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オオカミ少年の真実 その4

ナドレは戦争で家族を亡くしていた。
戦地に行き、負傷し、家に戻った時には、
彼の村は丸ごと焼き払われ、遺体だけがなんの弔いも受けず、
放置された状態だったそうだ。

胸が苦しくなるな。

なんで、人は戦争なんてするんだろう?
良いことなんてひとつもないのに・・・

「戦争は儲かるんだよ!」ナドレは言った。
僕には言ってる意味がわからなかった。
都にいる人はみんなお金を持っていて、
食うに困る状況じゃないはずだ。

「なのにもっとお金が必要なの?」

「都にいる奴の大半は貧しい人間さ。
家のない浮浪者だって戦前からウヨウヨしてた。」

そうだったんだ。

「それに、お金には魔力がある。
お金があればあるほどもっと欲しくなる。
そういう魔力があるんだ。」


「そうなの?暮らせるお金があれば満足しそうだけど・・・」


「そうはならないんだよ・・・
都ではお金を持たないやつはどんどん貧しくなり、
お金持ちほど、どんどん豊になっていく。
つまり、どっちもお金に囚われているのさ。
この村は良いな。
ここでは、自然に囲まれてそんな都のことも忘れさせてくれる。」

「それが、戦争をする理由にどう繋がるの?」

「戦争では武器や食糧もたくさん国が買ってくれる。
外国を侵略すれば、そこからあらゆるものを奪い生み出せる。
お金、土地、人、文化。

それに兵隊には恩赦が与えられる。
元は罪人でも、軍で活躍すれば、英雄さ。」

少し溜めを息をつき、ナドレは続けて言った。

「しかし、先の大戦でこの国は敗戦国になっちまった。
数年単位で旱魃も続いている。
これからますます貧困は広がっていくだろう。」

「じゃぁ、これから僕たちはどうしたらいいの?」

「そうだな・・・それは非常に難しい問題だ。」

そう言って、ナドレはしばらく黙った。
そして、口を開き、
「どうすればいいか・・・はヤックル。
お前自身で見つけるんだ。」

大人はずるいな・・・
僕はそう思った。

「ただ・・・そうだな・・・とりあえずは、
村の人たちを笑顔にするところから始めてみたらどうだ?」

そう言われて、僕は「オオカミが出たぞ」と言うようになった。


そういえば、
ナドレは、何歳くらいだったんだろう。
聞いたことがなかったな。
僕くらいの子供がいてもおかしくない年齢だったに違いない。

ただ、
いつもボサボサの髪で、髭も伸びていた。服もくたびれていた。
だから、年以上に老けて見えていた気がする。

戦争では、敵地で作戦指揮をしていたそうだ。
敵軍の罠にハマって命からがら生き延びたそうだ。

勇敢な戦士の話を聞くのが僕は好きだった。

若い頃は、ずっと前線で戦っていたこと、
徐々に功績が認められたこと、
飲み水がなくなって、馬の小便を飲んで生き延びた話。

でも、戦争で右足と左手を失ってせいで、生活は大変そうだった。
外でする仕事は基本的に僕が請け負った。
僕も幼い頃に左手を失っていたから、
お互いに補い合いながら暮らしていた。
きっとそれが良かったんだと思う。

そうなんだ。ナドレと僕は似たもの同士だったんだな。


そして、ナドレは父親のような存在でもあった。

悪いことをすれば叱られたし、いいことをすれば褒めてくれた。

きっと、ナドレにとっても、
僕は息子みたいな存在だったんだろう。


ただ、ナドレの体調は思ったより良くならなかった。
お医者さん曰く、『傷から入ったバイ菌が原因だろう』って。


その5へ続く

エニヲ

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