集まってくるなんて、
何かがあったのか?」

「どうしたんだ・・・みんなは?」

桃太郎たちが奥に進み、
角を曲がると・・・

そこには・・・首を吊るされ、夕闇の風に揺れる人間が3人。
衣服は拷問によってか、赤黒く、ボロボロに。

桃太郎は声を失い、
駆け寄って行きました。

まさか・・・そんなはずはない。

胸の鼓動が大きく、なって行きます。

吊るされた死体の顔を見た、
桃太郎は震え出します。

握った拳からは血が滲んでいました。


夕闇の静寂を割くように、カラスの声が響き渡ります。


その亡骸はおせんと茂吉、そして・・・鬼の沙夜でした。


茂吉とおせんは鬼ではありませんでしたが、
桃太郎。つまり鬼を育てたことを罪に問われ・・・
桃太郎がいない間に打首にされてしまったのでした・・・
紗夜は鬼の忍として、その存在が発覚してしまい、
同じく打首に処されました。


「うああああああ!!」

桃太郎は怒り狂いました。

「村長!どこだ!」

怒り狂い・・・目からは血のような赤い涙が溢れました・・・・

「あああああ!あああああ!」

声の限りに叫びました。四つん這いになり、拳や頭をドンドンと地面に打ち付けました。

赤い涙を流すたびに桃太郎の体は大きくなり、やがてすっかり、
鬼ヶ島で戦った赤鬼のような体になっていました。

桃太郎はふと、村長の気配を感じ、その方へ追いかけました。
「おおおおおおお!」

村長はその桃太郎の声を聞き、急いで、
身を隠す準備をしましたが、
一瞬遅く・・・桃太郎に捕まってしまいます・・・

桃太郎は、村長の頭を右手に握り、全身の力を込めます。

ゴリッ・・グシャッ!
大きな音を立てて、村長の頭は粉々に砕けました。

しかし、桃太郎の怒りは何一つ収まっていませんでした。
止めどなく、怒りと憎しみ、悲しみが湧いてくるのです。
時折、雄叫びを上げながら、全てのものを薙ぎ倒していきます。

村人や、鬼がいても構わない。全てを感情のままに、
心のかぎりに腕を足を振り回すのでした。

やがて、すっかり日も暮れ・・・静かな夜が訪れました。

全ての生物が生き絶えてしまったかのような
静かな静かな夜でした・・・・

桃太郎は、村の人々のために鬼と戦いました。
しかし、鬼を裏で操っていたのは、
村人たちであり、両親を殺したのも、
村人たちだったのです。

桃太郎は何一つ信じることができなくなってしまいました。
こんなことなら、何も知らない方がよかった。

なぜ自分は鬼として生まれたのだろうか?
なぜ、父上、母上は俺を拾い、育てたのだろうか?
なぜ、村長は鬼たちを従わせ、人々を殺害したのだろうか?
なぜ、青鬼は俺にこの結果を背負わせたのだろうか?

なぜ・・・なぜ・・・

いくら問いかけても答えは出ませんでした。

全てに絶望した桃太郎は、
以前のような桃太郎ではありませんでした。
赤い涙を流しきり、目は蒼く染まり、
体も青鬼のように真っ青になっていました。

まさに鬼ヶ島にいた、邪鬼のようになっていました。

もう何も望むものはありませんでした。
おそらく自分の感情はもう二度と動かないだろう。
その予感だけがありました。

青鬼となった、桃太郎は全てに絶望し、
一人、鬼ヶ島へと戻っていきました・・・・




おしまい。

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