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毎日読書メモ(182)庄野潤三を読み、至福の時を味わう

庄野潤三の作品について、2000年6月に、新聞に『鳥の水浴び』(講談社、現在は講談社文庫)の書評が出ていたのをきっかけに書いた記録を再録。この時点では庄野潤三の話が出来る友達はいなかったが、その後、友達で、庄野潤三が好きな子がいるのを発見し、別にトリビアルな話をして盛り上がるとかではないけど、しみじみ、いいよねぇ、という会話などするようになった。庄野潤三の死後、その友達からは庄野家の写真などをおさめた『山の上の家-庄野潤三の本』(夏葉社)を借りたりもした。
文中で、文庫になったりしない、と書いたが、実際は新潮文庫とか講談社文芸文庫とかにおさめられている。

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一昨日(2000.6.18)の朝日新聞の書評欄に、庄野潤三『鳥の水浴び』(講談社)の書評が出ていた。
松山巌(評論家)によると、若い友人と本の話をしていて、庄野潤三の話題が出たことがあり、驚いたとのこと。わたし自身、友人等と話をしていて、庄野潤三の話題になったことはない。淋しい。誰かと心置きなく庄野潤三の話をしたい。
と言っても、まぁ、別に評したり論じたりするような本ではない。こういう件りがよかったねーとか、そんなことをぽつぽつ話し合うだけだろう。

もう何年も、庄野潤三は文芸誌に、老夫婦の生活を描いた連作短編(エッセイに近いような気もするのだが、一応小説、というカテゴリに入るらしい)を1月から12月まで連載し、次の年の春先に、文芸誌を出している出版社から単行本を出す。特定の雑誌でなく、毎年大体違う雑誌に出る。去年は「群像」だったので、講談社から刊行された、という訳だ。たぶんそんなに沢山は刷っていないと思うし、文庫に落ちたりもしない。しかし、新聞に広告が出て、買いに行くと、注文しなくてもちゃんと店頭で発見出来るし、大抵、好意的な書評も出る。

初めて読んだのも、新聞の書評でいいことが書いてあったからだった。まだ実家にいた頃で、母が興味を持って、これ買ってきて、と言ったのだ。『インド綿の服』(講談社)、作者と、足柄山の奥に住む長女一家との交流を描く連作。とても楽しく読めた。

その後、今思いつくままにこのシリーズのタイトルをあげると『エイヴォン記』『誕生日のラムケーキ』『鉛筆印のトレーナー』『貝がらと海の音』『さくらんぼジャム』もっとあったと思う。実家とうちとばらばらになっていて、未整理だが、甘ったるいタイトルを見てもわかるように、どれもほんわかと、老作家の日常と、子どもや孫との交流が描かれている。何作も読んでいるうちに母は、悪人が出てこない、息子夫婦との交流もいっぱい出てくるのに、嫁姑の争いみたいのが片鱗もあらわれず、嘘くさい、と、ぶつぶつ言うようになったが、まぁ、だからこそ小説とも言える。繰り返し繰り返し、毎日の生活の中のささやかな喜びが語られる。読んでいて嬉しくなる。

10年ちょっと前にこの新作を読み始めてから、作者の古い作品も文庫で発見できる限り読んだ。
その中に「ひばりの子」という短編があり、デジャブが、と思ったら、中学校の国語の教科書に出ていた作品だった。当時は淡々としすぎていて、そんなに面白いとも思わなかったが、今読むと、既に世界が確立されていたことがよくわかる。

庄野潤三の作品については、なんの説明もいらない。ただ読んで、としか言えない。
ミステリもない。波乱万丈もない。
花を植えたり、おいしいおかずを近所にお裾分けしたり、宝塚歌劇を見に行ったり、孫の運動会を応援に行ったり、嬉しいこと、楽しいことが重ね重ねて描いてある。
何これふん、と思わず、一緒に嬉しさをわかちあってくれる人と、庄野潤三の話をしてみたい。

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