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海外の医療制度④ オランダ

4、オランダ

イギリス・フランス・アメリカとそれぞれ違うモデルの医療制度を取り上げたが、オランダはイギリスのBeveridge ModelとフランスのBismarck Modelの影響を受けており、管理競争モデルとも言われる。

オランダは患者の立場での望ましい医療を提供しているというところで欧州屈指の評価を受けている国。スウェーデンの民間医療調査機関ヘルス・コンシューマー・パワーハウスが2018年11月に発表した「Euro Health Consumer Index 2018」によると、欧州35ヵ国の医療制度のうち、スイスに次ぎ、最高の評価を獲得している。

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この調査は6つのカテゴリー別(①患者の権利・情報公開②必要な治療へのアクセス(待機日数の短さ)③臨床成績(アウトカム)④提供サービスの幅⑤予防の供給度⑥薬剤の充実度)に、それぞれ4~8項目(合計34項目)のサブ評価指標が設定され、その合計で医療システムの充実度が得点化されている。時代の医療ニーズの変化とともに指標はミニマムに変化はしているが、2005年の調査開始以来、オランダは常にトップの評価を得てきている。

では、オランダは何故高い評価を受けているのであろうか
まずオランダの医療制度を見ていく。

オランダの医療制度は2つの公的保険制度とそれを補足する民間の保険制度の3階建てで成り立っている(詳細は後述)。公的医療保険の給付範囲に関しては以下4つの基準が設けられ、これら条件を満たさないサービスは、完全に自由な民間保険制度の中で供給されることとなっている。

ⅰ)健康の観点から本質的(essential)であること
ⅱ)効果(effectiveness)が実証されていること
ⅲ)費用効果的(cost-effective)であること
ⅳ)患者にとって経済的に利用不可能なほど高価であること

この基準は医療制度の整備を行う際に、運用に恣意的な判断が入らないようにするために功を奏したと言われている。

オランダは国民皆保険制度でまず1階と2階の基礎保険は公的保険は強制加入だ。国民の所得に比例して徴収される保険料は健康保険基金に集められ、そこで運営される。
基礎保険は特別医療費保険AWBZ(1階)短期医療保険(2階)から成る。AWBZは1年以上の長期入院や介護等に要する医療費が対象で、高齢、障害、精神疾患という3つの分野のリスクをカバーしている。国が保険者を担い、その地域において最もシェアの大きい民間保険会社が国の保険代行者として、対象サービスの保険業務を行っている。
2階の短期医療保険は急性期医療が対象。この階には競争原理が働く仕組みとなっていて、保険者は民間保険会社で医療サービスの効率化、公平性の保持に努めている。その中でこの短期保険は中2階が存在し、外来医療に対して入院医療(1年未満)が乗っかる。外来医療登録した家庭医で治療を受ける分においては無料で受けられ、入院医療は、加入保険によって負担金が異なる。また、利用できる病院、保険適用範囲も加入保険によって異なる。競争原理が働くというのは、この2階の部分においてどの保険に入るかをサービスに応じて自分で考え、選ぶ自由があるということからだ。
一番最上階に上記基礎保険対象外サービスを扱う補完保険が存在する。

今のシステムの原型になったのが1986年にフィリップスの会長であるデッカー氏に改革案の策定を依頼し、改革を推し進めたデッカー・プラン。以降オランダでは管理下で競争環境を作る(Regulated competition)を導入する試みがなされてきた。例えば
①参入障壁の撤廃による民間保険の基礎保険への参入推進
競争環境のルールづくり。加入者の属性(性別・年齢・雇用状況・社会保障給付の有無・居住地域)や健康状態から予測されるリスクに応じて保険料が調整され、各保険者に交付される。
保険者のサービス提供者との自由契約。診療報酬の上限価格規制などの制約下で、医師、医療機関などとサービスの価格、質について価格が低く品質の良いサービスを配給してもらえるよう、交渉し契約することができる。
流動性の担保。被保険者は自由に保険者を選べ、かつ毎年1 回変更することができる。
保険者からすると、限られた予算内で費用節約のインセンティブを持つことになる一方、被保険者に継続的に選んでもらえるような品質の良いサービスを提供する必要にかられてくる。結果として、被保険者に望ましい医療が提供されるというのがオランダの医療制度の仕組みとなっており、高い評価を受けている所以となっている。

では医療提供体制はどうか

オランダはイギリス・フランスと同じく、家庭医の登録制プライマリケアに重点をおいている。その質は高く、地域の福祉センターのソーシャルワーカー、ナースプラクティショナー、PT、OT 等が連携して多職種協働でほとんどの健康問題はプライマリケアで対応されている。より高次の医療機関への紹介はほんのわずかで全体の医療費にしめる割合も6%ほどだという。

個人的にオランダの医療提供制度が優れていると思う点を2点列挙したい。
1)医療介護を担うプレイヤーのシェアシフトと連携が進んでいる
オランダは家庭医制度(GP)を採用しているが、医療ケアを提供する存在として看護師の権限が強く、慢性期疾患では医師と同じ診療報酬が支払われるようになっている。また、有名なのがビュールトゾルフ(BuurtZorg)という民間の在宅ケア組織。この組織は2006年に設立され、現在1万人の看護師・介護士、リハビリ職などのスタッフからなる独立チームで活動しており、約5万人の利用者に統合されたケアを提供している。利用者の満足度も高く、利用者あたりのコストも他の事業者に比べて低く、地域の医療資源と連携して利用者の自立支援とQOLの向上につながる質の高いサービスを提供している。
2)無料ボランティアによる非公的ケアの動き
オランダはボランティア大国と言われ、マントルゾルフ(大きなマントで周囲の人を暖かく包み込む)という互助の精神が浸透している。ボランティア自身もギブアンドテイクで自身も人間として成長できるという考え方・価値観がある。オランダでは小規模なホスピスが全国に200箇所ほどあるが、サービス料を支払えない人でも入所可能となっている。それを支えているのが無料のボランティア。GPや看護師と一緒に24時間のケアができるようになっている。

オランダには医療制度としては民間の保険会社が地域のプレイヤーとなって質の良く低コストなサービスを提供できるような管理された競争が働いており、それがオランダの医療がEUひいては世界に評価されているということ。また、医療提供体制では互助の精神をベースにした、地域で様々な医療・介護従事者、さらには住民が支え合って地域でケアを提供しているという点が素晴らしい点だと感じた。


参考文献:
2016オランダ視察レポート


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