思弁逃避行 24.幼馴染のエビフライ

 定食屋でメニューを眺めている時間が好きだ。
 メニューから食べたいものをテキパキと決める。これは私の苦手なことベスト20には必ず入る。しかし、うまい定食屋ならばその悩んでいる時間も愛おしい。

 そこで目に入ったのはエビフライ定食だ。
 そういえばエビフライをここ数年食べていない。久しぶりに食べてみるのもいいかもしれない。普段自炊もするがなかなか揚げ物は作らない。加えると揚げ物を食べるならば、ついついトンカツや唐揚げを選んでしまいがちだ。頭の中でエビフライの香り、食感、味が掘り返される。
 エビフライ、いいじゃないか。なんだかとてもエビフライが食べたくなってきた。そうだ、私は昔からエビフライが好きだった。お弁当に入っていたり、母親が夕飯に出してくれた日には飛び跳ねて喜んだ。エビフライ定食を注文しようじゃないか。

 エビフライ定食 1,500円

 たっか。
 こんなに高い?嘘でしょ。
 私は焦りながらトンカツ定食へ目を移す。

 トンカツ定食 1,200円

 なんで?????
 トンカツ定食の方が安いではないか。私はエビフライを侮っていた。なんとなしにエビフライよりもとんかつの方が上だと思っていた。エビフライって結構値段するんだ。エビフライが1本だけ混じっているミックスフライ定食は1,000円くらいだというのに。

 その辺りでやっと私は気づいた。エビフライは幼馴染なのだ。
 エビフライは私が幼い頃から常に一緒にいてくれた。エビフライがいるだけで私は笑顔になることができた。
 しかし、それも時を重ねるに連れて当たり前になっていった。慣れていってしまったのだ。思春期になれば私はいつの間にか照れ臭さからか、唐揚げやトンカツといったボリュームのあるものとの時間に惹かれていき、知らぬ間にエビフライと距離を置くようになっていた。それ以降エビフライのことを全く見なくなったわけではない。時折横目にエビフライを追っている事さえもあった。しかし自分からエビフライに関わりにいくことはなかった。
 そして私は成長し、自分のお金で自分の飯を買うようになった。そうなってから私は気づく。エビフライには、いや彼女には、少し頑張らないと手が届かないのだ。今まで近過ぎて気づけなかったが、彼女は人気者だったのだ。他のフライと一緒になら彼女と会うことは容易だった。だが彼女だけに会うとなると、こんなにも遠い存在になってしまうのだ。
 結局今の私は彼女と正面から向き合う勇気がない。財力もない。私は勝手にあの頃の思い出のままの彼女を自分の頭の中に閉じ込めていた。自分が成長すると同時に彼女も成長していたのだ。
 今の私は大雑把でフレンドリーな唐揚げと共に日々を過ごしている。しかし頭のどこかで、華奢でさっぱりとしたエビフライの姿を追ってしまうのだろう。

 エビフライ、もしかしたら君はこの文章を読んでくれていますか。
 もしそうだとしたら、もう少しだけ待っていて欲しい。地位と金と名誉をかき集めて必ず君に会いにいきます。例えその時すでに君の隣にふさわしいタルタルソースがいたとしても、私は必ず君を満足させてみせるから、どうか、どうかもう少しだけ僕に時間をください。

 追伸 こっちはエビフライをウスターソースでいきたいのに「気を利かせて先につけておきましたよ」と言った具合に勝手に先にタルタルソースがかかっているのはいかがなものでしょうか。あんな男とは早く別れてください。

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