見出し画像

Nubya Garcia - Source:Disc Review without Preparation

ヌバイア・ガルシアの『Source』は何より彼女のサックスが素晴らしい。

彼女のサックスの音色=ヴォイスを音楽の中心にどっしり置いて、その演奏で真っ直ぐ勝負しているのに清々しささえ感じる。クンビアあり、アフロビートあり、レゲエ/ダブありの様々な要素が混じるバラエティ豊かな楽曲の中でそのヴォイスを最大限に活かすことで独特の情感を奏でている。

「Source」ではミドルテンポのレゲエのリズムの上で、サックスをリズム化させずに真っ直ぐなロングトーンも駆使して音色の魅力を推しつつ、ゆったりとエレガントにフロウさせている。レゲエのビートには彼女が所属するUKの『We Out Here』コミュニティ(とUKジャズにおけるカリブ系移民の歴史)の傾向がモロに出てるけど、そのリズムセクションに同コミュニティの他の作品とは異なる方法論でサックスを乗せている。そのゆったりとじっくりと自分のストーリーを描くようにソロを聴かせるスタイルはこれまでのUKのシーンには無かったと思う。ゆったりと音色や質感をコントロールして、アウトせずにノイズも含ませずに込み上げてくる熱さを抑えたからこそ出るどこか落ち着いた、ゆったりと語りかけるようなムードが良い。聴き惚れる。

アルバム全体でもヌバイア・ガルシアが意図してるサックス表現が見える。どの曲もビートや他のミュージシャンのソロにはこのシーンの音が聴こえるのに、彼女のサックスだけはチルでもダンスでもない表現で彼女が狙った塩梅の感情と温度を奏でていて、それが本作をが特別なものにしている。

その演奏はリズミックでスピリチュアルジャズっぽいと感じた『When We Are』のころとはかなり変わった印象があるし、ネリヤ(Nerija)での彼女は作曲やアンサンブルの中で『Source』にも通じる表現をしてはいる。ただ、『Source』ではそのNerijaでも見せた側面を即興演奏の中で追求したのかもという気がする。

ちなみにサックスの印象としてはウェイン・ショーター、ジョー・ヘンダーソン、もしくはソニー・ロリンズを研究したかもって感じ。コルトレーンやフェラ・クティ、フリージャズを感じるシャバカとは全く違う。ヌバイアは自分の表現を探して当てたんだなと思う。

僕は2019年にジョー・アーモン・ジョーンズのグループのメンバーとして来日した際にヌバイアを生で見ている。その時にソロを聴いて、音源だと打ち込み風のビートにかっちり乗る印象だけど、1人だけリズムの縦の線に合わせずに、ビートの強さとは対極とも言えるゆったりとしたタイム感で吹いてて、音源の印象と違うなと思ってたけど、『Source』ではそれを形にしたんだなと納得した。

これまで『We Out Here』周りのUKのシーンは、若さに溢れていて、勢いがあったし、UK独特のDJカルチャーやヴァイナル・カルチャーの傾向もあり、その音楽性はダンサブルで、パワフルで、祝祭的で、スピリチュアルな印象が強かった。中にはダークなものはあったけど、こういう内省を感じるグレーなムードはあまり無かったし、それをミュージシャン個人のソロで聴かせようとしているものも無かった。

ちなみにヌバイア・ガルシアの作品にコロンビアのLa Perlaが参加しててびっくり。2年前、スナーキー・パピー主催のフェスで観て、すげーかっこよかった。超ディープでなんならサイケなアフリカルーツの南米民族音楽。まさかラ・ぺルラがヌバイアのコロンビア録音のクンビア〜ブードゥー的な曲「La cumbia me esta llamando」に繋がるとは。

アフロビート、レゲエ、ラテンみたいなところは最近のUKジャズの要素だなって感じだけど、ジャマイカのナイヤビンギやコロンビアのクンビア辺りのアフリカ由来の宗教音楽にも視野を広げて、UKならではのディアスポラの音楽を追求してるのが面白いし、そのリズムの掘り下げかたがシャバカ・ハッチングスのシャバカ&ジ・アンセスターの『We Are Sent Here By History』とも通じるのも面白い。

人気プロデューサーのKwesが手掛けただけあって音像が現代的で同時代の他ジャンルに混ざっても自然に聴けるのも良い。もともとデビュー時からエレクトリックなサウンドへの関心があるヌバイアだが、プログラミングではなく、成長した自分たちのコミュニティのミュージシャンを信じて、ジャズの生演奏のフォーマットのままで音のバランスや音像で新しさを聴かせようとしたのも功を奏している。それがある意味ではオーセンティックで基本に忠実なヌバイアのサックス・スタイルの魅力を浮かび上がらせているのも成功の要因かもしれない。

いろんな意味で2019年のサンズ・オブ・ケメット『Your Queen is A Reptile』に続く重要作なのかもしれないとも思う。そして、同時にこのアルバムはシーンが少し成長してきたことを示す一枚でもあると思う。

※記事が面白かったら投げ銭もしくはサポートをお願いします。
あなたのドネーションが次の記事を作る予算になります。

ここから先は

0字

¥ 100

面白かったら投げ銭をいただけるとうれしいです。