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〈おとなの読書感想文〉箸もてば

どんな好物でも、疲れて胃がもたれているときに
カツ丼は食べられないし、白がゆに梅干しかな、と思うもの。
本も同じで、純文学から絵本、マンガ、推理小説や実用書など、その時によって手にぴったりなじむものが変わったりします。
これこれ、これが読みたかったという、いわば読書のシンデレラフィット。

この本を何かに例えるならば、水でしょうか。飲めばさわやかで、飽きることなく体にすーっと染み渡るようなエッセイです。
おかげで真夏の満員電車が苦痛ではなくなり、ありがたいことでした。

「箸もてば」(石田千 新講社、2017年)

「ままごとのように」ひとり分の食事を作って、食べて、また片付ける。
水をはった土鍋に浮かべておいた昆布を思い出して、ちょっと一杯の誘いを「先約が」と断るくだりなど、とても好きです。
日常をひとすくい、水のように、軽やかな文章に仕立てられているのが見事で、すっかり石田千さんのファンになりました。
日々をしっかり見つめ、自分なりにささやかな楽しみを持っている人は見ていて心地よく、また心強いものです。

楽しいこと悲しいこと、いつか箸もてば思い浮かぶような、愛しい思い出に変わるのかなあ。
最近食欲がなくて、という方も、読むうちにぐうぐうとお腹が鳴るかも。

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