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<おとなの読書感想文>おやすみなさい

本題に入る前に、少し思い出話を。

夏。
4限の体育は水泳でした。
授業を終えるとそのまま昼休みに突入し、十代の旺盛な食欲でお弁当をがつがつ食べます。
友達とにぎやかにしゃべっているうちに予鈴が鳴り、あれ、次の授業はなんだったっけ?

「おじいちゃん先生の古文だ。。。」

案の定、5限の教室内はほぼ全滅状態です。
全身運動でほどよく疲れた体。血液は先ほど食べた食物の消化のため胃に集中し、脳にまわってきません。
とどめを刺すのがおじいちゃん先生。ゆったりした語りは子守唄のようで、聞く者の意識をたちまち遠のかせます。

この状況で、最後まで頭を上げていられる強者が一体何人いるでしょうか。
午後の日の差す教室の、冷たい机に頰をつけて眠る心地よさは筆舌に尽くし難く、幸せな記憶として心に残っています。
ああ、背徳の味。

授業中の居眠りはさておき、誰しも一日の終わりはなるべく穏やかな気持ちで眠りにつきたいと思うものです。
そんなときに読みたい絵本が、こちら。

「おやすみなさい」
(リーヴ・リンドバーグ/ぶん ジル・マックエルマリー/え なかがわみちこ/やく アリス館、2005年)

作者のリーヴ・リンドバーグさんのお父さんは、ニューヨークパリ間の単独無着陸飛行に初めて成功したチャールズ・リンドバーグなのだそうです。
「翼よ、あれがパリの灯だ」の名文句は、世界史で習った気がする(いつも居眠りしていたわけではないのですよ)。

夜、眠りにつく前のベッドの中。
窓の外ではねこや、とりや、のねずみなど、さまざまな生き物たちも休んでいます。
宇宙という大きなゆりかごの中に、わたしたちはすっぽりと包まれています。

詩のような文章とともに、わたしは絵の美しさにも魅了されました。
しかの母親の潤んだ黒い瞳、夕暮れの小川、あかりの灯る波止場など、やわらかな線と鮮やかな色彩で丹念に描かれていて、生きとし生ける者に対する深い愛情が表れています。

疲れてくると、人はどうしても一方的な見方で物事を捉えてしまいますが、時には高いところに登ってゆったりとふかんする視点も大事です。
勝手な想像ですが、わたしはこの本に「飛行家の目」を感じました。
近くから遠くへ、地面の上から空の上まで。
想像力の翼は心を自由に羽ばたかせてくれるものだと、絵本は静かに語りかけているのです。
お休み前のひとときに、ぜひ手にとってご覧いただきたい一冊です。



前回投稿した記事「踊るDNA」が、note編集部のおすすめ記事に選ばれました。
いつもより圧倒的に多くの方の目に触れ、読んでいただけたようで、驚きとともに嬉しい限りです。
ありがとうございました。

こんなことがあった、こんな本がすてきだった。
泣いたり笑ったり絵を描いたり、親しい人に打ち明けるように、これからも文章を綴っていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

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