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意味のイノベーションを企業内で実践ー実践からの学び2020年度

新しい価値を提案する商品/サービス開発手法として注目されている「意味のイノベーション」のアプローチについて、企業内で実践していく上での組織の障壁とその対応策というテーマで書こうと思います。

意味のイノベーションについては、1つの新規事業として取り組むアプローチが多くの書籍や論文などで紹介されていますが、企業で取り組む時に組織としてどのような取り組みをするかについては、多くを語られていません。あるいは、研究として事例を紹介したり、分析するケースは多いのですが、研究を踏まえた上で、実際にチャレンジして得られるノウハウはまだ充分とは言えません

私も、フィンランドの起業家やビジネスデザイナーの方から意味のイノベーションを学んできたものの、実際チャレンジすると、研究では見えてこなかった組織として乗り越える障壁があることに気付きました。

そこで、研究と実際の試行錯誤を踏まえ、なぜ、社内では意味のイノベーションの企画が通りにくいのか、また、どのような施策を打つことで前に進みやすいのか、についてまとめます。企業ごとによって組織体制や文化が異なるため全ての企業に当てはまるわけではありませんが、企業(例えば、企業の新規事業開発の部署など)で実践していくヒントになれば幸いです。

フィンランドのデザインスクールで心理学教授と研究をしていた時の記事を挙げていますので、意味のイノベーションとは何か(WHAT) / 重要となってきている理由(WHY) / 最新のアプローチ(HOW)については、
▼ お時間のある時に、ぜひ読んでみてください。


0.一般的な社内新規事業のアプローチ

まず、前提として、企業内で新規事業を創る、新商品を創るときの一般的なアプローチと異なることで、様々な課題が生じてきます。

一般的な新しい事業の開発、商品開発のアプローチとして、次の2つがあると思います。

A:プロダクト・アウト型=テクノロジーまたは自社のアセット起点
B:マーケット・イン型=市場または顧客起点

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突破するデザインから(Verganti, 2013)

こちらの図にある通り、新しい意味を起点として新規事業を創るアプローチは、新しい事業開発の「軸」となるものです。また、アウトかインとという二元論的な考え方自体が否定されつつあることは承知の上で、分かりやすさ重視で表現しています。

A. プロダクト・アウト型のアプローチでは、自社の研究所が開発してきた技術やこれまでの商品の強みといった自社のアセットを起点とします。特に日系のメーカーではこのアプローチを採用している会社が多いのではないでしょうか。プロダクト・アウトで始まる新規事業の企画は、次の点で進めやすいと感じています。

A-1: 拠り所とする強みがはっきりとしている
ー競争優位性は、技術力や過去の商品の強みであり、クリアであるため、事業性の評価がしやすく、会社が投資に踏み切りやすい。

A-2: 研究開発や過去の商品開発に投資済みである
ー既にお金を注ぎ込み開発した技術や商品を活かして、最大限の金銭的なリターンを得る活動であるため、会社として追加の事業開発投資をしやすい

A-3: 組織体制がプロダクト・アウトに最適化されている
ー企業ごとに特色はあると思いますが、自社の強みやアセットを起点として事業開発するプロセスは一般的であり、何らかの形で、新規事業を生み出す仕組みができているかと思います。

一方、B. マーケット・イン型のアプローチでは、市場または顧客のニーズを起点とします。成長する市場を見極め、市場に求められているニーズを吸い上げて、新しいプロダクト・サービスの企画に落とし込んでいきます。このマーケット・インで始まる企画も、次の点で進めやすいと感じています。

B-1: 市場に関するデータが豊富でロジカルに説明しやすい
ー今後伸びて行く市場予測や、市場変化については資料が豊富で、データを集めやすく、企画の必然性をロジカルに示しやすい。

B-2: 顧客のデータをトラクションとして説得材料にできる
ーマクロな市場ニーズに関する仮説を構築したうえで、ミクロで顧客候補にヒアリングやアンケートを実施し、それらの結果をトラクション(証拠)として企画の妥当性をロジカルに示しやすい。

このように、プロダクト・アウト型、マーケット・イン型のどちらも、企業として新規事業に投資するロジカルな理由を構築しやすいという性質があります。そのため、社内での企画を審査する基準としても明確にできます。

では、意味のイノベーションを企業で実践していくためには、どのような障壁があるのでしょうか。この2つの一般的なアプローチを念頭に入れた上で比較していこうと思います。

障壁1.企画の初期段階では「ロジカル」に説得しづらい

ベルガンティ教授が提唱する意味のイノベーションのアプローチとしては、次のようなプロセスが一般モデルとして知られています。(ジマタロさんのサマリーが分かりやすいのでこちらを載せておきます。)

意味のイノベーションの初期段階で出てくるのは、企画を発案していく個人の想いであったり、ビジョン、あるいは、個を中心に置きながらグループで対話を重ねて「意味」を創り出すという非常に曖昧で抽象的なアウトプットとなります。私が研究していたアプローチでも、初期段階では、ユーザーの価値観の理解、社会変化の兆しを捉える、新しい心理的な価値を提案する等作成するものが「感性的」なものになります。そのため、社内で実行していこうとすると、

・どうして、この人は抽象的な話ばかりしているんだ?
・事業のコンセプトはなんだ?
・どうして、我々の会社が取り組む必要があるんだ?

など、論理的に考えると穴が多かったり、アウトプットとして説得力にかける企画になりやすいです。意味のイノベーションに取り組んでいるというコンセンサスがない限り、初期段階では時間をかけたにも関わらず、アウトプットが薄いという印象になり、企画倒れしてしまいます。

注意したいのは、あくまでも初期段階の話で、プロダクト・サービスのプロトタイプを製作したり、カチッとした事業計画書にできる段階では、感性だけでなく、ロジカルな企画になっていきます。ただし、初期段階でポシャってしまえば、企画倒れになってしまうため、障壁の1つとしてロジカルに、説得することが難しいという点を挙げます。

障壁2.意思決定者に「意味」が伝わらない

意味のイノベーションは、社会の変化の兆し、顧客の価値観だけでなく、作り手側の想いやビジョンを起点とします。個の想いやビジョンの拠り所となるのが「原体験」や「価値観」であったりします。

その想いやビジョンを深化させていくプロセスにおいて、「どうして、体験や価値観の話を聞く必要があるのだろう?」「果たして、事業と関係があるのだろうか?」といった疑問が生まれやすいのです。特に、お互いを理解する対話、議論をしていく組織の風土に欠けている場合は顕著だと思います。

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創り手側の内部で、発案したデザイナーや企画者と、事業投資の意思決定者(部長、役員、経営者など)と、新しい意味について共有されている必要があります。1.で書いたように、新しい意味は感性的な話が中心となるため、よく理解し合うためには、対話や議論、ビジュアル化といったコミュニケーションが重要になってきます。

組織の中で、新しい意味が共有され、議論され、深化されていくカルチャーが形成されていないケースもあるのではないでしょうか。その場合、意味が伝わることなく、企画の初期段階で頓挫しやすいと考えられます。

障壁3.経営層はプロジェクト単体には関心が薄い

2の組織での意味の共有について、もう1つ障壁があります。大企業によくあるケースとして、経営層(事業投資の意思決定者)は、事業単体に関心があるというより、いくつかの事業を集合としてポートフォリオとして捉えています。

この場合、複数の事業で提案されている意味1つ1つを共有していくのは、時間がかかりますし、ましてや、事業開発リーダー1人1人と対話を通じて理解を深める時間はないと思っています。そのため、日常業務の限られた時間や、投資会議という数十分の中で、新しい意味を共有することが求められ初期段階では込めている想いの部分まで、伝わるというのは非常に困難な事だと思っています。

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また、ポートフォリオとして事業体を考えるため、事業ドメイン毎にビジョンが設定され、個別の新規事業プロジェクトが走っている状態の方が管理しやすいことから、デザイナーや企画者個人個人ではなく、組織としてどんな新しい意味をデザインしていくのか、こちらが重要となってきます。

障壁のまとめーいかに個の想いを組織戦略として取り組めるか

1〜3の障壁は全て、意味のイノベーションが経営戦略であることに起因しています。新規事業の企画者やデザイナーなど、プロジェクトリーダーからボトムアップで事業を推進するアプローチでは、投資判断をする意思決定者に対して、新しい意味を初期段階では伝えきることが難しく、経営の常識であるロジカルなふるいにかけた時に、企画が頓挫する可能性が高いと考えられます。以前のブログで書いたように、意味のイノベーションに取り組むべき状況はこれまで提供していた価値が徐々にコモディティ化し、新しい価値の創造に迫られたタイミングだと考えられます。リスクを伴う意味を創造するプロジェクトは、個人の想いから始まる一方、投資判断ができる上層部と、一緒になって取り組んでいく必要があります。そして、プロジェクト初期においては、これまでのプロダクト・アウト、マーケット・インのアプローチとは異なり、意味という感性的な理解(共感)が必要となってきます。

では、どのような対応をしていくことで、これら1〜3の障壁を組織として乗り越え、意味のイノベーションの活動を前に進むことができるのでしょうか。1つの例にはなってしまいますが、ベルガンティ教授の文献や、フィンランドの研究を踏まえつつ、アプローチをまとめていきます。

処方箋1.メンバー総出で新しい意味の大枠をつくる

まず、企業として取り組む新規事業を個別で創り出していく前に、メンバー(部署のメンバーと意思決定者など)が総出になって、新規事業に込める想いやビジョンを作ります。

基本的なデザインプロセスと言われるDouble-Diamond Processが始まる前に、組織としての新しい意味を創造するプロセスを追加するイメージです。

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組織として取り組むというと、個人の想いが消えてしまうのでは?と思う方もいるかもしれませんが、意味のイノベーションのアプローチとして、個人の想いをグループで対話し、明確にし、さらに議論を重ねることで深化させて、イノベーティブな意味を創造するというプロセスは同じです。

ここで重要なのは、各新規事業の開発とは別枠で実施することに意味があります。なぜなら、部署として大枠の新しい意味を創っていくことで、意味が伝わりにくい、ロジカルに説得することが難しいという障壁を乗り越える処方箋になるからです。

ここのプロセスに意思決定者を巻き込み、あるいは、チーム全体で取り組むことに経営層と合意し、プロセスを写真に収めたり、途中の経過をアップデートすることで、みんなで取り組むことによる新しい意味に対する共感や、1人1人が自分事化することができ、新しい意味に取り組むべき必然性が生まれます。このアプローチにより、プロジェクトの初期段階において、必ずしもロジカルに新しい意味を伝達する必要はなくなり、意味のイノベーションを取り組みやすい雰囲気が形成されると考えられます。

処方箋2.組織として新しい意味を創るプロセスの例

新しい意味を参加型で創るプロセスを挙げたいと思います。詳細は省いて、一般化してお伝えします。あくまでも一例ですので、企業や組織ごとに適切なプロセスは変わってくる前提で、参考になればと思います。

2-a. 個人のWILLの探索活動
ーまず、個人の想い(WILL)を表出させていくプロセスを踏みます。例えば次のような問いを用意するといいのではないでしょうか。
・なぜ、わたしはこの会社に入ったのだろうか?成し遂げたいことはある?
・もし、なんの制約もないとしたら、理想とする世界像はどんなか?
・自分の強みや原体験、あるいは、会社の強みはどんなところか?
ーこのような問いに対して、言語化をすると同時に、インスピレーションを刺激し、世界観を共有できるシートに落とし込んでいきます。ここでは自分い対する理解(自己理解)を深め、会社に対する理解を深めることが大切です。また、写真やアナロジーをフルに活用してインスピレーションを刺激したり、コミュニケーションをしやすくします。

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他者と共有できる形に言語化・ビジュアルをもってくる

2-b. グループでのWILLの共有と深化
ー3名〜4名ほどのグループに分けて、各自が作成したWILLシートを基に、プレゼンテーションを行います。この際、デザインリサーチと同じような形で、相手自身が気付いていないあるいは、うまく言語化できていない部分を質問してあげたり、言い換えてあげて、想いをより明確にしていきます。また、仕事では通常話さないような個人の価値観レベルの深い話があるので、熱心に耳を傾け、心理的な安全性を共有できるといいと思います。
ープレゼンターの話や質問を聴きながら、相手が大切にしている価値観であったり、ここがWILL(想い)だと思うところをポストイットなどに書き出していきます。これが、組織の集合体として意味を形成する上でのタネのようなものだと理解します。

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Photo by Jo Szczepanska on Unsplash

2-c. こんな社会になったらいいなを描く(社会のWILL)
ー個人・個人のWILLを共有し、深堀りしたあとは、社会のWILL探っていきます。個人の想いを、事業活動を通じて、理想の社会という共感を得られるビジョンに繋げていくための活動になります。意味のイノベーションの理論的なアプローチでいうと、個人の想いを社会(ユーザー)の方向を向き、1人よがりではない新しい意味をつくるプロセスに相当します。

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ーここはアイデアが出にくいのでプロセスに工夫が必要だと思います。例えば、Demola Finland(フィンランドの政府系シンクタンク)のメガトレンドカードをヒントにしながら、理想の社会像をつくります。

ーあるいは、社会の最先端の極端な事例を取り上げます。例えば、「スウェーデンでは飛行機に乗ることはダサいと思われている。なぜなら、地球温暖化を加速させるから。」などをリサーチします。ここのアプローチについては別の記事で詳しく書こうと思います。
ーこのプロセスでも、他者と共有できるように理想の社会像の言語化と、インスピレーションを受けた事例やメガトレンドカードを写真などで共有できるようにしておきます。

2-d. 理想の社会の妄想を膨らます
ー同様にグループで理想の社会についての考えを共有し、ディスカッションをします。他者のアイデアに付け加えて、面白いと思った点、新たな気付きなどを書き出していき、ここで生まれるアイデアをグルーピングしたりして他のグループの人たちと共有をします。各自が自分がいいね!と思った部分に3〜5票のシールをもって、アイデアに貼っていったり、プレゼンターとディスカッションをしたりして、お互いの理解を深めます。

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Photo by Paul Hanaoka on Unsplash

2-e. 事務局がドメイン(テーマ)の整理を行う
ーここが骨の折れるポイントだと思いますが、これまでチーム(数十名?)で行ってきた活動を一覧にして見えるようにします。アイデア見ながら組織としてどこに力点があるのか考えつつ、いくつかのテーマ(ドメイン)へと整理をしていきます。ここで、1つ1つのアイデアもしっかりと残しておくことが大切だと思います。パソコンを用いてアイデアを整理したのちは、次のプロセスで使うため、大きな紙に印刷をして、複数枚準備できるといいと思います。

2-f. テーマと紐づくアイデアについて譲れないポイントを議論
ーテーマに振り分けられたアイデアを見ながら、チームに分かれて、自分が取り組みたい、面白そう、重要だと思える領域を決め、ディスカッションをしていきます。ここで、どうしても譲ることのできな思い入れのあるポイントはどこなのか、改めて探りながら、コンセンサスを取っていきます。
ーここで、自分の面白そうというポイントと、他の人たちのポイントが全く異なるのでは?と思うかもしれませんが、ここまでのプロセスを一緒に行っていること、また、そもそも同じ会社に属している従業員同士が共通として持っている価値観のようなものがあり、意外と、力を入れたいポイントが見えてきます。
ーこのプロセスを通じて、個人のWILL、社会のWILL、そして、組織のWILLが繋がっている領域へと昇華させていきます。事務局側はここで行われたディスカッションもメモして残すよう伝えます。

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Photo by NEW DATA SERVICES on Unsplash

2-g. 組織のビジョンと領域をパンフレットにする
ーf.の活動そして、これまでの全取り組みを踏まえて、事務局(ここではデザイナーがいいかも)が組織としてビジョンに落とし込んでいきます。ここでは、ビジョンの言語化、ビジュアルの作成、ビジョンに到るまでのプロセスを資料にしていきます。加えて、そのビジョンにぶら下がる形で、重点領域を定めていきます。今後1年, 2年, 3年とこのビジョンと領域に基づいて、長期目線で取り組んでいく可能性があるため、重要な作業になります。

ここまでが、組織のビジョン(込める想い)と領域についての活動となります。実際やってみると、結構時間のかかるプロセスです。まとめ終わるところまで含めれば、週1回, 2~3時間のグループワーク+個人の宿題を通常の業務に加えて、数ヶ月回すイメージで、事務局はこちらの運営や整理に半分くらいは時間を割いていくような形になると思います。あるいは、終日こちらのワークショップだけに専念し、一気に作り上げてしまうのもありだと思います。

処方箋3. ビジョンから逆算して「明日」の事業を創る

前ステップまでに、組織が目指すビジョン、言わば、これから創ろうとするプロダクトやサービスに込める新しい意味が出来上がりました。かつ、投資判断をする意思決定者とすり合わせることができている状態です。

ただ、ここまでのプロセスでは思考が「未来」寄りになっている状態です。ここからバックキャスティングして、現実的に事業として「今」何をすべきかを逆算していく必要があります。イメージとしては、ビジョンが10年後の未来だとすると、数年後の明日を描き、今できること、すべきことを順に考えていきます。

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このフェーズでは、グループを作って活動しても良いと思いますし、個別のプロジェクトとして進めていっても良いと思います。あまり面白そうな活動ではないように聞こえますが、今すぐに動き始めて収益化するためにはより現実味をもって、技術的制約、現在のユーザーニーズなどを踏まえて、少しだけ新しい意味を提案していく形にすることで、スピード感のある新規事業開発に繋がると思います。

フィンランドのビジネスデザイナーの方にインタビューをした時も同様の事をおっしゃっていて、"You can't surprise anyone" = 「あなたは誰のことも驚かせてはいけないわ。」という言葉を覚えています。1つ前のプロセスでやってきたような、チームメンバーや投資家と一緒になって意味を紡ぎ出す事で社内の人は驚きません。そして、ユーザーも驚かせてはいけない、つまり、あまりにも新しすぎる意味というのは拒絶されやすい(受け入れられにくい)ため、今提供しているプロダクト・サービスの意味から少しだけ新しいものを提案して、馴染ませていくアプローチが必要です。

処方箋4.「意味」への共感者を増やす

組織としてのビジョン、事業領域、そして、明日提案する新しい意味という3点セットが揃った状態で、個別の新規事業開発を始めることになります。

ここからは、デザイン思考(ビジネスデザイン)あるいは、リーンスタートアップとの組み合わせで、新規事業開発の活動が進めていけると思います。ただ、ここで改めて整理しておきたいのが、一般的な事業開発アプローチと比較した時の拠り所となるアセットです。

新規事業という限られた時間と人員、お金で取り組むプロジェクトにおいて、初期のアセットは非常に重要です。

事業開発アプローチ x 拠り所となるアセット
a. プロダクト・アウト=自社の技術などの自社アセット
b. インサイト・アウト=市場や顧客ニーズなどのロジカルなトラクション
c. デザインドリブン(意味の提案)=?????

意味のイノベーションでは、自社のアセットを起点としているわけでもなく、市場や顧客ニーズなどの分かりやすいトラクションを起点にしているわけでもありません。仮説の域を出ないのですが、意味のイノベーションで起点となるアセットは、新しい意味(ビジョン)への共感者であり、仲間、ステークホルダーだと考えています。

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デザインドリブンイノベーション(ベルガンティ教授)

改めて、デザインドリブンイノベーションのアプローチに立ち戻ってみると、自らの想いを表出させるだけでなく、グループでの対話、専門家からのインプットを大切にしていることが分かります。自分の想いを表出させるビジョンドリブンなイメージが先行しがちですが、提案する新しい意味についての共感者(協力者)を増やし、人々がmeaningfulだと感じる価値をもつプロダクト・サービスへと開発を進めていく「共創型」の側面ももっています。

想像しにくいかもしれませんが、社内のアセットが起点の場合、既にそのアセット(例えば技術)を開発していきた人達が自然と協力してくれたり、市場分析から始まるパターンでは、既に会社の中で仕組み化されているアプローチだと思います。一方、意味のイノベーションに関しては、硬い拠り所を持たずに出発するため、新しく提案する意味をもつプロジェクトにどれだけの社内外の人たちが共感してくれるのか、協力してくれるのかは非常に大きなアセットになると考えています。例えば、新規事業のメンターとして投資判断をする意思決定者をつけてしまうなど、良い方法だと思います。

余談にはなりますが、新しい意味を起点として活動を進めていった場合も、実際のところ、市場やユーザーのニーズ調査も必要ですし、いくら自社のアセットが起点ではないとしても、自分たちの会社ならではの強みを活かす(例えば、技術を促進剤として活用する)ことは事業戦略上、必要になってくると思います。ただし、プロダクト・マーケット・フィット(製品が適切な市場に受け入れられている状態)までに、活動を推進するアセットとして、社内外の仲間や専門家など、意味への共感者(協力者)が重要です。

まとめ:ロジカルを超えた必然性をどう生み出すか!?

意味のイノベーションが社内で生まれにくい理由と一言で説明すると、全てロジカルだけでない感性が重要だからだと考えています。今回取り上げた、3つの障壁も実践的なアプローチも、これまでのロジカルな新規事業開発の仕組みであったり、投資判断の基準であったりを、直接当てはめることができないことが1番のポイントになっています。そのため、本記事は、いかに感性的なアプローチを組織に取り入れていくのか、どう感性的な事業を実施する必然性を持たせるのかについて書かれています。大きく取り上げませんでしたが、確実に組織の文化や風土は重要な要素を担っていると思います。

では、スタートアップや個人が意味のイノベーションに取り組めばいいのではないか?という意見もあるかと思います。

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Donald A. Norman, Roberto Verganti (2013)

この図は、誰のためのデザインという本で有名で、UX領域の第1人者といわれるノーマン氏がベルガンティ教授と書いた論文から抜粋したものです。

右下の象限にあるmeaning-driven innovation(意味のイノベーション)は、テクノロジーの変化伴わない領域であり、incremental innovation(改善を繰り返して作る小さな変化)しか生み出すことはないと説明されています。
分かりにくいと思いますが、例えば、1960年代ミニスカートが開発された時は、ただの新しいスカートではなく、女性の自由の象徴だったと言われており、女性がスカートを履く意味が変わったmeaning-driven innovationの例として挙げられています。

このようにテクノロジーの変化を伴わずに、新しい意味を提案する事例では大きな投資額であったり、長い時間スパンは必要なく、様々な事例が生まれていて、これからも生まれてくると考えられます。話が長くなりましたが、こちらのmeaning-driven  innovationを考える際には、スタートアップや個人でも、むしろ小さい組織の方こそ、取り組みやすいのではないでしょうか。最近では「サウナ」に対する意味を変える事例として、サウナイキタイというプラットフォームを運営し、おっさんがむさ苦しく楽しむという意味から女性がおしゃれにリフレッシュしするという新しい意味を創っています。

一方、テクノロジーの変化(最先端でなくてもいい)と意味の変化を組み合わせた上図の右上にあたるtechnology epiphaniesという領域は、radical innovation(大きな社会変化を与えるようなもの)を生み出すタイプでありこちらは、小さなスタートアップや個人というよりも、体力に比較的余裕のある企業が長期的な目線で取り組んでいく必要があるのだと考えています。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。長文となってしまいまいしたが、フィンランドでの研究と合わせて、皆さまの意味のイノベーションの取り組みに貢献できればと思っております。

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またアップデートがありましたら、随時更新していきたいと思います。

Cover Photo at Louvre Museum, Paris, France

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