見出し画像

鎌倉と秋田・青森、500kmを隔てて建つ小屋

先日仕事で神奈川県鎌倉市へ行ってきました。
今年は雨の多い梅雨になっていますが(九州地方の豪雨被害は心が痛みます)、この日もあいにくの雨。仕事現場へと海岸沿いに車を走らせていると、そんな中でもサーフボードを乗せて自転車をこぐ若者とすれ違ったり、海上でサーフィンに興じているサーファーの姿が遠望できるのは、南からの風が強く波が立っていたからでしょう。
湘南らしいオシャレな風景が続いている中に、見落としてしまいそうな小さな漁港が車窓を流れていき、そこに小屋が並んでいるのが一瞬目の隅に映りました。

人も小屋も出会いはいつも唐突です(歌謡曲みたいだ)。
まさか東京近郊の洗練された観光地で小屋と出会えるなんて思ってもいませんでした。

漁港の駐車場には軽トラックや業務用のバンに混じって何台かヨーロッパ車が停められていて、これはよその漁港ではなかなか見られない湘南ならではの光景でした。

画像6

小屋はざっと15棟ほど並んでいました。

画像1

海側にまわってみました。
そのうちの一つを見てみましょう。地面にほど近い壁の下側に開口部があり、そこから海に向かってワイヤーが出ています。

画像2

漁船を海から陸揚げするためのもので、漁港にいた漁師さんが、小屋の中にはワイヤーを巻き上げるウィンチを格納していると教えてくれました。

どうということのない小屋ですが、私には驚きでした。
というのも、全く同じ様式のウィンチ小屋を日本海側の秋田県と青森県の漁港で、今年の1月に見たばかりだったからです。

こちらが青森県深浦町の小屋群です。並び方も似ています。

画像3


同じ町内で見かけたウィンチ小屋。

画像6


そして下の写真は秋田県男鹿市のウィンチ小屋です。高さ1メートルほどで人がかがまないと入れない、こじんまりとしたかわいい作りです。

画像4


建物のサイズや窓の大きさ、扉の位置など細かな差異はありますが、船の様子がわかるように窓があるのも、地面にほど近い下部からワイヤーが出ているのも同じです。

神奈川県鎌倉市と秋田県男鹿市、青森県深浦町は直線にして500キロ〜600km、もし海上を津軽海峡を抜けて往来するなら1,000km以上の距離があります。
日本国内の漁港の小屋なんてどれも一緒でしょ、と私が簡単に言い切れないのは、その土地土地の気候風土によって小屋にも個性があることに気付かされてきたからです。
このケースでは一方は太平洋側に、もう一方は日本海側にあります。文化圏が全く違い、漁民の行き来があるとは思えない二つの場所で同じ形状の小屋があるのは、とても興味深いことです。

人の発想はそんなに変わらないので同じものが偶然作られたのかもしれません。しかし、それにしては構造が似すぎています。そこで私はもう一つの可能性を考えました。それはウィンチを販売した会社が漁協や漁師に、この形状の小屋を推奨し広めたのではないかということです。根拠はありません。あくまでも推察です。
再度訪れる機会があったら、ウィンチのメーカーを確認し、どうしてこの形状になったのか、地元の人に話を伺って検証してみたくなる小屋たちです。

漁港に建つ小屋から文化の伝播または経済の波及が見えたら、これはこれで面白いですよね。

2020.07.07

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?