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#42 どうして、こんなところに。

ずいぶんと時間が経ってしまった。

毎日記事を更新していた時が懐かしい。自粛中のあのときにすでに想像はしていたことだ。あれは、いったいなんだったのか。あの時間は、いったいなんだったのか。人生のなかで、ふと訪れたオアシスのような時間だった。いまでも不思議なくらいにしっかりと生活していた。

それが。

再び、通常通りの仕事に戻って、日々を過ごしはじめたら、間違えて乗ってしまった特急電車のように全然駅に止まってくれない。気付いたら遠くまで、長い時間をかけて来てしまって、しかも満員電車なので何もできないまま、ただ電車に乗っていただけのようで。

金曜日の夜を待ち望み、日曜日の夜を恐れ、望んだはずの土日も、結局無為に過ぎていく。気付いたら二週、三週、そして数ヶ月が経っている。こうして、何年も過ぎていくのか。

そして、無為に過ごすには年をとり、これまでは健康診断も「異常なし」できたが、今年はついに「要経過観察」になり、身体もあちこちが痛み、肌も荒れ、少し老けて来たような気もする。

何も考えずに、繰り返していけば良いと開き直るには、得られるものよりも失っていくものの方が多すぎる。

昨日は8年近くに及ぶ長期政権となった安倍首相が辞任する旨を示した会見があった。体調不良が辞職の理由になったので批判する人は人格を疑われる空気感が出来上がっている。それはともかく、思えばこの8年という数字はぼくが今の職場で働きはじめてからの数字だ。8年かかって、コロナ騒動によってようやく人間らしい生活を手にしたと思ったら、再び疲労と絶望感のなかにある。何の進歩もないような気がしてしまう。

そうして休日だからと家のなかに閉じこもっているとダメになりそうになる。

それではと思い、外に出る。どこに行くかを考えていると面倒になって家を出られなくなるので、何も考えずに家を出てしまう。すると、決まって新宿の方に向かっていく。

電車に乗って、新宿三丁目の方に歩いていく。いつもいつも同じところに行く。気づいたらここにいるなあ、とふと思う。毎週毎週飽きずに、同じところに出向くこの気持ちは何だろうか。

最近、あまりにも詩のネタがないのでそれを書くことにした。今月末に「びーぐる」の投稿の締切があるので、詩を書かねばならない。しかし、本当に書くことがないので率直ないまの生活を書くしかない。

なんで、ここにいるんだろうなあ。

今日も新宿にいつものように行って、スタバである程度作業をしたあと、そういえば新宿御苑より先に行ったことがないと思って、四谷の方にずっと歩いていってみた。

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大通りがずっと続いて、歩道もかなり広い。

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行っても、行っても、大通りが続いて、やがて四谷に入る。

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そして、ずっと歩いていくと地下鉄やJRの四ツ谷駅につきあたる。上智大学も見えてくる。

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ここまででも結構歩いたなあと思う。暑いは暑いがそう気にならない。新宿の方をふりかえると、空に大きな雲が浮かんでいた。なんだかシロナガスクジラのようだった。あんなにクジラのようなのに、誰も空など見上げていなかった。

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四谷駅を通り過ぎると麹町に出た。このあたりからはもう人通りがなくなってくる。オフィスも休日で閉まっているので死んだ街のようだった。それでもせっせと歩いていくとさすがに疲れたなあと思いはじめる。次の駅あたりで終わりにしようかと思ってずんずん歩いていると、次に見た駅の表示には「半蔵門」と書いてあった。え、半蔵門まできちゃったの?と地理がよくわらなくなって、Googleマップを見るとたしかにそうだ。

そして、このさきにいくと皇居にぶちあたるのでひとまずそこまでは歩いていこうと思った。

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千鳥ヶ淵だ。ここは皇居ランナーたちがたくさんいた。お濠があるので、蚊柱がいたるところでたっている。マスクなしで走っていたら数匹口のなかに入ってくるんじゃないかと思ったが、きっとぼくがいつのまにか新宿に来てしまうように、皇居ランナーたちもここに何かがあって来るのだろう。

日も暮れて、もう19時だなあと思いながら半蔵門の駅に戻って電車に乗った。

知っている街から知らない街へ。迷いこむようにどんどんと歩いていく。どうせ東京なんだ、その辺に駅があって、どうにかして帰ることはできる。そんな気持ちで遠くへ、遠くへ、と歩いていく。そのときの気持ちはなんともいいがたい。

楽しい、ともちがい、淋しい、ともちがい、よくわからないが、ずっと歩いていきたくなる。帰りたくない、というのに近いのかもしれない。逃げ込んでいる、というのにも近いのかもしれない。

きっと、そういうわけのわからないことを言おうとして、詩なんてものを書こうとしているんだろうね。

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