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オオカミ少年の真実 その1

 よぉ、ヤックル・・・

暗い顔して、どうしたんだ?


「また一人ぼっちになっちゃった・・・」


一人ぼっち・・・か・・・まぁ、仕方ないさ。


「悲しいんだ。」

・・・・でも、
この結末は、ヤックルが望んだことでも、
あったんだろう?違うか?


「違うよ!『一人になりたい』って言ったけど、
嘘だった・・・
確かにそう言ったけど・・・
本当はそうじゃなかったみたいだ」


「村の人たちとはあんまり仲良く出来なかったけど、
みんな死んじゃって、
はじめて、悲しい、寂しいって思ったよ。」


悲しい・・・か・・・


「・・・・そう、悲しい。」


その割には、泣いたり叫んだりしないんだな。

「そうだね。
悲しい時はもっとこう・・・、
泣いたり、叫んだり、
するのかもしれないけど・・・僕には違うのかな。」


「うまい言葉が見つからないよ・・・・」

ふぅ、
わからないな・・・

「僕も、自分がわからないよ・・・」


悲しみの感じ方なんて、人それぞれだろ?
それが、『ヤックルにとっての悲しみ』でいいんじゃないか?

「そうだね。」

戦争の時や、両親が死んだ時とは違うってことか?

「わからないけど、ここが戦地だったわけじゃないから、
直接、戦争の『死』を感じてたわけじゃないと思う。
両親の時のことは・・なんでかわからないけど、
全然覚えてないから・・・」

なるほどな

「まるで空っぽに呑まれそうだ・・・」

やれやれ・・・
むしろ俺はそのためにいるんだと思ったんだがな。

「だってさ・・・この神葉村の人は・・・
全員死んじゃったんだ。」




「オオカミが出たぞー!」

それは、ナドレとの約束だった。
戦争は多くの人を傷つけ、たくさんのものを奪っていった。
それは、都から遠く離れた山奥の村でも、同じことだった。
この神の葉と呼ばれる植物に覆われた村、『神葉村』も同じ。
たくさんの犠牲を払った。


「オオカミが出たぞー!」


この国は戦争に敗れた。
そのうち侵略軍がこの村にもやってくることだろう。
その時には、またきっとたくさんのものが奪われ、
失われるのだろう。

そして、それが元に戻るにはきっと、
何十年もの歳月がかかるのだろう。

村人は皆、失ったものの大きさと、
この先の言いようのない不安に俯いていた。


「オオカミが出たぞー!」


ナドレは言った。
「だからだよ、ヤックル。思いっきり嘘をつけ!」

「どういうこと?」僕は意味がわからず聞き返した。

「戦争をを忘れるわけじゃぁない。むしろ、忘れないためさ。
一日一回笑わせてやるんだ。『しょうがないやつだな』って
思われてもいい。馬鹿になれ!
あいつらを見てみろ。シケたツラして暮らしてやがる。
皆、戦争の犠牲者さ。
でも、
俺らは前に進んで行かなくちゃぁならない。

だから、笑うんだ。
くだらないことでもいい。バカを見せてやればいい。
いや、むしろしょうもないことの方がいい。
前を向くんだ。そうだろ?
ヤックル!お前がこの村を元気づけてやれ!」


「オオカミが出たぞー!」


一日一回、しょうもない嘘をつけ。
それがナドレとの約束だった。だから。

その2に続く

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