【Vol.3】マイルス・デイビスの遺伝子ディスク・ガイド OutTakes for『MILES : REIMAGINED』
『MILES : REIMAGINED 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド』➡ https://www.shinko-music.co.jp/item/pid1643178/
この本の企画が始まった時にとりあえずやりたいと思ったのが、マイルス・デイビスの影響下の作品のディスクガイドだった。
マイルス音楽は後への影響が大きいと言われていて、実際に影響の範囲が広大だ。その割には「直接的に影響を受けていそうな作品は?」となると意外と誰もまとめていないとずっと思っていたからだ。ビル・エヴァンス派、ジョン・コルトレーン・フォロワー、キース・ジャレット・スタンダーズ・トリオ以降、ビリー・ホリデイの再来みたいなフレーズを見ることはあっても、マイルスとなると極端に少ない。
それに、マイルスの遺伝子みたいな話になると、マイルスのバンド出身者/共演者のエレクトリックアルバム(例えば、トニー・ウィリアムス・ライフタイム、ウェザー・リポート(ジョー・ザヴィヌル)、ハービーハンコック・ヘッドハンターズ、マハビシュヌ・オーケストラ、リターン・トゥ・フォエヴァー、アル・フォスター、レジー・ルーカス、サム・モリソンなど)ばかりが上がったりもする。これにも違和感があった。僕が知りたいのはそれじゃないんだよな、みたいな。なので、そういったはマイルスのバンド出身者/共演者は全て外して、マイルスの音楽からの影響が出ている作品にだけ絞ってやろうと思った。というか、直接接点があったミュージシャンたちの情報なら既にウェブでも、既発のマイルス関連本でいくらでも紹介されているだろうし、ここではそれはさくっと割愛した。
ついで言うと、ゲイリー・バーツとか、ソニー・フォーチュンとか、エムトゥーメイとか、カルロス・ガーネットとか、この辺のマイルスのバンド出身者のアルバムに関しては、エレクトリックだったり、ファンクの要素があったり、ポリリズミックなサウンドだったりもするけど、どちらかというとコルトレーン系譜=スピリチュアルジャズ的な感じで、あまりマイルスの音楽の影響とかは感じないものが多い。関係性がありそうなものだけを選んでディスクガイドを作りたかったんですね、僕は。あと、多くのプレイヤーがマイルスとやるときだけはマイルスの音楽を演じるようになってしまうけど、自分の作品になるとそれが出ないというのもマイルスのマジックだよね。自分の音楽性と違う志向の音楽をやっているプレイヤーをフィットさせちゃうマジックね。
※あと、取材させていただいた方の作品はインタビューの文中に出てくるので割愛した。例えば、渡辺貞夫『パストラル』『ラウンド・トリップ』、類家心平『UNDA』など。
そこで書き手として、最初から想定していたのが吉本秀純と廣瀬大輔の2人。正直に告白してしまうと、ここのコーナーの選盤はほんの一部を除いて、この2人に丸投げしている。僕は最終決定するだけで、盤を選んだのは彼ら二人だ。彼らのコーナーと言ってもいいと思います。
まず、世界中のあらゆるジャンルの中から、マイルスから影響を受けたサウンドを集めたかった。イブラヒム・マーロフみたいな影響を公言するトランぺッターが中東にいたりするので彼のような存在を集めたかったし、90年代以降はクラブミュージックやポストロックの元祖として、マイルスを聴いていたアーティストもいた。そういうものを片っ端から集めてみたかった。このあたりはワールドミュージックのスぺシャリストであり、あらゆるジャンルに造詣が深い吉本秀純が引き受けてくれた。
そしてもう一つは、ジャズに関して言えば、ヨーロッパジャズや日本のジャズなど、あらゆるところが掘り起こされて、ものすごく希少な盤でさえ、CD化されていたりする。そんな状況の中でマイルス影響下の作品もかなり掘り起こされていた。それを一度集めてみたいという気持ちはずっとあった。それは例えば、UKのマイルス・クインテットなどとも称されていたドン・レンデル=イアン・カーのバンドとか、マイルスに感化されてエレクトリックに足を踏み入れたフィンランドジャズの大物イーロ・コイビストイネンのようなミュージシャンだ。ここに関しては、アメリカのジャズだけでなく、ヨーロッパや日本のレコードもかなりコレクションしていて、発掘事情に詳しい廣瀬大輔にお願いした。
レアグルーヴやクラブジャズ的な文脈も含めて、ジャズのレコードは掘りつくしたと言っていいくらいに掘り起こされている。ただ、それを音楽的にラベリングし、文脈に当てはめたり、歴史に接続する作業に関しては、お世辞にも進んでいるとは言えない状況だ。そういうところへの一つの提案という意味も込めてこういう企画をやってみたのもある。今後、ヒップホップやクラブジャズ以降の書き手によって、このような作業が進んで行くとジャズ評論も面白くなるかなと個人的には思う。
さて、リストアップしてもらっている時点ですごいことになっていたので、完成してみたら、今までありそうでなかったディープなディスクガイドができあがった。吉本さんも廣瀬くんもそれぞれワールドミュージック、ジャズ/クラブジャズの書き手みたいなイメージがあるかもしれないが、その枠に収まるような書き手ではない。ジャズ以外のアルバムも多く、地域も時代も音楽性もバラバラ。マイルスの影響力の大きさを改めて感じるリストになったと思う。そのうち、これにマイルス門下生やウォレス・ルーニーみたいなそっくりさんや橋本一子『Miles Away』みたいなオマージュ・アルバムも加えていったら、更に面白いディスクガイドになるかもしれない。
以下は残念ながらお2人にあげてもらったけど、スペースの都合上、掲載を見送ったもののタイトルの一部をおまけ的に並べておく。この本を増補するなら遺伝子ディスクガイドはせめて50枚にしたい。興味ある方はどこかで聴いてみてください。
●吉本秀純 ◇廣瀬大輔 ・柳樂
●Avishai Cohen
●Nucleus(Soft Machineとかカンタベリー系)
●Santana
●Fela Kuti(初期)
●Tortoisなどのシカゴ音響派
●Jaga Jazzist
◇Joachim Khun / Hip Elegy
◇Mike Westbrook Orchestra / Citadel / Room 315
◇Franco Ambrosetti / The Jazz Live Situation
◇Smoke / Everything
◇Charlie Mariano / Reflections
◇Dusko Goykovich / As Simple As It Is
◇The EmCee Five
◇Erik Truffaz
・日野皓正「ハイノロジー」
・大野俊三「サムシング・カミング」
・今村祐司「エアー」
『MILES : REIMAGINED 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド』➡ https://www.shinko-music.co.jp/item/pid1643178/
面白かったら投げ銭をいただけるとうれしいです。