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富山の人々の昆布愛が詰まった「昆布パン」

先日、地元のスーパーで「昆布パン」なるものを見つけた。製造元は、富山県高岡市のパン屋さん。

「へぇー面白い」
夫と味見してみよう~と思い、一つ買ってみた。



私が住んでいる岐阜県の飛騨地方は、北陸寄りなので、県庁所在地の岐阜市へ行くより、富山市へ行く方がうんと近い。「車でちょっと遊びに行ってくる」といえば、富山だったりする。昔から飛騨と越中を結ぶ街道も通っていたから、富山の海産物が飛騨によく入っていた。そのため食の交流は以前からあったんだけど、この「昆布パン」は初めて見た。

ちなみに、生まれも育ちも飛騨の私は、昔から「富山県人は昆布が大好き」ということは、何となく知っていた。

実際に富山の人から昆布のことを詳しく聞いたことはないけど、土産物屋を覗いても、郷土食を見ても、いつも昆布が出てくるので、富山では昆布は切っても切れない大事な食材なんだろうなぁ…と感じていた。

富山の人は、先祖の代から「昆布」が食生活の根っこまで沁みわたっているから、空気や水と同じくらい大事なものとして受け止められているのかもしれない。

たからこそ、パンに昆布を練り込んで焼く…という発想が生まれるんだろうな。これは、富山以外では絶対に思いつかないと思う。

そういえば、今から6~7年ほど前に、夫が、富山県の某整形外科病院に入院したことがある。この時、いつもなら日帰りコースの富山で2週間くらい過ごした。



50代に入って脊柱管狭窄症を発症した夫は、知人の紹介で、富山県内にあるその整形外科の先生に診てもらうことになった。

全国から手術を受けに患者が集まる…というゴッドハンドのその先生は、夫の腰を診察して「今なら簡単な手術で治りますよ」とあっさり言われた。
その言葉にピンときた夫は、その場で手術することを即決し、その数か月後、入院する運びとなった。

この時、夫の入院生活の前半(入院~手術が終わって落ち着くまで)の数日間、私も夫の病室に詰めて、夫に寄り添った。

確かに、手術は(先生が前もって予言した通り)約30分で完了。その後の経過も順調で、今は足の痺れや痛みがとれて、健やかに生活できている。


そんな夫の入院生活の最中、術後の痛みが落ち着いたある日のこと。

夫が診察に行っている間に、私はちょっと一息つきたくて、院内のデイルームでホットコーヒーを飲んでいた。

ここのデイルームは、売店があり、自販機も並んでいて、テーブルと椅子もたくさんあり、付き添いの人がお弁当を食べたり、患者さんが院内散歩で立ち寄るのにちょうどいいスペースである。

私は空いている椅子に座って、設置されているテレビを見ながら、自販機のコーヒーをすすっていた。
すると、その時、後ろの方から高齢の男性の大きな話し声が聞こえてきた。

ふと振り返って見ると、70代後半くらいの入院着を着たお爺さんが立っていた。その横に、病院のスタッフらしき女性がいて、この二人が何やら話し込んでいる。

「なんだろう?」と思い、耳をダンボにして聞いていると、そのお爺さんは、

「ここは富山の病院なのに、どうして病院食に昆布が出ないんだ!」

と熱く訴えていた。

えっ???
私は思わず前のめり、いやいや、背後なので後ろのめりになって、耳をそば立てて聞き続けた。

お爺さん曰く、

ワシは昆布を毎日食べるのが日課である。
富山の者は、昆布を毎日食べるのが習慣のはずだ。
昆布のお陰で、ワシは健康でいられる。
なのに、どうしてここは富山の病院なのに、給食に昆布を出してくれないんだ!それでも富山の病院か!
一日一回は昆布を食べないと体調が悪くなる。
なんとかしてくれ!

…とのこと。

確かに、夫の食事を見ると、昆布は入っていなかったように思う。
ごく普通の一般的な病院食で、栄養的にもバランスよく構成されたものだし、決して偏ってはいないはずだ。

しかし、このお爺さんには「昆布がないのは死ねというもの」らしく、非常に切羽詰まったものを感じた。

病院スタッフは、そんなお爺さんの熱い訴えに、
「一応、栄養バランスを考えてメニューは作られていますし、問題はないはずですので…」と当たり障りのない返答をしている。

お爺さんは、このノラリクラリとかわすような答え方に、納得がいかないようで、「いや、しかし…」「そうは言われるが…」とかなり粘り強く交渉していた。

しかし最後は、スタッフの「昆布を入れてほしいという要望は、私から栄養士さんに伝えておきますね」という言葉でピシャッと閉じられ、話し合いはあっけなく終了。
お爺さんは手ごたえを感じる前に、不完全燃焼のうちに話を無理やり強制終了させられたため、すごく不満足そうにデイルームを出ていったのだった。


いやはや、すごいものを見せてもらったわ…。


富山の人はここまで昆布に熱くこだわるのか…と驚くと共に、富山県人の昆布愛の強さに深く感動したのだった。

この話を、病室に戻ってから夫に伝えたところ、「えー!!」夫も驚いていた。


私も夫も、あのお爺さんのような「食へのこだわり」は、何一つ持っていない。郷に入れば郷に従え…で、その場で出されたものを美味しくいただくだけだから、お爺さんのように「昆布がないと生きていけない」というこだわりは、ちょっぴり羨ましい気もした。

…と、そんな懐かしいエピソードを思い出しつつ、昆布パンを食べてみた。

私の感想は以下の通り。

昆布の香りと風味があり、ほどよい塩加減。
私はそれほど昆布が好きという訳ではないけど、それでも「ちょっと風変わりで珍しい味だけど、まあまあ美味だなぁ」と感じた。
昆布好きな人なら、きっと癖になる美味しさだと思う。
甘くないパンだし、昆布が入っているから、健康志向の人にも好まれるんじゃないかな?
あと、ビールのつまみに合いそうな気がする。
薄くてピザの生地っぽい感じで、サラッとしているから、手が汚れず食べやすいのも良し。

この昆布パン、飛騨の醤油味のみだらし団子のように、富山のソウルフードになるかもしれないね。

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