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2024年5月に観た映画の感想

あらすじ程度のネタバレがあります。特にオススメの映画にはタイトルのうしろに🌟つけてます。みた順で書いています。
以下のマガジンに他の月のぶんもあります。

アンドリュー・ニコル『ガタカ』🌟

© 1997 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

映画館でみました。2回目。
大好きな映画なので劇場で観ることができて満足しました。
物語中に何が起こるのか、結末はどうなるのかを知っているのに何度みても楽しめる映画は偉大ですね。
前回観たときは結末の感動としんどさに結構持っていかれましたが、今回はどっしり構えて(?)受け止めることができました。
このころのジュード・ロウはかなりキュートですが、劇中でユージーンがある「覚悟」を決めたときの微妙な変化は妙に醒めた雰囲気を纏っていて素敵だなと思いました。もはや未来というものがない人間特有の色気ってありますよね…
そして何度観ても主役3人の関係性が美しくて好きです。完璧超人でも完璧に一歩届かない超人でも凡人以下の人間でも自分自身に対する不足感があって、他人がそれを克服しようともがく様を目にした時にとる態度という一点で境遇のちがう3人が交差する、こういう刹那的で強靱な関係性めっちゃ良い。

セリーヌ・ソン『パスト・ライブス/再会』🌟

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映画館でみました。
あのとき運命に限りなく近かったひとと、24年越しに再会するロマンス映画。

韓国・ソウルに暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソンは、互いに恋心を抱いていたが、ノラの海外移住により離れ離れになってしまう。12年後、24歳になり、ニューヨークとソウルでそれぞれの人生を歩んでいた2人は、オンラインで再会を果たすが、互いを思い合っていながらも再びすれ違ってしまう。そして12年後の36歳、ノラは作家のアーサーと結婚していた。ヘソンはそのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークを訪れ、2人はやっとめぐり合うのだが……。

https://eiga.com/movie/98820/

恋愛映画は興味ないのでめったにみないのですが、これはちゃんとみれましたし結構よかったです。遠くに行ってしまっただれかと繋がり続けようとするときの切実さと滑稽さを思いだしました。
「エモでコーティングしたうえで、ここからはキモくなるラインです!」峠のギリギリを攻める走り屋映画。キモさとエモさのせめぎあい。「これ以上やると過度に恋愛を神格化している人々以外にはウケない」ギリギリ手前で留まって見事にエモい映画に仕上げていて素敵です。まっすぐ褒めています。
しかしこれみて改めて思ったのですが、恋愛とそれにともなうパートナーシップの建前はほんとうに難儀ですね。恋愛をする人々が「自分には〇〇(特定の誰か)しかいない」が前提みたいな顔をしてるのに基本的に全くそんなことがないのが事実で、でも事実を有耶無耶にしないと成立しない恋愛というシステムはちょっと人間には難しい。色んな人とくっつく可能性があること自体は(そりゃそうなので)全然いいと思うんだよな…でも運命ってときめきますよね~契約も大事ですよね~と思いました。とりあえずアーサーかわいそうでした。
全体的に画面も衣装もおしゃれで素敵なので、ぜひ一度観てみてください。誰でも「私もこういうことあったな…」と思わされるような、うまくいろんな人の過去に触れるような作りのお話になっているのでみなさん楽しめると思います。おすすめです。
全然関係ないのですが、台湾のホラー映画『返校』の「今世では縁がなかったが来世で会おう」というセリフ?を思い出しました。そっちもおすすめです。

ジュスティーヌ・トリエ『落下の解剖学』🌟

(C)LESFILMSPELLEAS_LESFILMSDEPIERRE

映画館でみました。
世界一メロい弁護士(記事のサムネの男性)が出てくることで名高い法廷ミステリ映画。アカデミー賞脚本賞を受賞しています。
夫殺しの容疑者になった主人公サンドラ(画像の女性)は、旧友に弁護を依頼し容疑を晴らそうと奮闘します。自身に不利な証拠がどんどん出てくる中、視覚障害のあるサンドラの息子・ダニエルの証言が裁判の鍵になります。ダニエルは裁判にどう落とし前をつけていくのか、そこに真実は存在するのか…というお話です。誰が真犯人なのかは我々観客に知らされないまま物語は進んでいきます。
主演のザンドラ・ヒュラーをはじめとする俳優陣のお芝居を楽しむ作品です。あとイヌ。
ミステリ作品なので何か言うとすぐネタバレに繋がりそうなので感想言うのも難しいのですが、印象に残ったのは「笑うしか能のないバカ女がいいなら私と結婚しないでしょ」と言い放つサンドラです。このシーン、これ自分がヴァンサン(弁護士)だったら一周まわってまた好きになっちゃうかもな…と思いました。サンドラのどうしようもないけど好きな人は沼るだろうなみたいなあの感じ、そうなんだよそういう傍若無人な女が好きだからあなたが好きなんだよな、と思わされて嬉しくなりました。私は私生活で絶対関わりたくないタイプですが。

三宅唱『夜明けのすべて』🌟

©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

映画館でみました。この月に2回みました。

PMS(月経前症候群)のせいで月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢さんは、会社の同僚・山添くんのある行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。転職してきたばかりなのにやる気がなさそうに見える山添くんだったが、そんな彼もまた、パニック障害を抱え生きがいも気力も失っていた。職場の人たちの理解に支えられながら過ごす中で、藤沢さんと山添くんの間には、恋人でも友達でもない同志のような特別な感情が芽生えはじめる。やがて2人は、自分の症状は改善されなくても相手を助けることはできるのではないかと考えるようになる。

https://eiga.com/movie/98942/

原作は瀬尾まいこの同名小説。未読です。
この映画に感銘を受けたポイントは大きく2つありました。意思では感情(メンタルヘルス)を制御不可能であるという感情-理性の二元論の否定と、男女間の絆についてです。

前者に関して、体調が自分の思い通りにならないというのはどんな方でも感じていることだと思いますが、メンタルヘルスも同様であるということをまだ認めていない人は結構多いのではないでしょうか。この映画は、アンコントローラブルな身体と感情を抱えながら、なぜそうなのか(藤沢さんはPMS、山添くんはPTSD)が判明しても我々にできることはやはりほとんどなく、ほぼ全ての人間が多かれ少なかれその状況に置かれているのだということに思いを馳せて助け合うしかないという現実を「それは可能だよ」という形で見せてくれる超素敵な作品です。ほぼ今年ベスト。主演ふたりのまとう雰囲気もあいまって、静かな映画ですがとても励まされる作品だったと思います。素敵なのが空気だけじゃないところが素晴らしかった。
また後者に関して、この世にはまだまだ男女の恋愛関係を中心に据えた物語が多い中、恋愛でも友愛でも家族愛でもなく、ただの同僚とも違った信頼関係の可能性を(わずかながらではあるものの)示してくれたところが素晴らしかったです。藤沢さんと山添くんのあいだには、「この先長く付き合っていくことになる病気を抱えていていま同じ職場にいる」というその交差からうみだされた信頼関係がありました。これは刹那的かもしれませんが、最後の山添くんの語りにあらわれているように、どんな関係性であれ結局お互いに離れ離れになってくのは自明なので、その場での最適化はやはり大事です。こういう言い方をすると味気ないですが、これはすべての可能性としての人間関係における希望でありうる気がします。韓国ドラマ『怪物』や『ガタカ』に本当に感激したのもこの点で、「交差点としての信頼」という可能性は、我々が数えきれない人々と交わっていくなかで、誰とでもどんな関係にでもなりうるという事実を明るみにしていると思います。こと男女間の信頼関係に関しては邪悪ですらありうる余計な憶測を持つ人間のせいで藤沢さんと山添くんのような関係性は実現しにくいですが、これを機にやりやすくなっていけばいいなと思います。

余談ですがこの作品のおかげで邦画に対する見方がちょっと変わった気がしました。邦画はホラーくらいしかみないので、三宅監督の他の作品もみていきたいと思います。

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