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黄葉の雲海、境界のない世界へ #404美術館 のために(2019.12.12)

今日撮った写真を、せっかくなのでnoteの企画#404美術館にあげてみようと思う。

はじめに 新宿御苑を歩く

ひょんなことからできた時間を新宿御苑で過ごす。年間パスポートを持っているので入らないと損というわけではないが、何度も何度も同じ道を歩いていると季節ごとに全く違った景色を見せてくれるのが楽しい。

モッズパーカーで来たのでどこでも寝転がることができる。今日は万葉集を読んでいた。新しい詩を書くために素材を集めている。万葉人たちがどんな言葉遣いをしていたのか。言葉のレイヤーを一枚一枚剥がしていって、ぬらぬらとした肉を露出させていく。言葉の薄皮を剥いでいく。

黄葉する時になるらし月人の桂の枝の色づく見れば (巻十 黄葉を詠む)

「もみちする」という「もみぢ」が動詞として使われている。そして「月人(つきひと)」という語の妖しさ。「月」を「人」として見る感性がおもしろい。こうした「目」を一つ一つ見つけていく。すると、歩いて見ている風景もまた、色合いを変える。

オールドレンズを通して見る風景も、違う「目」になる。「義眼」によって見る世界。少しずつ、「日常」をスライドさせていく。時空をこえて、混ざり合う世界を顕現させる。境界のない世界を見つめる。

1.「光輪(フレア)に包まれた世界」

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光輪(フレア)に包まれて、花は首をかしげる。オールドレンズがとらえた光を浴びながら植物は息をしている。

2.「光輪(フレア)のふりそそぐ水沼(みぬま)」

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「みぬま」という言葉がある。「水たまり」のことだ。この「水」は穢れを祓う際のものとも言われる。「君の名は。」のヒロインは宮水三葉という名だが、「みつは」と「みぬま」というのは同じ意味で、姉妹のようでもある。「みつは」は「水葉」でもあり、禊の際の水の流れる様子「水走」でもあるという。その「みぬま」に、光がそそいでいる景色を見ると、それだけで「禊」を受けているようだ。新海誠監督がこの新宿御苑に「言の葉の庭」で「万葉集」を持ち出したのも、少しわかる気がする。

3.「珊瑚のような紅葉、静かなる色めき」

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旧御涼亭(台湾閣)から見る紅葉は、海の底を見ているようだ。「根の国」「底の国」という言い方があるが、こうした風景には「生」というよりも何か「死」が見える。「いざなう」ものがある。

4.「黄色の森の中、立ち話をする人々」

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黄色く色づいたなかで人々は幼子から老人まで言葉を交わす。そこに光がふりそそいでいる。秘密の言葉が、そこでは生まれているはずだ。

5.「裂け目に、浮かぶ真偽の季節」

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二つの異なる世界があって、どちらが自分が生きている世界なのかを考える。近景と遠景のどちらに焦点を当てるかで見えてくる世界が変わってくる。空に根を張っている木を見る。葉が、浮かんでいる。

6.「黄葉の雲海」

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空を覆うほどの黄葉があって、そこからはらりはらりと雨のように葉が落ちてくる。地面は葉の水たまりができている。ひとまとまりの黄葉が、やがて雲海のように見えてくる。

7.「分節、境界のない世界のために」

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黄葉の一枚一枚は分節されたものだが、雲海となった黄葉は、ひとつながりの、境界のない世界への欲望をかきたてる。そのために、風景は輪郭を濃くしていき、やがて境界をなくしていくための分節をはじめる。

8.「情念となった黄葉」

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もはや「黄葉」としての形をなくした「黄葉」は、ただの光輪として境界をなくしていく。それでも無数にある光が、時空を超えた世界として見えてくる。「人々」の情念が、そこに立ち現れてくる。

おわりに

自分の撮った写真にタイトルと言葉を「添える」ということをやってみると、ただ写真を撮るというだけでない「運動」のようなものを感じる。僕は普段は「詩」を書いているので言葉の世界で息をしているが、「写真」を撮ることで具体的なイメージをつかむことができる。それをまた「言葉」に閉じ込めていくという二度手間をしているのだが、「言葉」だからこそ届く世界もある。

はじめてnoteの企画用に記事を作ってみたが、とても大衆受けするようなものにはならなかった。が、これはこれで楽しんでくださる方がいると嬉しい。僕は写真と言葉というありきたりな組み合わせだが、なんらかの可能性は見えたので満足している。たまには企画に合わせてみるのもおもしろい。

ありがとうございました。

僕は詩を書いたり、詩のことについて考えたエッセイを書いたりしています。最近、友人と一緒に「連詩集」を出し、さらには中島敦論もまとめた本を作りました。少しでも興味が湧きましたら、以下のサイトで購入できますので、ぜひ覗いてみてください。


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