ツナギ4章(2)人質?
ツナギにとって何より嬉しかったのは、海辺から帰った3人が、奥で眠り続けている翌日の午後、じっちゃが八木村から戻って来たことだった。5人で八木村へ出かけた日から、21日目だった。
もう戻って来ないかも、じっちゃがほんとにいなくなる時が、いずれ来ることを実感させられて、床の中でしっかりせねばと決意しては、不安で揺れてもいたので、喜びはひとしおだった。
今度は叔父のテリが付き添ってくれていた。足はほぼ元通りになっていて、戻ったその日、さっそく持ち帰ったワラで沓 (くつ) 作りを始めようとしたほど、気力は盛んだった。ツナギは肩の力が抜け、笑顔が戻った。
テリ叔父は八木村のオサからの伝言を、オサに伝えた。ウオヤ、カジヤ、モッコヤたちの八木村の親戚先が、なんとか稲刈りと家の修理を終えたので、子どもだけでも冬の間預かってもいい、と言っているとの話だった。
オサは夕食時にその話をしてみよう、と答え、テリはその結果を待って、 1泊することになった。
夕べから丸1日眠り続けて、最初に奥の部屋からひっそりと、夕食の席へ出て来たのは、シオヤの親父だった。
2本の松明の明かりの中で、皆は雑炊を食べながら、八木村へ子らを預けるかどうかについて、少しざわめいている時でもあった。
やせ衰えて見えるシオヤの姿に、皆は静まった。
「おお、シオヤ、苦労かけたな。座って、めしにしてくれ」
オサがじっちゃとの間に席を作り、オサの妻がすぐに、椀の用意をした。
シオヤは座ろうともせず、こう言った。
「オサ、今、材木はどれくらい用意がある?もう一度イカダを組めるほどできているか?」
すると、モッコヤが大声で答えた。
「あるぞ。充分ある。オレたちずっと、頑張ったものな」
と皆を見回すと、いくつも頭が頷いた。シオヤはほっとしたように肩を落とすと、つぶやいた。
「それなら前以上の木材を、イカダに引いて行けるな」
「そのくらいは充分ある・・」
とモッコヤが言いかけると、じっちゃが口をはさんだ。
「そういう約束でもあるのか」
シオヤはうなだれると、重い口ぶりで続けた。
「前より2倍以上の木材を、イカダに組んで、持って行く約束で、あの船をもらえたのだ。それが届いたら、息子とカジヤは戻れることになっている」
じっちゃが即座に言い返した。
「人質 (ひとじち) にされたのか! 急がねば、雪で行けなくなるぞ」
ツナギははっとした。ゲンと同じ15歳のシオヤの息子が、帰れなくなる!人質とは、閉じ込められるのか?
シオヤが続けた。
「浜はガラクタの山で、その片づけと、潮汲みに我らも使われたのだ。崖の途中の坂道の脇に、屋根無しのかまどが5つ作ってあって、塩作りを続けていた。あの村では米は作れぬ。塩と米を交換するには、塩作りを止めてはいられないんだ。
揺れるたびに、かまどが崩れて、作り直すことになったり、海から水を何度も運ぶことになって、あのヤマジまでも疲れ果ててな」
じっちゃが声の調子を変えて、シオヤを手招きした。
「まずはめしを食って、話はそれからだ。苦労をかけたな」
オサも頷きながら、座をすすめた。シオヤは座ると、クマの端切れ肉入り雑炊を、むさぼるように食べ始めた。
海辺は、ここよりひどい被害だったのだ、とツナギは思った。
ざわめきで起こされたのか、まもなくヤマジとゲンが姿を見せた。ツナギはいそいで、サブとの間を空けて、ゲンの席を作った。
サブの向こうに座ったヤマジは、ひとまわり小さくなったようで、挨拶の声までやつれていた。2人にもめし椀が渡され、座るとすぐに、かっこみ始めた。その手が2人ともふるえていた。
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