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COVID−19拡大下における住民主体

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が広がり、地域ケアにも大きな影響を与えている。今のところこの影響がどうなるか、見えていない段階であるが、今回の状況が今後の地域づくりに示唆することも多い。

今回、外出や交流機会の自粛が求められたため、行政や専門職による活動や場づくりも開催できなくなり、介護予防や生活支援のための機会も失われ、高齢者が孤立するリスクが高くなっている。

今回のように専門職による支援が困難な状況では、地域のつながりが非常に大きな意味を持つ。ご近所で電話やオンラインで声かけあい、話をする、距離を保ちながら一緒にウォーキングをするなど、住民の自主的な活動ができるかによって、地域の高齢者の今後の暮らしにも大きな影響を与えるだろう。今回に限らず、これからも災害などで住民の孤立しやすい状況が起きうる。非常時だからこそ見える住民主体の地域づくりの意味や地域の状況を考えていきたい。

この状況で住民主体の地域づくりのために専門職にできることの例として、本書の内容も踏まえ、次のようなことがあると考えられる。

【情報提供】 感染症対策の情報提供も大切だが、この状況下で高齢者や家族が心身を健康に保つために必要なことを伝えたい。その際、「簡略化する」わかりやすさではなく、科学的知見に裏打ちされた情報を住民が納得できるように整理した「わかりやすさ」が大切だ。(第一章6参照)

【声を聴く】 専門職にできることを考えるためにも、住民が主体的に動き始めるためにも、住民の声を聴くことが大切だ。直接会えなくても、アンケートや電話などで近況(現状、気持ち、困り事等)を聴くことも大切だ。漠然と感じている不安やストレスを放置すると心理的な疲弊につながる。自分で言葉にし、客観的に把握できることで、それに向き合う本人の内発的な力も高まる。専門職が助けてあげるのではなく、自分で整理し、自ら決める支援として声を聴くことが大切だ。同時に、心身の状況悪化や家族内の関係の悪化、虐待などの早期発見も大切だ。

【お互いに顔が見えるように】 先の見えない状況の中に一人でいると思うと、孤立感が強くなる。困難な状況に共に立ち向かっている仲間がいると思えると、孤立感は和らぐ。物理的に離れていても住民同士が顔の見える関係をつくりたい。電話などで聴いた地域の人の近況をまとめて、情報提供してもいいだろう。他の人の工夫や言葉が励まし合うことになる。LINEなどで顔の見えるグループ通話で住民をつなぐこともできるだろう。高齢者とITは難しそうと考えがちだが、70代の4割はスマートフォンを使っている(19年12月 NTTドコモ調査)。もし全員が無理でも使える人でコミュニケーションを始め、話し合う意味を体感してもらった上で、その人から周囲の知人に電話などで声かけをしてもらうこともできだろう。

前例のない状況では︑不完全でもできることを始め、試行錯誤から良い方法を学んでいくことが大切になる。専門職のみなさんも困難な状況だと思うが、協力して困難を乗り越えていきたい。(20年4月19日作成)

                                                                                   
                                                   (書籍「専門家主導から住民主体へ」より)                                                                                                              広石拓司

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