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EMANが堀田量子第5章を書いてみた

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 この記事は、堀田量子の第 5 章と同じ内容を「私ならこういう感じに書く」という試みです。これを読めば理論の見通しが良くなって堀田量子の教科書を読みやすくなるかもしれません。文体は「EMANらしく」常体にしておきます。

 今回は例外的に 5.1 節の内容のみを記事にしております。5.2 ~ 5.4 節の内容は含まれていませんのでご注意ください。これらの節には特に付け加えることも、削った方がいい箇所もなく、大幅に分かりやすく書き換えられるところもなかったので書き直す必要を感じませんでした。実は書いてはみたのですが、式を読みやすくするために記号を置き換えたり、ちょっとした注釈を入れるくらいのことしかできず、ほとんど丸写しの内容になってしまいました。私の作品として公開できるほどの差別化ができていません。何か良い独自視点の書き方を思い付いたら別のタイトルで記事を追加するかもしれません。

 しかし今回の 5.1 節についてはかなりの改変を行っています。原書では二準位スピンを例にした解説になっていますが、この記事ではスピンの話を排除して書いています。

 それでは、どうぞお楽しみください!

行列の自由度に無駄は無いのか

 我々は観測対象を測定したときにどんな結果が出るかについての確率が知りたいのであった。本音を言えば確率が知りたいのではなくて、確実な結果をあらかじめ知りたいところではある。しかしどうやら我々には確率しか知りようがないというのがこの世界の現実のようなので、せめて、どんな測定をした場合にでもどの結果がどんな割合で得られるかという確率が分かるようにしておきたい。そのために必要になる全ての情報を含んでいるのが密度行列である。

 $${ N }$$準位系の密度行列には実数$${ N^2 - 1 }$$個の分の情報が含まれているのだった。例えば二準位系の密度行列には実数 3 個分の情報が含まれているという話は第 2 章で出てきた。つまり二準位系スピンの状態は実数 3 個分の情報だけで表されるのであり、それはブロッホ球の表面と内部の全ての点という形で表すことが出来た。

 さて、前章の話からすると、例えば二準位系と二準位系の合成系の密度行列は 4 次のエルミート行列で表されることになる。するとそこには$${ 4^2 - 1 = 15 }$$個分の情報が含まれているはずである。二つの二準位系を合わせた情報なのだから実数 6 個分の情報があれば十分なのではないだろうか?
残り 9 個分の情報は一体何を表しているというのだろう? 合成系の密度行列の各要素は何らかの情報を表すために有効利用されているのだろうか?

 前章のテンソル積の定義を思い出してみよう。合成系の密度行列の全ての要素には何らかの値が入っている。無駄に空いてしまっているような要素は無さそうだ。しかしそれだけでは使える自由度を使い切ったことにはならない。

 理論の作り方に無駄があるということだろうか? いや、そういうわけではないようだ。現実世界には二つの系のテンソル積では表せないような状態さえもが存在している。不思議なことに、自然界は合成系の密度行列に含まれる何らかの自由度をちゃんとフルに使いこなしているようなのだ。この章ではそのことについて話して行こうと思う。

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