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スタートアップエコシステムの醸成に必要なピースについて考えてみた

日本においてスタートアップエコシステムを醸成するにはどうしたらいいか。何が必要なのか”この命題を5年ほど前から考えてきた。
そのヒントとしてみてきたのがシンガポールのスタートアップエコシステムだ。シンガポールは政府・政府研究・大学・スタートアップ・大企業・投資家などが連携しながらスタートアップを生み出すエコシステムを作ってきた。ここ3年でエコシステムのヒントを探そうと6回ほど渡星してきたが、
今回、NUS(シンガポール国立大学)で研究をしており、多くの日本の会社とシンガポールの研究機関・スタートアップを繋げてきた方とディスカッションする機会を得た。
国外にいてかつ研究者だからこそ見える世界は、日本にとって必要な視点だと思ったので共有する。

まず課題感より。
今NUSには日本の企業(規模問わず)から積極的にアプローチがなされているという。
彼らの目的は有望なシーズを持つ研究室(スタートアップ)と繋がったり、政府系のネットワークと繋がったり、アジア諸国への展開へのチャネルを作ったり様々で、企業によって色んな思惑でアプローチをしてくるそうだ。
ただ、その対応に当たっていて日本企業から感じることがあるという。
日本の技術の方が上
・自社の優れた商品(スペックの高さ)をみて採用して欲しい
・チャネルをいい感じに作って欲しい

シンガポールは多民族からなる国なので、多様性に寛容である。一方、日本人が持っている”忖度して然るべき要求に答える”という要求はよくわからないものとして捉えられる。得てして自社の価値観を押し付け、うまく現地の企業に溶け込めないという。
紹介されたシンガポール側はブランドや実績にもなるし、日本の企業とは繋がってはおきたいが、正直パートナーとして付き合いたいと思わない。というのが概ねの温度感だという。
そんなシンガポールに興味を示す企業のローカライズと現地との活発な交流のために、JR東日本が政府系の施設とコラボして作ったコワーキングスペースOne &Coが2019年の8月にできたり、動きはあるが、日本人は日本人で集まったりと本格稼動にはまだ課題があるという。
ここから言えることは海外から見ると日本の企業の”協業”に対する基本的なスタンスが見え、そしてそれはここに示した一部の企業だけではないかもしれない。

さて、NUSにはNUS EnterpriseというNUSのスタートアップを支援する組織がある。
NUSはほぼ国の組織のため、シンガポールのスタートアップ全体の支援という名目も担っている。
その中で冠たるイベントがNUS Enterprise(Singapore)がUnbound(Unbound Innovations Ltd)と共同主催しているInnovfest Unboundだ。

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(写真は2017年の時のもの)
シンガポール発の東南アジア最大のイノベーションイベントで、スタートアップの見本市になる。2日間にかけて開催され、2018年で出展企業数300、動員人数15,000名、うち4,000名が海外からの来場者だという。
ここで特徴的なのは、出店者に研究室(市場に製品をリリースしていない初期段階のスタートアップ)が多く占められており、7割程度を占めるということ。残りが少し進んだスタートアップで、最近は大企業も出展するようになってきているようだ。
このInnovfest Unboundはよく日本の見本市で見られるように”自社の商品をアピールする場”ではないという。
ビジネスの拡大に向けた資金調達やコラボレーションを目的として参加する企業が多く、協業するパートナーを探す機会を創出しているのだという。

実際私も2017年に行ってみたが、出展会社の方と話すのはめちゃめちゃ面白かった。質問をしてどんどん深掘りをしていきたい衝動にかられる。それは彼らがサービスや技術を見せて、誇示しているのではなく、このサービスに到るまでのストーリーを語っているからなのだと今になって思う。
ちなみにInnovfest Unboundのオススメの楽しみ方は、NUSの方曰く、ブースの方と雑談することらしい。それには全くの同感だ。
交流しやすいように、ブースは本当に小さく、ディスプレイがおける直径1Mほどの台があるくらい。企業間ごとの仕切りもない。なので色んな企業にどんどん繋がれる。来場中のブース滞在時間を上げ、つながりの可能性を提供することに特化した設計になっている。

また、大学初の研究室が多いということはある意味緩衝材になる。出展者のアイディアや技術をうまく組み合わせることによって新しいチャンスが創出される。投資家はそれを応援する。そんな場を目指している。スケッチブックのアイディアだけで出展し、投資家から投資を得ていたようなケースもあるという。

日本ではこのような研究室(もしくはごくアーリーなスタートアップ)とスタートアップを結びつけるような大掛かりなイベントはほとんどない。ましてやストーリーを語り、今後についてゆるく語りあうことができるものはないのではないか。
日本には大学にまだまだ生かせていないシーズがあるということはよく言われてきた。これらを形にさせる機会を作ることで、もっとスタートアップエコシステムを促進することに繋がるかもしれない。
東京大学では昔から独自のアクセラレーションプログラムを持ち、大学発のスタートアップもいくつか生み出してきた。
関西でも、2019年7月に京都で立ち上がったPlug and Play Kyotoが京都大学とタイアップをしてアクセラレーションプログラムを提供すると聞く。大阪大学もスタートアップに力を入れているし、今後ヘルステックやライフサイエンス分野で重要なシーズを生み出す拠点となるだろう。
少しずつシーズを生かす動きが進んできている。だからこそシンガポールのInnovfest Unboundのようなイベントを五輪後の日本で、特に関西で行うのは面白いのだろうと感じた。

シンガポールはスタートアップエコシステムで注目されているが、人口550万人の国、決してアジアをみたときに特筆して投資額が高いわけでも、優れたスタートアップを沢山輩出しているわけでもない。ただ、そのようなシンガポールに来ると、何か化学反応が起こる、そんな仕組みを有している国なのではないかという風に感じた。

そのような化学反応が起こる場を日本で作ること。これがやっぱり自分のやりたいことなのだと実感する。

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