見出し画像

就職活動のこと

僕が少しでも「あ、この人事のひと、僕の話を分かってくれそうだ」と思った人達は、皆二言目には同じ事を言う。『貴方はn年後、どう在りたいですか?』。僕はそれを、【キャリア仮説】と呼んでいる。


【キャリア仮説】とは僕の作ったことばではなく、実際には僕にこれを教えてくれた大人がいる。【キャリア仮説】とは、『n年後、自分はこうありたい/それを達成するためにこれをする』など、自分のキャリアにまつわる思考の総称だ。

僕の志望はSIerがメインであり、実のところICT以外の業界には微塵も興味をもてず情報をほぼ仕入れていないに等しい。その為、この話がどこの業界にも言えることなのかは分からない。
だが、今のところ、新卒の教育体制が整っており、目先の新卒社員数の獲得よりもモチベーションを同じくした人材を求めているように見える、企業の人事の方は、かならずこの【キャリア仮説】に言及する。就活生に向けて、自社をPRし続けるのではなく、企業の見方の指標を与えた上で「もしあなたのキャリア仮説と弊社のスタイルが一致するなら来て欲しい」という語りかけ方をする。
勿論【キャリア仮説】という単語は彼らの話の中には一言も出てこない。しかし、彼らはまず僕ら就活生に道具を与えてくれる。その企業の考える、企業の見方の指標だ。その道具が万能なものなのかはわからないが、もちろん手ぶらで社会を歩き回るのに比べたらその指標は心強い味方になってくれることは言うまでもない。
道具を使って社会を見て、もし本当に君の仮説と弊社の形態が一致すると思うのなら、是非弊社を受けてくれ。私達から見ても君をそう思えるなら、一緒に仕事をしよう。そう言ってくれるのである。


インターンシップや合同説明会には行くべきであるというのが僕の持論だ。なぜなら、就活という先の見えないジャングルに突っ込んでいく際に役立つ道具をいろいろくれる人達がそこには埋まっているからである。

もちろん、皆が皆そんな親切に賢い人ではない。合同説明会などでとりあえずブースに人を座らせたり、いざ説明を始めた時に最初の2~3分間を上手いことばの言い回しだけで人の興味を引っ掛けようとしたりする企業では、道具を貰えることはまず無い。
文系に恨みがある訳では無いが(僕自身私文のF欄大生であるし)、僕のような大学で何を学んだかもよくわからない文系大生を数引っ掛けてくるのがそういう企業の合説でのミッションなんだろうなという気がしてしまい、そういう企業を僕は『文系的』と揶揄している。

『文系的』な企業は、合同説明会に行くと山ほどある。対してどんなに大きい就活イベントでも、僕らが見つけられる「道具をくれるような企業」はせいぜい1~2つだ。
グループ企業で開催するものなど予め一定のまとまりを持つイベントはこの限りではないが、基本的にそんなに効率がいいとは思わない方がいい。だから『埋まっている』と先程僕は述べたし、僕らがそれを手に入れるにはそれを発掘する努力が必要になる。


就職活動を始める前は、僕も戦々恐々としていた。何十もの企業にESを出し、祈られ、その繰り返しの中でどこかの内定を掴み取るものだと思って恐れていた。
しかし、就職活動を始めた今、僕は就職活動とはそういうものでは無いと思っている。僕に【キャリア仮説】ということばを教えてくれた人が同じく語ったことであるが、就職活動は「試験」というより「お見合い」であるという意見に、僕も大きく同意している。就職活動は、椅子取りゲームではなく恋愛だ。

もちろん、この21年(人によっては年齢はこの限りではないが)の中で、ひとつのコンテンツ・ひとつの企業に集約される何かしらにリソースを注入し続けて生きてきて、その中でその企業への就職を強く望む人なら、恐らくその人は『大人気企業・内定○○名』の椅子取りゲームへ身を投じるだろう。これを非難する気は全くない。それはひとつのその人の望む生き方であり、【キャリア仮説】である。
しかし、特定企業に強い拘りを持つ人を除いては、基本的に椅子取りゲームへ参入する必要は無い。BtoCで名の知れている大企業への就職は、椅子取りゲームになることはあれど安定への確約切符にはなり得ないのだ。それを理解しないままで漠然とした安定を求め、競合他者に焦りながら椅子取りゲームへ参入しても、お祈りされたところで残当である。
恋愛の例で考えてみるとわかりやすいかもしれない。自分が今後半生を共にするパートナーを探す中で、自分のことを思いやったり自分と相手の共通項からメリットをアピールしたりするよりも、自分の恋人になろうと躍起になるあまり競合他者への焦りや嫉妬ばかりが見える相手が自分に恋人にしてくれと申し出てきた時、果たして自分はその申し出を受けたいだろうか?


人事の人も、人間である。もちろん、いわゆる『文系的』な、人の量をさばくような就活生応対しかしてくれない企業もある(これはそうしないと業務が回らないからで、けっして悪意一点とも限らない)が、基本的には就活生が対話を望めばきちんとそれに応えてくれる。

だから就職活動を「ESや面接で試行回数を重ねるもの」と思わないでほしい。
もちろん僕もこの後の活動進捗次第で今綴るこの思いを忘れてしまう可能性はある。けれど、僕の就職活動において既に僕に道具をくれた大人は沢山いた。
道具を貰って自分の行きたい方向を見定め、ひとつの企業と運命共同体になる、就職活動とはそういうイベントだ。

だから就活生は、同級生にこのような事を言われるのも癪だとは思うが、どうか悲観しないで欲しい。就職活動は、自分の未来への解像度を上げる、楽しいイベントだということに、気づいてほしい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?