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ビジネスセンスを最短で磨くデザインモデル

前回、ビジネスセンスという感覚的な言葉を、「顧客の感覚を理解(共感)し、目に見えない価値を伝達するスキル」であり、ビジネスが成功するかどうか分けるほど、重要なものだと書きました。

今回は、どのようにビジネスセンスを身に付け、実践していけばいいのかについて書こうと思います。

ビジネスセンスと聞くと、感覚的な話であるため、実践できないと思われがちですが、前回の記事と合わせて、今回お伝えするフレームワークを活用すると、誰でもビジネスセンスを磨いていけると考えています。

元の考え方は、認知心理学や、デザイン思考・ストラテジックデザインなどの領域で学んだ内容を参考にしています。

1.プロダクト・サービスを一言で表す

まず、自分たちが売ろうしているものをシンプルに一言で言語化します。
あるいは、これから改善していこうとしているサービスや、新規事業の場合では、もっともイメージが近いサービスを一言で言語化します。

例えば、おじいさん・おばあさん向けにプログラミングスクールを提供することを考えてみます。

Photo by Priscilla Du Preez on Unsplash

簡単な例をとりあげてみましたが、実際にプロダクト・サービスをゼロから作る場合には複雑になりがちで、自分が売ろう、あるいは、作ろうとしている商品を一言で表すことはそう簡単ではありません。

この際、もっとも売ろうしているものに近いイメージを伝える言葉(概念)を選んでください。このフェーズでは、商品をシンプルに言語化することによって、顧客の感覚を理解するための共通の対象を用意しています。
次のフェーズで、この共通の対象(概念)を通じたコミュニケーションによって、顧客の感覚を理解していきます。

商品の言語化を通じて、感覚のコミュニケーションをとる

※余談ですが、異なるコミュニティがその境界を繋ぐものとして存在する物(今回の場合は商品の概念)を、心理学では、boundary objectと呼びます。このboundary objectを介すことでコミュニケーションをしやすくなることが知られています。

2.一般的な顧客の感覚を理解する

次に、提示する商品の概念に対して、顧客はどんなことを「想像」するのかについて考えていきます。感覚を具体的なイメージを使って理解するためのフェーズになります。

顧客のメンタルモデルを理解するとも言います。メンタルモデルとは、人が持つなにかしらのものごとや人に対して持っているイメージのことです。

では、おじいさん・おばあさんがプログラミングに対して持っているイメージを想像して、書き出してみます。

このように、おじいさん・おばあさん達がプログラミングに対して抱くであろうネガティブなイメージを書き出していきます。

このプロセスを通じて、顧客の「感覚」を言語化して捉えることができます。より精度を高めて実践する場合には、想定する顧客にヒアリングをしてこのようなメンタルモデルを作成することもあります。

現状、私たちが提案したい高齢者向けのプログラミングスクールへは、ネガティブなイメージが多く、ニーズはなさそうです。

3.新しい感覚をデザインする

次に、顧客がもつであろうネガティブな感覚(イメージ)を、打ち消すあるいは、ポジティブに変える提案を考えていきます。

この作業は、リフレーミングとも呼ばれ、「物事を見る枠組み(フレーム)を変えて、別の枠組みで見直す(リフレーム)」アプローチにあたります。

今回のプログラミングスクールのケースであれば、

・シンプル(⇄難しい)
・楽しい(⇄退屈そう)
・優しい(⇄年寄りには厳しい)
・作る喜び(⇄関係なさそう)

というように、ネガティブな感覚を打ち消し、ポジティブな意味へと変換してみます。

もしも、高齢者向けのプログラミングスクールがこのようなポジティブな価値をもつサービスであれば、サービスを契約してくれるかもしれません。

しかし、「親切で楽しいプログミングスクール」と直接、この新しい感覚をそのまま言語で伝えても、納得して契約してもらうことは難しいのではないでしょうか。あまり印象にも残らず、嘘でしょ?というように頭の中で拒絶反応が出てくることが予想されます。

4.盲点を外して、感覚を伝達する

最後に、新しい感覚を直接伝えても理解されない「感覚」を、盲点を外して伝達していきます。

盲点とは、目の構造上どうしても見えない暗点のことを表現する時に眼科医が使用している用語です。有名なルビンの壺という絵は、壺だと最初に思うと、なかなか、男性と女性が向かい合っている絵に見ることはできません。

ルビンの壺(wikipedia)

この盲点は視覚だけでなく、人間の心理でも起こると言われています。
心理的盲点とは、過去の記憶を元に、現在の五感と結びつけてしまう脳の働きによって「見えなくなってしまう」ことです。

つまり、顧客は、プログラミングスクールに対する固定概念によって、新しく提案する親切で楽しいプログラミングスクールという新しい感覚は、見えなくなっており、心理的盲点を外さない限り、伝わることはありません。

ここで使える方法が、提案する感覚と同じイメージをもつ別の概念と結びつけることです。例えば、シンプル、楽しい、作る喜び、簡単といった提案したい感覚と似た概念として、ゲートボール、趣味クラブ、ゲーム、同級生、同窓会、お母さんが教えるなどを考えつきました。

最終的に、高齢者向けのサービスとして「同級生が教えるプログラミングクラブ」というコンセプトあるいはサービス名称を考えました。同級生でも、できるという簡単さ、クラブ活動という新しいイキガイを想起させるようなイメージです。

写真:毎日新聞

例の良し悪しは置いておいて、このように、ビジネスセンスというふわっとした感覚的なものをデザインモデルで捉えることで、ある程度、実践可能になると考えています。

新規でプロダクト・サービスを開発している場合には、より精度を高めて、メンタルモデルの仮説を検証したり、提案するサービスから逆算して内容をかためていく必要があると思います。あるいは、営業マンとして、既に存在するサービスを売っている場合には、ネーミング(名称)の設定を、このアプローチで変えていくだけでも、顧客の感覚に訴えやすくなるのではないでしょうか。参考になれば幸いです。

次回の投稿では、ビジネスアイデアを心の中で消化するといったテーマで書こうと思っています。

Cover Photo at Espoo Modern Art Museum, Espoo, Finland

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