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ノルウェー民俗音楽入門⑤ 〜いい演奏とは?演奏が上手になるために〜

Photo by Asaki Abumi

今回のトピックは2つ、ずばり

①ノルウェー伝統音楽において、上手い演奏とはどういうものなのか
②どういうことに気をつけて練習したら上手くなれるのか

です。

いい演奏、いい音とはなにか(音楽全般)

当たり前ですが、地域や時代が違えば、いい演奏、いい音の定義は異なります。例えば・・・

細かいところでいうと、西洋クラシック音楽で求められる繊細なビブラートとアラブ音楽で求められる時折掠れることすらあるビブラートはまったく異なるものです。アイリッシュ音楽ではトリルは1箇所につき1回しか入れないけれど、ノルウェー音楽では超細かいトリルを1箇所につきたくさん入れる。これらを混同するとなんか違う感じになるし、現地の奏者にはすごく嫌がられます。

もう少し大きなところでいうと、テンポは揺らいでいいのか とか。例えば、ロックやポップスではBPMという概念が成り立つけれど、西洋クラシック音楽の場合はテンポが揺れるのでAdagioのようなゆるやかな表記になります。

もっとざっくりしたところでいうと、重視するポイントが、リズムなのか旋律なのか和声なのか音色なのか…などなど。これらの優先順位は、地域によって驚くほど異なります。(個人的に、音楽民族学の面白いところ!)

では、ノルウェー伝統音楽の場合は、どんな演奏がいい演奏なのでしょうか?どうしたらノルウェー音楽らしく演奏できるようになるのでしょう?

【Point 1】なんといっても安定したリズム感

これは自分への課題でもあり、書きながら耳がとても痛いのですが、上手い人の演奏は自然に踊りだしたくなる安定したリズム感があります。それは、BPMがはっきりしているということではなくて、リズムの中に絶妙な強弱やゆらぎがあるからこそ、安定感があります。ノルウェー国内でも地域ごとにその地域特有のノリがあるので、まずは最低限、自分がどの地域の曲を弾いているのかを理解するのが大事です。そして、必ず足で拍を取りましょう。

独学での練習方法:上手い人の演奏に山のように触れて、日常的に踊ったり歌ったりする。演奏を聴くときには常に足でカウントを取る。マンションに住んでいる場合、足踏みの振動は下の階の方に迷惑なので、必ず絨毯やヨガマットなど吸音できるものを下に引いて、しかし全力で行いましょう。

【Point 2】独特な音程感をつかむ

ノルウェーではアラブ地域などと比べると、微分音についてあえてレッスンで指摘されることは少ないのですが(強調する人もいる)、音程感もとても重要です。これも、たくさん聴いて耳を慣らすことが大事です。曲ごとに絶対の決まりがあるわけではなく、同じ曲でも奏者によって#をつけたり微分にしたり何もつけなかったり、個人差があります。が、いずれにせよ「ここが気持ちいい」というポイントがあります。

独学での練習方法:色々な演奏を聴き比べて真似する。客観的に聴けない場合は自分の演奏を録音して、お手本と聴き比べるといいでしょう。

【Point 3】伝統に則った方法で、自分の個性を出す(重要)

ここからは、やや応用編ですが、ノルウェーに限らず民俗音楽を演奏する上でとても重要なことです。

あなたが気に入った誰かの演奏をひとつまるっとコピーして演奏することができるようになったと仮定します。それを、自分のライブでそのまま演奏するのはただのパクリなのでNGです。大事なのは、その後、伝統的に曲が変わってきた道のりの延長上で、自分らしく曲の良さを引き出していくことです。そこに音楽を継承し創造する楽しさがあり、それだからこそあなたの演奏を聴きたいファンが生まれます。具体的には、曲のパーツを何回繰り返すのか、そのパーツをどう変化させるのか、どこの重音を鳴らすのか鳴らさないのか、装飾の入れ方をどうしたいのか、テンポや強弱はどのぐらいにしたいか、などなど。

独学での練習方法:大量の音源を聴いたり、ライブに行ったり、アーカイブを漁ったり、文献を読んだり、色んな人と話し合い情報を収集し、自分でよく噛み砕く。音楽以外の芸術にもたくさん触れて、豊かな人生経験を積み、自分の感性の根本を磨く。

【Point 4】自分で試行錯誤し、他人の意見を求める

他にもポイントはたくさんあるし、繰り返しになってしまうのですが、ノルウェーの伝統音楽がうまくなるために重要なことは、音源をたくさん聴いて(生演奏が聴けるようになったら、生演奏に勝るものはありません!)、自分が「これはいい音楽だな」と感じる体験を積み重ねていくことです。私のような他人に「こういうのがいい音楽だよ」なんて言われるのはたった一つのきっかけにすぎず(バーで偶然隣に座ったおっさんがおすすめのロックアーティスト教えてくれてハマった ぐらいの感じ)、自分の実感が伴って、自分自身で探求をはじめた時に、自分の身体や楽器に音楽が宿ります(ディスクユニオンに通うようになるなど、いわゆる沼にハマった感じ。オタク界へようこそ!)。

自分の演奏を信頼できる人に聴いてもらってフィードバックをもらうという経験も、音楽を豊かにしていきます。これがレッスンを受ける醍醐味です。レッスンではただ曲を習うのではなく、自分の思うことや演奏を恥ずかしがらずにがんがん表現してみましょう。毎回のレッスンにライブ本番のような気持ちで臨むのがおすすめです。で、微妙な反応が返ってきたら、まず一度は素直にその意見を聞き入れましょう。先生が変だなと思うことが重なったら、その先生が変なのか、あるいはまだ自分がその先生レベルに到達していなくて違うアドバイスをもらったほうがいい時期かのどちらかだと思うので、穏便なやり方で先生を変えましょう。いい先生だったら絶対引き止めず、あなたが素敵な音楽家に成長していく道を一緒に探してくれるはずです。

今回までのまとめと次回予告

今回までの5回で、ノルウェーの伝統的なダンス音楽にはどういう種類があり(第1回)、地域差があり(第2回)、どんな構造で(第3回)、どう覚えたら良くて(第4回)、どうやったら上手に弾くことができるようになるか(今回)がわかるようになったはずです。次回のnoteでおすすめの奏者や音源を書こうかとも思ったのですが、私が書くとどうしても地域に偏りが出てしまうし、量も膨大になってしまうので、ひとまずノルウェー民俗音楽入門はここまでで一度しめようと思います。

来月からは、音楽全般についてゆるーくエッセイを書いてみようかな と思っています。文字数も減らして、もっと軽く読めるものにする予定。

でも、ご希望などがあれば、下に書いた色々な手段でお気軽にご連絡ください。反応があると嬉しいです〜!

5回に渡る超マニアックなノルウェー民俗音楽入門にお付き合いいただきまして、ありがとうございました!

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