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interview Terence Blanchard:テレンス・ブランチャードが語るウェイン・ショーター論

今回、テレンスに取材することができた。それはRolling Stone Japanにまとまっている。ここでは新作『Absence』のことだけでなく、近年のテレンスの最大の成果とも言えるオペラ『チャンピオン』についてもしっかり話を聞いている。ぜひ読んでほしい。

これはその時の取材の中でウェイン・ショーターの話に関する対話を中心に再構成したもので、未掲載部分を追加している。

かなり興味深いウェイン・ショーター論になっている。ぜひ読んでみてほしい。

ちなみに2022年に『Fire Shut Up in My Bones』が日本の映画館で公開されたときにも僕は取材している。こちらも併せて読むとテレンスの考えていることが更に理解できるはずだ。

取材・執筆・編集:柳樂光隆 | 通訳:丸山京子 | 協力:ブルーノート東京

◉『Absence』のコンセプト

――まずは『Absence』のコンセプトを聞かせてもらえますか?

言ってしまえば、ウェイン・ショーターにラヴレターを送りたかったんだ。どれだけ僕らが愛しているかを彼が生きてるうちに伝えようと…。でもそこまで症状が重かったとは思いもしなかった。トリビュートは誰かが世を去った後に行われることが多いが、それはしたくなかった。実際、バンド、タートル・アイランド・ストリング・カルテットのメンバーたちとウェインの家まで行き、いろんな話をして一日過ごした。僕は何年も彼を知ってるが、会うのが初めての連中からは「ウェインに紹介してくれてありがとう」と感謝されたよ。それくらいみんな気持ちが昂ってた。完成したCDを渡し、聴いてもらうこともできた。僕らとしてはただウェインに「ありがとう」と言いたかったんだ。

――ウェイン・ショーターには様々な偉大な側面がありますが、どんな部分を称えたかったんでしょう?

大変だったのはまさにそこ、1枚のアルバムに収めなきゃならなかったことさ。ウェイン・ショーターの偉業を考えたら、シリーズ化するとか、何枚かのアルバムじゃなきゃ無理なわけで。ごく初期の若かりし日から、アート・ブレイキーとの時代、マイルス・デイヴィスウェザー・リポート、そしてソロ…。ウェイン自身は「自分は進化し続ける一つの長い音楽のようなものだ」と口にしていたが、その中で一貫してるのは、美しいメロディと物語を語るドラマの感覚だ。僕がウェインを愛してやまない理由の一つは、常識にとらわれないコード進行とメロディアスな曲を結びつける方法を知っていたからさ。それが全く新しいサウンドや、即興という意味だけでなく、作曲に関する新しいアプローチをもたらしたんだ。

◉作曲家としてのウェイン・ショーター

――今おっしゃった、ウェインの常識にとらわれないコードとメロディを結びつける方法にあなたも影響を受けたと?

そりゃもう(笑)。その影響はオペラを書くようになって余計に感じたよ。子供の頃から、父が家でかけるオペラやクラシックを聴いて育ったことは僕のメロディのコンセプトに大きな役を果たしたが、ウェインときたら…彼は優れたボクサーと一緒。ジャブ、ジャブ、ジャブ…と仕掛け、またジャブだと思わせておいて、突然まるでそれまでとは違う手を使ってくる。彼のそういうところが大好きでね。初期の「Adam's Apple」を聴くと、メロディをマッシュアップしたり、反転させたりしながらも、シンプルでロジカルなサウンドを作っている。それが重要な点だよ。学校で教えていた時、いろんなことを生徒に教えたが、「それが理に叶い、意味を持っているかが重要なんだ」と強調したよ。ウェインがやったいろんなことは、ただ無闇に意味なくやってたのではなく、それが彼の心の中の物語を語るツールだったんだ。

――作曲の観点から特によく聴いた、もしくは研究したウェイン・ショーターの曲があれば教えてください。

全部さ!だって、たとえば後期の曲である「Three Marias」に即興演奏はないが、5分間様々な方向に進むんで、一瞬たりとも気を抜くことができない。でも「Adam’s Apple」の入ってるアルバムに遡って聴くと、あんな初期の録音から、そのアイディアの痕跡がすでにあるんだ。「Three Marias」ほどは発展してないがすべてはそこにある。つまり、ウェインは生涯を通じて、それを内面に抱えていたということさ。また、ウェインはいろんな違う音楽を聴き、あらゆる作曲の伝統を学び、偉大な作曲家たちを愛した。ジャズに限らず、あらゆる音楽の作曲のトラディションから大きな影響を受けていたってことがわかるんだよ。

◉自作曲「I Dare You」とウェイン・ショーターの繋がり

――「I Dare You」はウェインに捧げた曲ですが、この曲にどんな作曲・編曲を施したのか、それはどうウェイン・ショーターと繋がっているのか、聞かせてください。

あれは生徒に「いかに2音だけで丸1曲をアレンジができるか」をデモンストレーションするために書いた曲なんだ。聴けばわかる通り、メロディは2つの音の繰り返しや反転だ。ベースラインも2つの音のパターンで成り立っている。つまり限界は脳の中にしかない、ってことを示したかったんだ。

で、時々僕は学生たちに「30分で1曲を書く」というドリルを出すんだ。考え過ぎずに書き上げることを実践する意味で。ところがそれを自分でも実践しなければならなくなった。「I Dare You」のストリングス部分があるだろ?あれはレコーディング当日の朝「イントロが必要だ」と思いつき、即座に書き、スタジオに持っていったんだよ。「I Dare You」というタイトルはウェインが「ジャズとは何か?」と聞かれ「ジャズはI dare you (私はお前に挑戦する)だ」と答えたことからつけたんだ。ウェインにとってのジャズは「お前に挑戦する」なのさ。

◉即興演奏家としてのウェイン・ショーター:8分音符

――即興演奏家としてはどうですか? 即興演奏家ウェイン・ショーターはあなたにどんな影響を与えましたか?

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