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番外編・女賢者放浪記

女賢者は「ドラクエ7ヘッポコ旅日記」の登場人物です。

2004年6月。
今日はヘッポコ兄の高校の体育祭。
女賢者は運動会が好きである。(見るだけなら)
自分にはまったく縁のなかった「リレーの選手」などという役目を、必ず負う足の速い息子を持ってからというもの、ますます運動会が好きになった。
たいていの親はたぶん見に行かない。高校の体育祭なんて。
しかも、電車で延々1時間以上もかかる高尾のグラウンドで行われる体育祭なんて、なおさら誰も見に行かない。

でも運動会好きの女賢者は出かけた。
お弁当持って、飲み物を持って、本を持って、お菓子も持って、日焼け止め塗って、遠足気分だ。

兄が最初に出る種目は、高校生男子の障害物競走らしきもの。
それに間に合うように、乗り換え案内まで調べて時間の逆算をして、美しき女賢者はゆったり出かけたのだが。
高尾のグラウンドには、去年も出かけた。だから道は覚えているだろう。そう思ったのに。

予定通りの時間に高尾に着いた。
去年と同じように、去年も入った駅のトイレに入った。美しき女賢者は水をたくさん飲むよう心がけているのでトイレが近いのだ。
トイレの後、その先の改札から出た。(*これが間違いの元)

駅を出てまっすぐ歩き、ちょっと右へ行って、また左へ。それでグラウンドへ向かう山道(まさに山道)に出たはずだ。

駅を出てまっすぐ歩いた。
ちょっと右へ行った。

おかしい。
去年はここで、小学校が見えたはずなのに。
まあいいや。
方角さえ間違っていなければ、曲がる場所が多少違っていたとしても、最終的にたどり着けるだろう。

つきあたりを左へ曲がる。
おかしい。
なんだか大きな車道に出ちゃった。
全然、見たことのない道じゃん。

それでも、絶対にこっちの方角にあったはず。
手元の地図を確認しても間違ってはいないように見える。
もうちょっと、もうちょっと行ってみよう。
歩いても歩いても、記憶のある場所に出ない。
兄の呪いなのかもしれない。

さんざん歩いて、しかたなく女賢者は、墓参らしきご夫妻に地図を見せて道を尋ねた。

「ここへ行きたいんですが、今、どのあたりにいるんでしょうか」

ご夫妻は地図を見てこうおっしゃった。

「ああ、これは南口ですね。こっちは北口だから反対だ」

😱

駅を出た後の道筋だけを気にして歩いていたが、そもそも駅を出る時点で出口を間違えていたのだ!

女賢者は思い出した。
去年は高尾駅でトイレから出た後、ついさっき通って来た改札口で、次のような会話があったのを。

「こちらは北口ですか? 南口ですか?」
「こっちは北口ですよ。南口は反対側です」
「ありがとうございました」

そうだった、そうだった。
それで去年は、トイレを出た後、階段をのぼって反対側へ出たのだった。

駅を出てまっすぐ歩き、ちょっと右へ行って、また左へ。
それはすべて「南口を出てから」の話。
北口を出ちゃったら、もう、どんなに歩いたって見当違いよ。

40分近く放浪した女賢者がグラウンドにたどり着いた時、兄の顔はすでに小麦粉にまみれて真っ白だったし、口の中には小麦粉の中から発掘した飴が入っていた。

……間に合わなかった……!

ただし体育祭のメイン、選抜リレーだけはきちんとアンカーの兄が、遅れを取り戻して一人抜いた場面をちゃんと見たけど。

女賢者は、そのまま最後の種目まで体育祭を堪能したが、その帰り道。

駅へ向かう道は余裕で覚えているはずだった。
自転車置き場のガード下を通る。
あれ??
駅がない。
歩いても歩いても駅がなく、ただし上方に線路は見える。
駅の入り口がわからない。
いくらなんでも、ここまで来たら駅はないだろうという所まで歩いてUターンする。

あれ?
な~んだ、自転車置き場を抜けてすぐ、
そこで180度、方向転換すれば、駅の入り口があったんじゃん。こんな状態で、
なんで駅を見つけられずに直進しちゃうんだろう。

方向音痴遺伝説を受け入れ難い、この女賢者は実在した。
そしてまもなく祖母になる。

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