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ジャズとスカ、レゲエとジャズ:ジャマイカとイギリスにおけるジャズとジャマイカ音楽の関係 with PLAYLIST

以下のようなラテンジャズ/カリビアンジャズについてジャズ・リスナーのためにザックリ解説する記事を作りました。ラテン音楽のガイドはルンバやサルサやティンバなどの情報は充実しているけど、ジャズについて書いているものがほとんどないので、そこだけにフォーカスしたものです。

ここではカリブ海に面する国におけるそれぞれの国の音楽とジャズが融合している事例を紹介しています。

その中で《イギリスのカリビアン・ジャズ:キューバ、トリニダード、バルバドス etc》ということでジャマイカやトリニダード、バルバドスからの移民たちがイギリスで作ったジャズを紹介しました。

その際にジャマイカとレゲエ/スカに関しては省いていたので、その記事の補足的にここに書きたいのと、ジャズのリスナーにもスカやジャマイカン・ジャズに触れてもらえればという思いでここに記事を作ることにしました。

なので、ここではジャズ目線だけで話を進めます。

以下、この記事のために作ったプレイリストです。

2010年代に入ってから、ジャマイカにジャズが入ってきて、ジャマイカ人たちがジャズを演奏し始めて、そこからスカが生まれる、と超超大雑把なジャマイカのジャズの歴史がわかるような良質なコンピレーションCDが2枚リリースされました。それ以外にも日本のレーベルDub Storeがアルバム単位でリイシューするようになったりもして、一気に手に入りやすくなったので、誰にでも手軽に概要を知れるようになりました。

https://donutsmagazine.com/store/dub-store/

・『Jamaica Jazz 1931-1962』(2016)

スカを代表するグループのスカタライツが結成されたといわれるのが1963年。このコンピレーションはその1963年以前のジャマイカにおけるジャズを集めたコンピレーションです。CD3枚組60曲。

後にイギリスのジャズシーンで活躍したジョー・ハリオットや、アメリカのブルーノートからデビューしたジャマイカ屈指のジャズ・ミュージシャンのディジー・リースの音源なども入っています。ディスク3の1962年音源はスカタライツのメンバーたちのスカ以前のジャズ演奏が入っています。現状、最高の資料だと思います。CD買えるうちにぜひ。

同じレーベルからスカやロックステディの時代にも歌われたジャマイカの音楽”メント”のコンピレーション『Jamaica Mento 1951-1958』や、アメリカのリズム&ブルースからの影響を受けたジャマイカ音楽のコンピレーション『Jamaica Rhythm & Blues 1956-1961』もあります。こちらも素晴らしい内容。

・『Jamaica Jazz From Federal Records : Carib Roots, Jazz, Mento, Latin, Merengue & Rhumba 1960-1968』(2019)

上の続きみたいなコンピレーション。ジャマイカのジャズ・ミュージシャンがスカだけじゃなくて、カリブの様々な音楽を演奏していたことがわかるのも良くて、ジャマイカ=レゲエというイメージだけではない音楽的な多様さを知ることができます。

・『Jazz Jamaica from the Workshop』(1962)

こちらは昔からある定番。スカの名作でお馴染みの名門レーベルSTUDIO ONEが設立される前にオーナーのコクソン・ドッドがプロデュースを手掛けていたジャマイカン・ジャズの名盤。後にスカタライツを結成するメンバーによるスカ以前のジャズ音源を聴くためには、ずっとこれが定番でした。

ローランド・アルフォンソトミー・マクックドン・ドラモンドアーネスト・ラングリンセシル・ロイドらが演奏しています。1992年にCD化されて一気に手に入りやすくなり、スカを聴いていた人はみんな聴いてたんじゃないかと。

日本では『銀巴里セッション 』と呼ばれるアルバムがあります。銀座にあった銀巴里という店に若手ジャズ・ミュージシャンが集まってジャム・セッションをやったり、「新世紀音楽研究所」という名のセッション・イベントでオリジナル曲を制作し発表したりもしていました。ここで切磋琢磨した若手が後に日本のジャズをけん引していく金井英人、稲葉国光、富樫雅彦、菊地雅章、中牟礼貞則、日野皓正らだったわけですが、この『Jazz Jamaica』もそんな世界中にあった若手ジャズ・ミュージシャンの実験の場だったのでしょう。『Jazz Jamaica』を聴くと、60年代初期は世界中にこんな場所があり、日本もジャマイカも例外ではなかったのかなと思えてきます。

そのスカタライツがスカをやるようになるわけですが、とりあえずスカを聴きたかったら、スカタライツを聴いてもらえれば、と思います。歌ものということなら、プリンス・バスターなどなど色々いますが、ジャズと繋がるインストのスカということであれば、スカタライツとそのメンバーの参加作を聴いていけばそれでOKとも言えます。このあたりはAppleMusicにもSpotifyにもたくさんあるので、調べて聴いてください。

スカタライツはなぜか日本の「りんご追分」をカヴァーしてたりもするので、カヴァー曲のセンスとかも楽しいです。

スカ以前のジャマイカン・ジャズを聴けば、スカのミュージシャン達はもともとはジャズ・ミュージシャンだったことがよくわかります。ジャマイカ系イギリス人のサックス奏者コートニー・パインの「スカのミュージシャンたちはもともとジャズミュージシャンだったから、昼はスカを演奏していて、夜はジャムセッションでジャズを演奏していた」との発言も上記の音源を聴けば納得できるでしょう。

その後、スカタライツ周辺のギタリストのアーネスト・ラングリンのように欧米のジャズシーンで活動するミュージシャンも出てきて、ジャマイカ生まれで17歳からアメリカで育ったピアニストのモンティ・アレキサンダーがジャズシーンで頭角を現してアーネストとも度々共演したり、みたいなことがアメリカやヨーロッパのレーベルでも起きます。彼らは自身の作品の中でスカやレゲエに加え、カリプソなどカリブの音楽を取り上げたりと独自の活動をしていきます。

モンティに関しては徐々にレゲエとの関係を深めていて、後にスライ&ロビーとのコラボでジャズ×レゲエなアルバムを出していたり、セロニアス・モンクをレゲエで解釈するアルバムを出したり、ジャズとレゲエの関係を独自の方法で追求しています。唯一無二の存在ですね。

ちなみに、このジャズの文脈で重要なのはトロンボーン奏者のリコ・ロドリゲス

スカタライツのメンバーとも演奏していたキューバ生まれジャマイカ育ち。ドン・ドラモンドからも教えを受けたリコはイギリスに移住して活動。イギリスのアイランド・レコーズと契約して1973年に名盤『Man from Wareika』を発表。このアルバムはインスト・ルーツ・レゲエの名盤であるだけでなく、アメリカでは名門ブルーノートからリリースされる異例の扱いを受けたことでも知られていたり。

リコは後にイギリスのスカ・バンドのスペシャルズ『Specials』スペシャルA.K.A.『In The Studio』やダブ・ポエットの巨人リントン・クウェシ・ジョンソン『Bass Culture』などの名盤に貢献したりとその筋の重要人物となります。

そのリコがメンバーとして活動したイギリスのジャズ・バンドがジャズ・ジャマイカ。前述のコンピレーションと同名ですが、別物です。

イギリスでジャズベーシストとして活動し、コートニー・パインのグループのメンバーだったギャリー・クロスビーが結成したこのバンドはイギリスの若手ジャズ・ミュージシャンと、スカやレゲエの大御所とのコラボレーションでジャズの名曲をスカ・アレンジで演奏するプロジェクトで、1993年にデビュー作『Skaravan』をリリースしています。リコはエディー・タンタン・ソーントンらとともに中心メンバーとして活動します。

ジャズ・ジャマイカはレゲエ・シンガーのサンドラ・クロスとのコラボでレゲエ×ジャズのコンセプトでヴォーカル・アルバムの96年『Just A Dream』と98年『Dreams Come True...』を作っていたりもしていて、なかなか興味深い。

ジャマイカの宗主国だったイギリスの音楽シーンにスカやレゲエが届き、大きな影響を与えたことはお馴染みですが、イギリスにはジャマイカ移民が多かったこともあり、ジャマイカの音楽はイギリスで定着していました。例えば、ジャマイカ移民の家に生まれたコートニー・パインのように「子供のころ、家ではスカがよく流れていて、ジャズよりも先にスカに親しんでいた。」と語るようなものいて、ジャマイカ系の家でそれは珍しくない光景だったよう。そのコートニー・パインはジャズ・ミュージシャンとして活動する中でスカやレゲエを度々演奏しています。

そもそもイギリスではあらゆるジャンルにジャマイカ音楽の影響があり、例えば、レゲエを取り入れるロック・バンド、パンク・バンドは少なくないし、ダブの要素ということでも、ポストパンクから、トリップホップ、ダブステップと、あげればキリがないです。そのあたりは以下の記事を見てもらっても明らかと。イギリスの音楽の中でレゲエは欠かすことのできない要素のひとつです。

イギリスではロックやパンクやトリップホップなどと同じ状況が当然ジャズにもある、というだけのことなんですが、ここで面白いのはイギリス中にあるジャマイカン・カルチャーやジャマイカ移民のコミュニティの話だけでなく、コートニー・パインギャリー・クロスビーといったジャズ・ミュージシャンがUKに住むカリブ系やアフリカ系の黒人たちのジャズ教育にも大きな役割を果たしたため、ジャズシーンの中ではかなり深くレゲエの影響が浸透していったとも考えられることです。

例えば、ギャリー・クロスビーはロンドンを拠点にトゥモローズ・ウォーリアーズという子供や若者に楽器に触れさせ、ジャズを中心に音楽を教えるNPOを運営していて、ここの生徒たちはギャリーの音楽に触れるだけでなく、ジャズ・ジャマイカなどのスカやレゲエにも触れるようになります。そういった背景もあり、今ではイギリスの少なくないジャズミュージシャンからもレゲエの影響が見えるような状態になっています。

シャバカ・ハッチングスヌバイア・ガルシアジョー・アーモン・ジョーンズエズラ・コレクティブザラ・マクファーレインらは、レゲエを演奏しています。彼らはみんな若いころにトゥモローズ・ウォリアーズで音楽を教えてもらっていたミュージシャン。様々なジャンルの要素を取り入れる彼らの音楽の中心はあくまでジャズなのでしょうけど、そこには若者らしくダブステップやグライムの影響もあれば、カリプソやアフロビートもあり、もちろんレゲエもあったわけです。

このイギリスの音楽シーンにおけるレゲエの影響は想像以上に大きくて、ジャズ系ドラマーのユセフ・デイズ

「僕らはCarlton BarrettAston Barrett(※ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズのリズムセクション)、あるいはSly DunbarRobbie Shakespeare(※レゲエ史上最高のリズムセクションのひとつ。通称スライ&ロビー) のようなリズム隊を目指している。」
「過去の名作と言われるレコーディングには必ずいいドラムとベースが存在する。リズムセクションが曲を作っていると言ってもいいものも少なくない。Bob Marley & the Wailersにしても音楽の土台はドラムとベースなんだ。僕とロッコ・パラディ―のはそんなリズムセクションを再び呼び戻そうとしているんだ。」

というような発言をしていて、ジャズ系ドラマーでさえレゲエのドラマーからの影響がかなり強いことがわかります。ユセフ・デイズだけでなく、モーゼス・ボイド、エズラ・コレクティブのフェミ・コレオソ、ビートメイカーでありドラマーのクウェイク・ベースらはまさにそういう”UKらしいジャズ・ドラマー”と言えるかも。

他にもシャバカ・ハッチングスのようにナイヤビンギからの影響を語っていたり、ザラ・マクファーレインのようにジャマイカの民間信仰の音楽クミナを取り上げたり、様々な形でジャマイカの音楽を参照していることも重要かなと思われます。

これらのレゲエも含むカリブ要素に加え、アフロビートに代表されるアフリカ要素を軸に見てみると、今のイギリスのジャズの動向が見えやすくなる気がします。ここに南アフリカ由来のタウンシップジャイブクウェラムバカンガを加えると更に見通しが良くなるでしょう。クリス・マクレガールイス・モホロベキ・ムセレクといった南アフリカ出身のイギリスのジャズシーンでの活躍はジャマイカのミュージシャン並みの影響をイギリスのジャズに与えています。

今のイギリスのジャズに関しては、ジャンルとしては「ジャズ」として括られていますが、カリブやアフリカも含めたイギリスのカルチャー全体の影響を受けた音楽として聴いたほうがいいのかもしれません。

近年のイギリスのジャズの特徴にリズムに特化した作曲とバンドサウンドと即興演奏というのがありますが、そこに関しても単純にアメリカのジャズだけでなく、アフロビートやラテンジャズ、そして、スカの延長にあるものとして、つまり、ジャマイカの文脈で言えばスカタライツやリコ・ロドリゲスから始まり、コートニー・パインやギャリー・クロスビーを経て、シャバカ・ハッチングスやエズラ・コレクティブに連なるラインとしてイギリスのジャズを聴いてみるととても自然に捉えられる気もします。

最近だとイギリスのジャズ・サックス奏者で、スピリチュアルジャズ系の音楽性で知られていたナット・バーチャルがレゲエ・トロンボーン奏者ヴィッン・ゴードンとの共演でレゲエ・アルバムを作ったり、ゴリゴリのダブ盤を作ったり。ジャズとレゲエの距離は更に縮まりつつある。

というわけで、ぜひ、スカやレゲエも含めて、ジャズの外の視点からUKジャズを聴いてみてください。

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以下、このあたりの話に関心を持った方のために参考書籍を上げておきます。

上記の『Jamaica Jazz 1931-1962』『Jamaica Jazz From Federal Records : Carib Roots, Jazz, Mento, Latin, Merengue & Rhumba 1960-1968』といったコンピレーションのライナーノーツを読むのもいいと思います。

『BLUE BEAT BOP!』(2001/2013)

レゲエではなく、スカに焦点を当てた2001年の名著。リコ・ロドリゲスのインタビューなど、いろいろ載ってます。必読。2013年には増補版が発売されています。

ちなみに表紙がジャイルス・ピーターソンが選曲したジャズの名門ブルーノートのコンピレーションのオマージュなのもセンスが良いし、スカとジャズとイギリスの関係を考えると実にしっくりきます。

『SKA DISC GUIDE』(2003)

スカだけのディスクガイド。スカに関してはとりあえずこれがあれば十分でしょう。

・『PoP 90’s レゲエ・ディスクガイド』(1998)

スカ、ロックステディ、ルーツレゲエ、ダブ、ダンスホールなどなど、幅広くレゲエが載っているディスクガイド。00年代にはこれのお世話になった人は多いのではないかと。これに載っていたものを買い集めた時期が僕にもありました。

『STUDIO VOICE スカ・レゲエ ジャマイカン・ミュージックのブラッド・ライン』(2003)

スカやレゲエのリイシューが盛り上がっていた2000年代前半に出たスタジオ・ヴォイスのレゲエ特集。

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