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民主主義的話し合い

このCOVID-19に関しては、国によって対応が異なるのもまた興味深いと思いました。医療崩壊を起こさないのと経済の影響を最小限にするのとある意味対立してしまうことを双方バランスとりながら、前代未聞の事態にそれぞれが模索していったと思います。

南欧のようにかなり厳しい封鎖を強いた国もあれば、スウェーデンのように経済活動を優先しほぼ制限のない国もあります。デンマークは、死者が出ていなかった早い段階で封鎖を決めたものの、外出制限はなく比較的自由が保障された状態でコントロールされていました。封鎖解除もヨーロッパの中でもっとも早い時期でした。しかし、封鎖も封鎖解除もそのプロセスは議論の応酬で、第一フェースの封鎖解除を決定した直後からは、国会議員を有する10政党すべての党首が話し合って決めることになりました。10政党すべてが独自の考えをもっているので、妥協点をみつけるのに時間がかかるのは自明で、第二フェース解除案を決めたときには朝の5時まで話し合ったこともあったそうです。

デンマークの政治は、常に赤でも青でもない紫と言われます。基本的にはリベラルだろうと社会主義党が政権をとろうと、根幹の政策にはそれほど差異がないとデンマーク人が疲れたように言います。一政党が議会の過半数を超えることはほとんどなく、独立政権だろうが連立政権であろうが、ほかの政党の合意なしには法案ひとつ成立させることが不可能だからです。むしろ、そのために意図的に連立政権に入らずに支持政党にとどまることもよくあります。しかし、まさにその多様性の中で妥協点を追求していく民主主義的な政治がデンマークの特色といえるような気がします。

恥ずかしながら、わたしはデンマークに移住するまで民主主義のことを誤解していましたし、その考え方になじめていないことを自覚しました。政治とは関係ありませんが、そのことを気が付かされたきっかけになったエピソードについて書きたいと思います。

娘が9年生になってすぐのころに、修学旅行でポーランドのクラコウに行くことになりました。デンマークはそれぞれの家庭状況を鑑みて行先は任意で、4クラスのうち2クラスはデンマーク国内でしたが、娘のクラスは担任の先生が提案してくれたところに、幸い保護者全員が同意しました。より詳細について話し合うために保護者会がもうけられました。

クラコウといえば第二次世界大戦時にユダヤ人の殺人工場として機能したアウシュビッツ収容所にアクセスする街として有名です。なので、旅程の中で収容所見学は必ず含まれることも前提としてありましたし、わたしは当時まだ訪れたことがなかったので、その機会をもらう娘を羨ましく思ったりもしました。

ところが、ある保護者が、「わたしは、収容所見学が子供たちのメンタルに悪く影響することを心配している。」と言ったのでした。

わたしは、アウシュビッツなしでこの旅行はないでしょ?とそのひとを責めたいきもちになるのと同時に、この誰もがアウシュビッツ行きを同意する雰囲気の中で、反対意見にもなるような発言をするそのひとの勇気に感嘆もしました。

しばらくしーーんと静まり返ったあと、「それもそうね、、、」とそのひとに対する理解を示す声が相次いだのでした。

もちろんだからといってアウシュビッツをとりやめるということにはならず、日曜日にクラコウに到着し、土曜日に発つという日程で、月曜日に訪れるとインパクトありすぎてあとの滞在に影響してしまうし、だからといって金曜日に訪れると嫌なきもちでデンマークに帰ることになるかもしれないと、その中庸案である水曜日に訪れる、ということで落ち着きました。

細かいことかもしれませんが、こうして真っ向する意見に対しても、たとえたった一人の意見であっても決して無視したりせずに聞き入れ、落としどころをみつけていこうとする姿勢にうたれたのでした。数という力で決めるのではなく、小さくとも異なる意見や価値観を受け入れることは難しいことですが、実はそれが社会を形成するにあたってとても大事なことであるとだんだん気が付いていくことになりました。

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