オンラインの学習体験をリ・デザインする:IDEO-U Service Designを参考に
今月24日からIDEO(アメリカのデザインコンサルティング会社)のHuman-Centered Service Designというオンラインスクールに参加しています。
IDEOで働くデザインのプロフェッショナルから、約5週間の間、世界中の参加者たちとともに、動画での自習・プロジェクトワーク・インストラクターとのコミュニケーションなどを通じて、学ぶプログラムです。
開始してから1週間程度で、内容については後々まとめようと思いますが、「オンラインスクール」そのものの学習体験がうまくデザインされていると感じています。
この記事では、IDEO-Uでの学習体験を参考に、オンラインでの教育サービスについて、学習者の体験価値上げる3つのポイントというテーマで書こうと思います。
というのは、新型コロナウィルスの感染拡大以降、教育や研修の提供者は、急速にデジタル化への対応を迫られています。一方、生徒や学習者は、対面での授業と遜色のない学習効果と体験を求めているにも関わらず、従来のリアルに「場」を共有する学習体験をオンラインは超えることができていない状況ではないでしょうか。
IDEO-Uでの学習体験は、世界中の人と繋がりながら、バランスよく、非同期の学び(動画配信など)と、受講生同士やインストラクターとの双方向コミュニケーションを組み合わせ、リアルの焼き回しではない、リアルを超える「オンラインならではの学習体験価値」を創出する取り組みのように感じています。
1. COMMUNICATION:深さの組み合わせ
オンラインでの学習体験は、リアルの授業を単純にオンライン化しただけでは、生徒や受講生にとって、大変退屈になってしまったり、授業がマンネリ化してしまう、エンゲージメント(授業への集中度合いやモチベーション)が上がらない、先生または受講生同士のコミュニケーションが活性化しない、などの課題があると思います。
一般にオンラインの教育と聞くと、まっさきにZOOMのようなビデオ会議システムが思い浮かびますが、実際には、様々なデジタルでのコミュニケーションの形があると思います。
同期性(同時に繋がっている)⇄ 非同期性(同時に繋がってない)
双方向性(お互いに意思疎通をする)⇄ 一方向(一方から情報伝達をする)
の2軸で、コミュニケーションの形をまとめてみると、
このような図で整理することができる思います。
右下の配信型のコミュニケーションが最も繋がりが浅く、左上の双方向のビデオ会議が最も繋がりが深いコミュニケーションの体験だと考えられます。
IDEO-Uでの学習体験は、この4象限にある全てのコミュニケーションを組み合わせて、学びを提供しています。
具体的には、
① 一方向 x 非同期
録画してある動画やポッドキャストを学習教材として、受講生それぞれが、各自の好きなタイミングで、自学自習をする。
② 一方向 x 同期
同じ時間帯で、ティーチングアシスタントや講師の人がライブで講義をする
③ 双方向 x 非同期
各セクションごとに"問い"が用意してあり、自分の意見を回答すると、先生や他の受講生からフィードバックがもらえる仕組み
④ 双方向 x 同期
週3回、講師の人に質問をしたり、同じプロジェクトテーマを選んだメンバーとワークショップなどをする機会が設定してある
リアルの授業では、教室でのリアルタイムな授業または、個人で自習をするのかの2つの学習スタイルが主流だと思います。
講師や受講生同士のフィードバックの例
デジタルならではの学習の体験として、課題に対して、先生や受講生からのフィードバックがチャットでもらえる、既に録画してある教材を用いて、知識は自分で獲得すること、お互いに議論やワークショップが必要なケースは、オンライン会議を利用していくなど、目的に応じたデジタルならではのコミュニケーションをとることが、学習体験の効率化・満足度の向上につながると感じています。
2. LEARNING-BY-DOING:アウトプット重視
オンラインでの学習は、リアルでの臨場感のある体験とは異なり、テレビを付けっぱなしにしているような、「受け身」になりやすい性質があると思っています。
能動的に学びを深めるため、単なる知識をつけるだけではなく、自分なりのアウトプットをしていく機会が設けられていました。
“Tell me and I forget. Teach me and I remember. Involve me and I learn”- Benjamin Franklin - 和訳:「言われたことは忘れる。教わったことは一応覚えている。体験からは自ら学べる。」- ベンジャミン・フランクリン
この言葉に表されるように、体験を通した学びは、一方通行のインプットではなく、より深く学ぶために適した方法です。
また、PBL(Problem-Based-Learning)という自ら問題を発見し解決していく能力を身につけていくための学習スタイルが注目を集めているように、IDEOでもマイプロジェクトを定め、5週間の間、知識を入れながら、実際にそのプロジェクトを走らせていく学習スタイルを採用しています。
私の受講しているHuman-Centered Service Designでは、4つのテーマ領域と抽象的なチャレンジが設定されており、そこから自分がデザインしたい、具体的なサービスを考えて、取り組んでいきます。私の場合、信頼関係が重要となるプロフェッショナルサービス(弁護士、コンサル、コーチ等)でのオンラインでの信頼関係を維持・構築していく体験をテーマに選びました。
3. CONNECTION:繋がりの活用
オフラインでの学校や社会人の習い事では、同じ空間を共有することで自然発生的に、コミュニティや繋がりが形成されると思いますが、オンラインの学習では、意図的に繋がらない限り、先生や受講生同士の繋がりが失われやすいと思います。
ビデオ会議では、発言のタイミングよく分からず、沈黙が続いたり、先生の質問の機会がなかったり、受講生同士の交流が進まないといった、繋がりに関する課題があると思います。
IDEO-Uでは、受講生同士のコミュニケーションや、講師とのやりとりを促進するような仕組みがありました。
例えば、選んだプロジェクトテーマごとにコミュニティがあり、定められた時間でのイベントが企画されていたり、各レッスンごとに問いが設定され、その問いに対する答えに対して、受講生同士がフィードバックをすることで受講ポイントを獲得するようなゲーム感覚の仕組みがありました。
また、オンラインスクールの中には、Udemyのように、各個人が好きなタイミングで受講を開始して、セルフペースで学ぶスタイルも流行っていますがIDEO-Uでは、定められた日付から一斉に入学する形で、みんなが同じように学習が進捗することで、お互いの状況を共有しながら進め、学習を継続する1つのモチベーションとなっているように感じました。
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今回は、米国デザインファームのIDEO-Uが提供するオンライン教育を参考にオンラインならではの体験価値を向上するデザインについて、書きました。
なかでも、様々なデジタルのコミュニケーションの質、深さを組み合わせてサービス提供者側としては効率よく、受講者側としては、学習体験の満足度を向上させる仕組みがいいなと感じています。
IDEO-Uは、教育のオンライン化にいち早く取り組み、世界的に非常に定評のあるコースであるため、学習体験の作り方が、参考になればと思います。
感想や質問などありましたら、コメントいただけると嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
写真:パリのディズニーランドで撮影