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インタビューとは、声なき声に耳を傾ける生きるギフト である / INTERVIEW ABOUT INTERVIEW Vol. 5 田中研之輔先生

半年ほど前から、インタビュー・ライティングをテーマにした講座「THE INTERVIEW」を主宰されている宮本恵理子さん。「宮本さんが実際にインタビューしている現場を見たい」という受講生のリクエストに応えるべく、宮本さんがインタビュー術を伺いたい方をゲストに迎えて、インタビューの技法や哲学を聞く公開勉強会「INTERVIEW ABOUT INTERVIEW」は、今回で早くも5回目となりました。

第5回目のゲストは、タナケン先生こと、法政大学の田中 研之輔教授です。

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インタビュイー(語り手)
田中 研之輔さん/法政大学 教授

一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/UC. Berkeley元客員研究員 University of Melbourne元客員研究員 日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学 /博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。
 専門はキャリア論、組織論。<経営と社会>に関する組織エスノグラフィーに取り組んでいる。著書25冊。『辞める研修 辞めない研修–新人育成の組織エスノグラフィー』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。社外取締役・社外顧問を19社歴任。新刊『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』。最新刊に『ビジトレ−今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』 日経ビジネス 日経STYLE他メディア多数連載

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聞き手は「THE INTERVIEW」講師、宮本恵理子さん。

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インタビュアー(聞き手)
宮本恵理子/フリーランスライター・THE INTERVIEW講師
1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP)に入社し、「日経WOMAN」や新雑誌開発などを担当。2009年末にフリーランスとして独立。
 主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆。一般のビジネスパーソン、文化人、経営者、女優・アーティストなど、18年間で1万人超を取材。ブックライティング実績は年間10冊以上。経営者の社内外向け執筆のサポートも行う。
 主な著書に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』『新しい子育て』など。担当するインタビューシリーズに、「僕らの子育て」(日経ビジネス)、「夫婦ふたり道」(日経ARIA)、「ミライノツクリテ」(Business insider)、「シゴテツ(仕事の哲人)」(NewsPicks)など。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。

Twitter:
https://twitter.com/ericomymt
note:
https://note.com/miyamotoerico


インタビュアーの宮本さんとこのイベントを主宰する西村創一朗さん(HARES代表)との出会いが、タナケン先生の著書『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』
https://www.amazon.co.jp/dp/429610330X/
の刊行につながったとのことで、なごやかな雰囲気でインタビューが始まりました。

最初に宮本さんより、タナケン先生の”スゴ技”のご紹介がありました。

< 宮本さんが目撃したタナケン先生のスゴ技! >

--私はこれまで何度もタナケン先生を取材させていただいています。先生がモデレーションやインタビュアーをされている現場やゼミにお邪魔した時に拝見したスゴ技を、3つピックアップしました。

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入念な準備!
まず何といっても驚かされるのが、準備力です。インタビューやモデレーションの場での出会いやご縁をとても大切にされ、その方の最新刊を読みこんだ分析シートをつくられていて、その方への愛情が伝わってきます。
ホスピタリティ
インタビュイーがリラックスでき、対話を楽しめる雰囲気づくりをされています。オーディエンスにとっても、終始楽しめる雰囲気です。
ズバリ!切り込み力
拡げつつ、深める質問を繰り出すテクニックが素晴らしいです。
先生のインタビュー法には学術的なバックグラウンドもあり、ナチュラルな中にもいろいろなテクニックが詰まっているのだろうなと拝察しています。

< インタビューの意味 >

--このように、私なりにタナケン先生のスゴ技を分析させていただきましたが、先生はどうお感じになられましたか。

僕がインタビューの際に意識しているポイントを鋭く突かれていると感じました。
いきなり核心から話していきますが、「インタビューとは何か」という問いについて、僕なりの答えがあります。
それは「生きている人との対話」であるということです。
インタビューとは同時代的な発話であり、死者との対話ではないのです。

貴重な時間を相手の方にいただいているから、ライブ感は大切にしたいと思っています。
大学にゲストを呼んでインタビュー形式で行う講義でも、来ていただいてからの流れは入念に考えます。
「インタビューというライブ」を大切にするために、過去にその人が発話したり、書籍を出していたり、ほかのインタビューで話していたりするものは、入手できるものはすべて入手するスタンスです。インタビュー前に可能な限りインストールしておく。
さきほど宮本さんがご紹介くださったゲストの著作についての分析シートはゲストへのプレゼントともいえますが、自分が知りたいから作成している面もあります。
すでにほかのところで話されたことをまた聞くのは、時間がもったいないと感じるからです。
宮本さんのインタビューを受けて素晴らしいと感じているのは、新しいことを引き出してくれることです。それを僕も目指しています。

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< インタビューの技法 >

僕は研究者としてインタビューを専門でやっていたので、今日集まってくださった皆さんにいろいろ共有したいことがあります。
インタビューには大きく2種類あります。
ひとつはストラクチャード・インタビュー、すなわち 「構造化されたインタビュー」です。事前に質問を送っておき、「答えを用意してください」と依頼するパターンのインタビューです。僕はあまり好きではありません。

もう一つはセミストラクチャード・インタビュー、すなわち「半構造化されたインタビュー」です。質問を用意するけれども、それに縛られずに相手から答えを引き出してくるというパターンです。

--インタビューの前に用意していた筋書きにとらわれすぎないということですね。どこまでの自由度があってもよいのでしょうか。インタビュー講座の受講生からも、「インタビュー前までにインタビュイーについてどれだけ勉強して、どれくらい質問を用意しておくのがよいか」と質問されるのですが。

事前に仕入れることのできるネタは、すべて仕入れるのが、インタビュイーに対する礼儀だと考えています。
周辺にインタビューをしに行くまではできなくても、プロフィールやこれまでの登壇歴や書籍などから、ある程度の情報は入ってきます。

しかしながら、インタビューは警察の誘導尋問ではありません。インタビューは、誘導尋問と真逆にあるべきです。相手に寄り添い、答えを引き出すのがインタビュー。芸能人の突撃質問もインタビューではありません。
インタビュアー・インタビュイーそれぞれの経験値を重ね合わせるやり取りを大切に考えていくべきです。

< インタビューの原体験 >

--タナケン先生のインタビューについての原体験を教えてください。

僕は大学院生の時に、佐久間ダムの調査をしていました。
天竜川の上流の、名古屋から鈍行で2時間くらいの場所に佐久間ダムはあります。そこで材木屋のお母さんが一人暮らししている民家に伺い、インタビューを行いました。
お父さんはというと、脳梗塞で倒れて入院されていたんですね。トイレを借りた時、そこにお父さんの日記があることに気づきました。「その日記を託してもいい。持って行け」と言われ、3週間借りて読ませてもらったんです。
その後あらためてインタビューをして、お母さんの記憶をたどりました。日記に書かれているお父さんの記憶は、お父さんが倒れる前までの半世紀に渡る記録です。その内容について、お母さんは、お父さんに代わって話してくれました。8時間ほどお母さんの話を聞いていくうちに、その表情がみるみる元気になりました。インタビューによって、生きている者の経験を掘り起こすというプロセスを体験できたのです。

--お母さんはうれしかったでしょうね。日記という実体として存在しながらも、そのまま放置されていた記憶を、タナケン先生というインタビュアーが介在することによって、ようやく掘り起こすことができたんですね。

僕はインタビューの上手い人、インタビュー技術の優れている人はそういうことができる人だと思っています。宮本さんのインタビューが抜群にすぐれているのはその点です。インタビュイーに対して温度が感じられるのです。

僕にインタビューを依頼してくる人でも、ネタを取りに来るだけで、事前に何も調べないで機械的に質問してくる方もいるんですよ。
ストラクチャードインタビューの典型的なパターンで、一問終わったら
「はい、次」とすぐ次の質問に行く人がいます。それならライブでインタビューをする必要はありません。

< インタビューの歴史 >

僕がいつもモデルとして参照しているのは、インタビューのルーツといえる1920年代の初期シカゴ学派のやった仕事です。外国人労働者の増加に世界恐慌も重なり、シカゴという街が荒れていた時代に行われた手法です。それまでやっていた社会科学の調査はアンケートが主流でしたが、当時はアンケート用紙が届く状況ではありませんでした。

社会や世の中の状況を説明するために、統計の中の数字を用いる場合があります。たとえば平均年収がどのくらいの金額で、過去10年にこういった変化があるといった形で、統計や数字に基づいて語る手法です。
ところがありとあらゆる数値データを集めたとしても、その中に含まれない生き様が社会には存在します。そういった数字からは語ることができないもの、いわば声なき声を声にするのがインタビューだと思っています。

--心を開かない人や、言葉を出すことに慣れていない人にはどうアプローチしますか?

その場合は、ただ横にいてあげるようにします。
相手に寄り添うことからしか見えてこない世界があるのです。

博士論文にまとめたスケートボーダーへのインタビューも貴重な経験でした。
アメリカでは研究所に行っていたことよりも、ストリートで2年間、日雇いで働いていたことのほうが財産だと思っています。対象と一緒にいて耳を傾けることに何よりの価値があると考えているからです。

インタビューは生きている者同士の会話であり、1 on 1(1対1)の関係性が大事だと思っています。
言葉を通してどこまで二人の距離を縮められるか。職種や立場の違いによらず、相手に寄り添い、言語化できないことを言語化して相手に気づいてもらうインタビューには臨床的可能性があるのです。すなわち、インタビューは、社会改良の薬のような役割を果たしているともいえるのです。

--その1時間で、相手の気持ちが少しでも軽くなったり、表情が明るくなったりしているだけで、今日のインタビューをできてよかったと思えますね。

誰しも簡単には言語化できない思いがあります。たとえば経営者の方は往々にして孤独です。
「社員に給料を払わないといけないけれど、コロナで事業が激変していて思ったようにならない」というような事情を抱えているときに、「1on1インタビュー」を行ったりします。相手が漠然と何かしら感じながらも言語化できていないことに着目し、そこを意識して相手と対話していく。対話するうちに、相手が自分のもやもやをふと話し出す瞬間が訪れます。それこそがインタビューが生み出す宝だと思っています。

重要なのは、どれだけ寄り添えるか。相手が気が付いていないことをどれだけ引き出せるかです。相手の気分にもよるし、空間のレイアウトや温度にもよります。できるだけうまくいきそうな環境要因をそろえるようにしています。

インタビューの出発点は、知りたいか知りたくないか、相手に対して好奇心があるかないかです。

--相手に興味を持てないときはどうすればいいですか、という質問をいただいたことがあります。タナケン先生はどうお考えですか。

あくまでインタビュイーと伝える先にいる人たちをつなぐ役割に徹して、「ほかの人が何を知りたいか」を考えてみるのがいいと思います。「何を聞きたい?」と周りに聞けば、質問のヒントを得ることができます。


< インタビューの効用 >

--インタビューをしている限り、新しい気づきに出会えますよね。
はい、インタビューはすごく楽しいです。
人は自分の世界の中でしか生きていません。でも自分の身体と離れた世界に存在する人と、言葉を通じて会話することができます。
僕はインタビューは経験の増幅装置だと考えています。

--そんな言葉があるのですか。
今、自分でつくりました(笑)。自己の経験を、相手の言葉が増幅してくれるのです。

「聞きたい人に聞きたいことを聞く」という行為は、インタビューという手法を通じて可能になります。インタビューは、職種・職位・社会環境のバウンダリーを超えられる。まさに"越境学習"の一つといえます。学生にもよく話すんです。「会いたい人にお願いすると、Zoomで30分なら時間をとってくれるかもしれないよ」と。Zoomで聞いたことを書きためてnoteで発表することを100人分やったら、すごいアウトプットになると。そのくらい、インタビューはパワフルツールなんです。


< インタビューと声 >

ところで本日のイベント主宰の西村さんは声がいいですね。インタビューを極めたい、優れたインタビュアーになりたいなら音から入るのが大事です。

--(西村)ありがとうございます。実は5年ほど前に、今後インタビューをしっかりやっていこうと思ったとき、ボイストレーニングを受けたことがあるんですよ。自分が前に出て登壇するときは高めの声、裏方やモデレーターを務める時は自分を抑えて低めの声と使い分けているんです。

なるほど。声は高いと、明るい印象になりますが軽くなります。逆に低いと、信用や品格につながります。

インタビューにはテクニックがいろいろあります。
声のピッチと声量とトーンはできるだけ相手に合わせる。ピッチとは呼吸、その人の呼吸に合わせるということ。自分がインタビューの聞き役の時は、最初の3分で相手にとって心地よいスピードを探ることに集中します。
YouTuberの動画を比較観察してみると、その人その人のピッチがあるのがわかるんですよ。
こんなこと、普段話すことはないのですが。つい話し過ぎました(笑)。

--ここで皆さんからの質問についても、タナケン先生に伺ってみましょう。

Q:タナケン先生は、インタビュイーにズバリ核心を突いて質問するのがお上手です。単刀直入に間を詰めて質問するコツを教えてください。

A: すごくいい質問ですね。
自分の聞きたいことは、ほかの人も聞きたいことのはず。自分が質問する内容に自信を持つことですね。
インタビュアーは遠慮してはいけません。サッカーに例えると、攻めに行くときは攻めに行く。ずっと同調のリズムではなくて、ここだと思ったときはガンと行く。行かなかったらインタビューのダイナミズムは生まれないからです。なぜそれができるかというと、十分に準備していて自信があるからです。

著書は必ず読んでからインタビューに臨むこと。準備していないと、自分の中でブレーキがかかってしまいます。

インタビューは「相手のことをもっと聞きたい、もっと知りたい」という動機から始まるダイアローグなので、なんらブレーキをかける必要はありません。聞くことが難しいと思える時は、「無理のない範囲で」と付け加えて質問します。
インタビューの時間内でどれだけ深く突っ込んでいくかが、一つの醍醐味でもあるのです。

Q:インタビュイーから返ってきた言葉をよく理解できない時には、それを相手に伝えますか。

A:
伝えます。ミスコミュニケーションがあるのはよくないからです。
聞き方の角度を変えたり、言葉の言い回しを変えたりして再度質問します。
私は英語でもインタビューをしますが、言語のバックボーンが違う時にミスコミュニケーションが起きやすいです。そこで「例を混ぜて説明してくれますか?」とお願いすることがあります。

今日は、インタビューの実践者が集まっているはずなのでもう一度言いますが、遠慮したらインタビューは面白くありません。みんなの代表選手として、持ち時間の中でどこまで聞くかが大切です。

--私も講座の中で「間違ってもいいから自分の解釈を返したほうがいい」とお伝えしているんです。「これってこういうことですか?」と自分の言葉に変えて、聞き直します。
本当に正確に表現したいという気持ちが強い方は、きちんと正してくださる。それが正しい情報だということもわかりますので、間違えてもいいから返すようにしています。

< インタビューの価値 >

今日のために、自分の頭を整理するために作った資料を皆さんに共有します。

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僕にとってインタビューとは、統計では抽出できない「生きられる声」に迫る「唯一の手法」だと思っています。
統計で語りつくされる社会・世界があるとしたら、そこを壊せるのはインタビューしかありません。

ではインタビューの価値とは何か。僕は3つ挙げたいと思います。

一つは、相手への気付きイコール「GIFT」。
インタビューは相手から受け取るものです。そのためには、まず自分が相手に与えること。相手のことを事前にできる限り勉強して、相手のことをもっと知りたいという真摯な思いでインタビューして、相手と対話をする。その思いが相手に届くと、自分の聞きたかったことを話してもらえる。相手がこれまで言語化していなかったことを伺えることもあります。自分から相手にしっかり届けられるものがあるからこそ、相手から受け取ることができるのです。

二つ目として、生の声からの学びを、自分自身のキャリア資本としてどれだけためられるか。これは「CHANCE」。
インタビューでは相手に直接質問して相手から話してもらうという形で、自分が実際に経験していないことについて学びが得られます。歴史的資料を見て学べることは限られています。

そして、インタビューは"届ける"ということが大切。
僕は宮本さんや西村さんとは、友人としてのラフな会話もできますが、インタビューを間に差し込むとそこで生まれる会話を外側に届けることができ、"社会への発信"になります。この関係性から生み出されるナレッジを社会へ広く「アウトプット」すること、イコール「PRATICAL KNOWLEDGE」とよびます。三つめの価値ですね。

Q:Zoomのようなオンラインを介したインタビューでも、同じ会場で目の前にいる相手へのインタビューと同じように迫力のあるやりとりをするにはどうすればよいですか。

A: 相手との距離感、インタビューしているときの間合いは、リアルを超えられません。
しかし、インタビューは言語の媒介をするものであり、それはオンラインでも可能なはずです。
「オンラインだとリアルの時のように突っ込めない」というのは、そういうものだと私たちが思ってしまっているだけかもしれません。


エスノグラフィー(*)やフィールドワークは、職場やオフィスなどその空間に入らないといけないので、非対面の条件では学問的にはブレーキがかかる。
それに対して短時間に集中して行えるインタビューは、今後も発展すると思います。物理的移動が不要で録音もしやすい。オンラインにはメリットも大きいはずです。

(*) エスノグラフィーとは:
エスノグラフィー(ethnography)の語源は、ethno(民族)・graphy(記述したもの)。
文化人類学や社会学において使用される調査手法。自分とは違った生活世界に住む人たちの文化やコミュニティを、アンケートなどを使った数字(定量的なデータ)ではなく、観察やインタビューといった質的なデータを用いて理解するための方法論。異文化やある生活を営む人々の生活に自ら入り込み、コミュニティや人々の生活圏内の内側から彼らを理解することに重点を置いている手法。

Q:タナケン先生は「十分に準備してインタビューに臨むと、相手が心を開いてくれる」とおっしゃっていましたが、どんな条件がそろったときに話し出してくれると思われますか。

A:集中して臨んだのは、大学のゼミにゲストとしてお呼びした小室哲哉さんへのインタビューの時です。300人が聴講していました。
小室さんといえば、90年代の音楽カルチャーをつくった超ヒットメーカーです。安室奈美恵さんら小室さんがプロデュースした歌手の曲が、次々とミリオンセラーを達成していました。その波が過ぎ去った時に小室さんは何を思ったのか。僕の聞きたかったのはそれでした。しかし、それは失礼ではないかという気持ちもありました。

会場にはエイベックスの社員の方達も来ていましたし、普通ならひるんでしまうところです。
でも、ここは覚悟を決める。スイッチを入れる。突っ込んでいくと決心して、小室さんに伺いました。「ライブが終わって家に帰られた時、どんな思いですか?」
あれだけ興奮するライブ空間にいても、家に帰ったら「うまくいかなかったな」と落ち込むんだよ、と小室さんは答えました。
「落ち込む」というワードはとても重いものです。周囲が描く小室哲哉さんのイメージと違っています。彼も一人の生身の人間ということを表すワードだといえます。
その後に引退に至るとは予想もしていませんでしたが、その時の言葉の重みを後になってからも感じました。

インタビューでは、ここ一番、一発勝負で聞きたいことを相手に聞きます。その時間は二度と訪れず、"歴史的証言"を得られる時間にもなり得るのです。その特別な時間の中で何を聞くかということは、常に意識していきます。
インタビューは文字化されて残ることも多いですよね。これは歴史的証言を手にしうる可能性をもつ1時間だと思うと、宮本さんと同じく「失敗しても突っ込もう」と勇気がわいてくるのです。

--この時間が歴史的瞬間になりうる。歴史的瞬間にするのは自分なんだと、タナケン先生が覚悟を決めて本気で入ってこられたと小室さんは感じられたのでしょうか。

そうだと思います。それを熱意ととるか、ピュアな人だなととるか、相手の受け取り方はいろいろあると思いますが、やはり本気で突っ込んできているということはわかるはずです。

Q:相手が言葉に詰まって考え込んでいるときは待ちますか?

A: ぐっと考えている様子が見えるときは待ちます。
こちらが投げかけた質問の内容が相手にしっかり伝わっていないのが原因で、相手が答えられないのだなと思う時は、待たずに方向転換しますが。

インタビューにおける沈黙はとても大切です。

インタビューでは1 on 1で会話をかわすので、リズムや相手の体調が露呈します。一人のインタビュアーの何十年と生きた経験と、一人のインタビュイーの何十年と生きた経験が、お互いに会話をかわす中でシンクロして、ハーモニーを醸し出します。そこが面白くて、インタビューはやめられないのです。

人は経験を積み重ねて、バージョンアップしていくので、一度インタビューした人には、また会いたいと思っています。


--相手のことを調べるうちに好奇心とリスペクト、さらには想像力が加わっていく感じなのですね。

本気でインタビューすると、脳が疲れたなと思いますね(笑)。本を読むよりもずっと疲れます。
インタビューの限られた時間の中で、相手を敬いつつ、こちらのベストな問いというショットを繰り出せるか。その駆け引きが面白いのです。

Q:タナケン先生にとって、このインタビューは難しかったな、失敗だったと思うインタビューがあれば教えてください。

A: 博士論文の準備でスケーターたちへのインタビューをするときに、相手がきちんと答えらえるような形で質問できなかったという苦い経験があります。
「調査するのでインタビューさせてください」と言って、スケーターたちにインタビューに臨んでいました。
「自分は大学院生です」と身を守って、「きみたちがスケートをやっている理由を教えてほしいのに、なぜ答えてくれないのか」と思っていました。今から思うと、スケーターたちへの質問の仕方がまるでなっていなかった。なのに当時は、スケーターはうまく言語化できないだけなんだと自分に言い聞かせていました。質問に対して「楽しいからですよ」としか返ってこないもどかしさに、「相手が言語化できない」と自分の偏見を上乗せしていたのです。

インタビューするということは、"自分の経験"という名の偏見を全部とっていくプロセスでもあります。今までの人生観や経験など、必ずある偏見をどこまで疑ってかかれるかが大切です。スケーターたちへのインタビューの時は、ラポール(rapport。人と人との間に親密な信頼関係にあること)も形成されていませんでした。
今では、高校生や大学一年生と話すときと上場企業の社長と話すときとで、態度を大きく変えない、絶対差別しない・区別しないというのは貫いています。

インタビュアーはニュートラルな立場として、自分の偏見から解放されてピッチに立つのが条件。それによって、相手がいろんなことを話してくれるようになる。このことは今日改めて、自分でも再認識しました。

--逆に情報を入れすぎることで、「この人はこういう人なんじゃないか」と先入観を持ってしまう心配はないでしょうか。

必ず避けないといけないのは、「こんな話だったら面白いのではないか」とゴールを予め想定してしまうことです。
僕が最もトレーニングされたのは、インタビューを通じて新しい発見を楽しむ姿勢です。ニュートラルな姿勢でのインタビュイーとの対話を貫いた先の発見が、想定されていたゴールとずれていたとしたら、かえっていいインタビューだと言えるのです。

想定している話の裏とりをするのか。想定したことからのずれを見つけていくか。回り道をして想定外の結論にたどり着いても、後者のほうがいいインタビューなのです。

僕が目指すのは、インタビュー相手への憑依。憑依とは、相手の価値観にレンズを合わせるというか、乗り移らせる作業。それをやらないとインタビューは深くならないと考えています。
自分と全く違う世界の人に聞くのが楽しいのです。

--「天職はモデレーター」という西村さんから、タナケン先生に聞きたい質問はありませんか。

Q:(西村)いいインタビューをするために、相手のことを調べつくす。そんな時間をどう捻出しているのですか。一人当たりどのくらいの時間をかけているのか。そして事前準備のための時間を確保するためのタイムマネジメントを教えてほしいです。

A: まず、著作があれば新しいものからどんどん読みます。
発行時期は、過去3年くらいさかのぼることをルールにしています。生まれたルーツまで調べることもありますが、その情報はなかなか入ってきません。

自分の経験とインタビューの相手の発している言葉との距離を測定するイメージです。相手がやってきた経験に関する知識がない時には、それに関連する文献も読みます。ただし、事前準備は自分の生活リズムを壊してまでやる必要はありません。
大学の講義のゲストとして迎える場合は、お会いする直前まで準備しています。そのほうが気分が高まり、いいライブ感につながるからです。
僕は計画的にきちっとした準備ができないタイプで、最後の1時間でがーっと詰め込むことが多いですね。その時のための資料集めは事前にしておき、PDF化して、いつでも見られるようにしておきます。実質的な準備の時間は1時間程度でしょうか。濃密にできるだけ最短の準備で深く攻めることを考えています。
宮本さんはどれくらいの時間をかけていますか?

--2回に分けて準備します。
1週間くらい前に、ざっと著書を読んで、ほかに必要な情報を集め、整理しておき、さらに当日、インタビュー場所に向かう電車の中でもう一回読み、関心のボルテージを最高潮にします。

--最後にタナケン先生にとってインタビューとは、インタビューの価値とは何かを教えてください。

くり返しになりますが、相手への思いやり、ギフトであり、自分への経験の蓄積であり、それがもたらす社会的インパクトとその可能性、この3点に尽きます。
相手への思いやりをもって、それが自分への成長にもつながります。インタビューする側・される側の二人だけの関係性にとどまらず、社会をよりよくしていく可能性をもつ、実践的な手法がインタビュー。僕にとってはすごく大切なものです。
僕のアカデミックキャリアは、インタビューで成り立っています。なぜなら、インタビューがなかったら博士号を取得していませんし、インタビューがなかったらバークレー(カリフォルニア大学バークレー校 / University of California, Berkeley)に行っていないからです。今日はあらためてその価値をふり返る場をいただけてよかったです。ありがとうございました。

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インタビュー特化型ライター養成講座「THE INTERVIEW」の詳細はこちらからご確認ください。現在12月開講の7期生を募集中です。

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INTERVIEW ABOUT INTERVIEW

次回は10月14日(水)20時から21時
マザーハウス代表取締役副社長 山崎大祐さんです。

文:宮崎恵美子

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