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秋の夜長に、おすすめ本をつづらおり

この記事は、いしかわゆきさんの「秋を楽しむための書くテーマ」からお題をお借りしました!

(その3)秋の夜長にピッタリのおすすめ本は?

秋の夜長にピッタリのおすすめ本。
執筆しているうちに、一冊だけのつもりが三冊のご紹介になりました。
どうぞ!

1 小川洋子さん「人質の朗読会」

ある地球の裏側の国で拉致されたツアー客らが、退屈な時間を紛らわすために人質の立場のまま朗読会をひらきます。

各々つづった話が朗読会で読みあげられ、九つの短編として展開されます。

今自分たちに必要なのはじっと考えることと、耳を澄ませることだ。
しかも考えるのは、いつになったら解放されるのかという未来じゃない。
自分の中にしまわれている過去、未来がどうあろうと決して損なわれない過去だ。
それをそっと取り出し、掌で温め、言葉の舟にのせる。
その舟が立てる水音に耳を澄ませる。
なじみ深い場所からあまりにも遠く隔てられた、冷たい石造りの、ろうそくしかない廃屋に、自分たちの声を響かせる。

「人質の朗読会」前書きより抜粋

朗読会を開くにいたった背景が、こんなにも美しい言葉でつづられているのです。なんども読み返したくなります。どんな状況にあっても、言葉の舟をすすませる自由が私たちの手にあるのです。

結果として救出作戦は失敗し全員が犠牲になったと知らされた上で、私たちは本編を読み進めることになります。

衝撃的な前書きの非日常と、本編で細やかに語られる日常との対比におどろくばかり。一人一人のエピソードは自分の中にしまわれていた過去と正面から向き合ったものでして、細やかな心理描写に引き込まれます。

2 恩田睦さん「蜜蜂と遠雷」

ピアノコンクールに挑戦する4人のコンテスタントの姿を追った力作。映画化されていたのでおなじみの方も多いと思います。

かなでられては消えていく音楽が、美しい言葉で描かれています。音楽を聴いて感動することも、表現された言葉を読んで感動することも、人間の営みとしては同じ情動だと気づくのです。
綿密な取材に裏付けられた作品で、まさしく圧巻。

最後まで読みすすめてもタイトルの意味がわからず、読者へとバトンを託された気分になります。解釈は私たちの手の中。4人のチャレンジから意味をつかみとるのは、まぎれもなく私たち自身なのです。

3 山崎豊子さん「大地の子」

綿密な取材をもとに書かれている作家さんといえば、山崎豊子さんをおいて右に出るものはいないと思いまして、紹介させていただきます。

両親を亡くし、妹と生き別れた主人公「陸一心」が中国で残留孤児として生きていく姿を追った本作。主人公は生き別れた妹と再会できるのか、一気に読みすすめることができます。

随所に妹との対比が描写され、最後まで涙がとまりませんでした。あまりにも苛烈な主人公とその妹の生きざまに、平和な世界が一番との思いを新たにするのです。
と同時に養父や妻となる女性の全人的な優しさも描写されていて、私たちも救われる思いになれます。

まとめ

思いがけず、おすすめの本を三点ご紹介させていただきました。
読書をたんのうした後は、島田理生さんの「ナラタージュ」が読みたくなります。私にとって読書の原点。

きりがないのでこの辺で。
秋の夜長のおともに、自分にとってかけがえのない本と出会えることをお祈りしています!

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