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多和田葉子『穴あきエフの初恋祭り』(文藝春秋)

そんなに多和田葉子のまめなフォロワーではないので、新作が出ても気づいていないときもあるし、雑誌に発表されている作品なども気づかないことが多い。図書館の蔵書検索をしていて、この間読んだ『星に仄めかされて』のひとつ前の小説って何かな、と調べて見つけた『穴あきエフの初恋祭り』を読んでみた。藤倉麻子のビビッドな装丁が印象的。短編集で、「文學界」に2009年から2018年にかけて発表された7つの短編が収められている。それぞれの作品に関連性はないが、どれも、現実と幻想のあわいの中で生きているような人の語る世界の中で、読者は翻弄される。作者が長くドイツに住んで、ドイツ語でも日本語でも創作する人、という印象が強いので、外国文化と自分のアイデンティティの衝突、みたいに読んでしまいがちだが、外国が舞台或いはテーマになっているのは4編で、日本(と思われる場所)を舞台とした作品と一つおきに配されている。
あらすじを語ることに意味はなく、そもそも物語に結末はない。その中で唯一、くすっと笑ってしまうオチのあった、巻末の「おと・どけ・もの」が妙に心に残ったが、それは、この本を読むに当たってはちょっと邪道な感じがしなくもない。
作者の眼に前に浮かぶ、幻想を垣間見る、そんな風に読む本。
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