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風の町に建つ小屋 〜北海道えりも町

畑や田んぼ、漁港などに建っている物置小屋や作業小屋の写真を撮り歩いては記事を書いています。
何かのお役に立ちそうにはありませんが、よろしければ、しばしお立ち寄りください。

10月下旬に北海道えりも町に行ってきました。
普段の小屋撮影では、行く地域を決めたら事前にGoogle Mapの航空写真やストリートビューを見て、訪れたい小屋をいくつか決めておきます。しかし、北海道は開拓地ゆえに市街地や集落の形成が国内の他地域と違っていて、同じやり方がなかなか通用しません。農家や酪農家の小屋はたくさんあるのですが、その大半が広大な敷地の奥まった場所に建っているために、道路沿いから所有者にお声がけしにくく気軽に撮影できないのです。太平洋側沿岸の漁港を見ても「これは!」という小屋に何故か出会えません。
とにかく、北海道の最南端の襟裳岬周辺に小屋があることだけはわかったので、向かうことにしました。

町内の旅館を早朝まだ暗いうちに出て、襟裳岬へと車を走らせていると、群青色だった東の空が徐々に明るくなり、水平線がオレンジ色に染まってきました。
前夜に宿のご主人が言っていたように、美しい日の出が見られそうです。

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岬の突端に建つコンブ漁の小屋を見つけ、それを撮影しようと車から降りると、海からの冷たい風が容赦なく顔に吹き寄せてきました。立って撮影していると、あおられて体が揺れるほどです。
海鳥が魚の群れを探しているのでしょうか。海上をせわしなく旋回しています。

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どのように撮ろうかと色々と悩んでいるうちに、あっという間に日の出がやってきました。初めは微かだった光がやがて力強くなり、それまで青く沈んでいた世界を赤く染めて一変させます。

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きれいです。

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日の出の撮影ピークはわずか5分ほどで過ぎていきます。寒さと緊張で固まった体にも陽射しが感じられるようになり、温まってきました。風の冷たさが先ほどより幾分和らいで感じられます。

岬を離れ、周辺を車で走らせていると、一見して待合所らしくない、いかついバス停待合所に出会いました。

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中を拝見。

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意外なことにバス停にトイレが併設されていました。どうりで普通の待合所に比べてひと回りもふた回りも大きいわけです。公衆トイレ兼用は初めて見ました。
そして一枚の張り紙が・・・。

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「戸が開いたままだと強風のときに バス待合所が壊れる場合があります。えりも町」
風で壊れるって、どれだけなんだ・・・。想像もつきません。

町役場によると、過去に風でドアが外れたり、物が飛んできて内部を破損したり、屋根が壊れるなどの事例が報告されているそうです。また、コンブ漁の小屋が一軒丸々飛んだこともあったそうです。

コンクリートブロックなど重りになるものをワイヤーでつなげ、飛ばされないよう固定している小屋がいくつもあることに途中で気づきました。内陸部でも山の谷間には風が集まりやすいので、海から離れているからといって決して油断できないということです。

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えりも町では2009年10月8日に台風18号の影響で最大瞬間風速47.8m/sを記録しています。また2016年1月16日にも真冬の猛吹雪の中で45.1m/sを観測しています。この数字の風がどういった被害をもたらすのかを気象庁のホームページで調べると、「屋外での行動は極めて危険」、「道路標識が傾く」、「固定の不十分な金属屋根の葺材がめくれる」と、穏やかでない表現が並びます。
人にも小屋にもなかなか苛酷な環境です。

私が普段撮影しているような味わいのある古びた小屋を、Google Map上で事前に見つけられなかった理由が分かってきました。そのようなヤワな建物はここではもたないのです。
小屋の中には乾燥させて出荷を待つ大切なコンブが保管されています。
この町では古い小屋に侘び寂びを見出すなどという甘っちょろい考えは、簡単に吹き飛ばされてしまいそうです。

北海道沿岸はどこも漁業が盛んですが、えりも町ではコンブ漁が中心的な役割を担っています。車を走らせていると、海岸に流れ着いたコンブを収穫している人たちに出会いました。この時期に採れたものを「拾いコンブ」というのだと、浜で出会った年配の女性が教えてくれました。

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また、町のあちこちでコンブを干している人たちの姿も見かけました。こうした作業を実際に目にすると、スーパーなどの店頭に並んで私たちの手元に届くまでに、どれだけの手間がかかっているかを垣間見ることができます。

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漁師さんが言うには、夏場はコンブを地面に並べ太陽で乾かし、秋は「天気に力がない」ので吊るして太陽と風で、そして冬は冷たい海風でコンブを乾かすのだそうです。

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風は人に害をもたらすだけではありませんでした。
傘をさすのが難しいといわれる風速10m以上の風が、年間260日以上も吹く岬の町で、コンブ漁師たちは季節によっては風に助けられながら生活しているのです。
(人物の写っている写真は許可をいただいて撮影しました)

2021.11.02



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