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デパ地下と本屋さん

 そこへ足を運ぶとなんとなく元気が出る。まるで「パワースポット」みたいな。私にとってそんな場所は、デパ地下と本屋さんだ。

仕事帰りにデパ地下へ

 言葉に関わる仕事をしたかった私だが、就職活動はなかなかうまくいかなかった。文章を書ける週刊情報紙の契約社員の職を得た時には、30歳を過ぎていた。経験も実力も足りず、必死に働きながら仕事を覚えた。
 大学卒業以来の地元を離れた一人暮らし。大学のあった場所でもないから、あまり知り合いもいない。働き始めた頃は友達もいなくて、楽しみは食べたり飲んだりすることくらい。

 作家の林真理子さんがエッセイで「デパートに行くと元気になる」と書いていた覚えがある。オシャレな林さんの場合はブランドの良質なアイテムが揃ったファッションフロアだったと思うが、私の場合は食料品が並ぶ地下フロア。仕事でちょっと疲れたり、もやもやすることがあった時、デパ地下に行くと、そのキラキラした雰囲気に気分が変わった。

 当時働いていた会社は街中にあり、すぐ近くにデパートがあった。長い地下街が整備された街だったので、信号のない地下街を行き来することが多く、外出した帰りにたまにデパ地下を抜けて会社に戻ったりもした。
 普段は簡単なお弁当を持参していたけれど、時々は昼休みにデパ地下へ向かった。お弁当やパン、おにぎりの専門店などもあり、その日の気分と予算で選ぶ。デパートが開いている時間に家に帰れないことも多かったけれど、週末に、閉店間際で割引されたお惣菜を買って、家でまとめ買いしておいたお酒と一緒に味わうのは、ささやかな贅沢だった。
 ここ数年の外出しづらかった時期にも、休日にデパ地下に寄るのが小さな楽しみだった。

東京でもデパ地下へ

銀座の街並み

 東京や大阪などのデパートの地下フロアは規模が違う。新宿の伊勢丹は今も昔も憧れの「百貨店」。久しぶりに地下の食料品フロアに行った時には、海外の有名店も入っていて、ワクワクした。このnoteを一緒に作っている3人で集まり、持ち寄りのホームパーティーをした時には、買い出しに伊勢丹を目指した。地下のフロアをぐるぐる回りながら、楽しく頭を悩ませた。

 フランス菓子の講座に通ったことがあるので、フランスの有名なシェフの店や日本の名店のスイーツに目を奪われる。一度、銀座のホテルに宿泊した時には、勇んで銀座三越に向かった。入口でお馴染みのライオンが迎えてくれる。この時は期間限定でモンブランを販売する店が出ていた。フランスの栗と熊本の栗を使ったものがあり、どちらも気になる。どちらを選んだか忘れてしまったが、持ち帰りホテルの部屋で味わった。 

時間を忘れる本屋さん

 子どもの頃、本屋さんになりたいと思っていた。好きなだけ本が読めると思ったからだ。小学生の頃にはシリーズで読んでいた本があり、新刊を買ってもらうのがうれしかった。あまり学校に馴染めなかった中学生の頃、愛読している漫画や少女小説の新刊が出ると、学校近くの本屋さんに立ち寄った。今はもう、無くなってしまった小さな個人商店だ。

 社会人になってから、友人との待ち合わせは本屋さんが多かった。当時、ビルの1階から3階までを使った書店があり、1階は雑誌や文庫、単行本、2階に専門的な本やジャンル別のコーナーがあり、3階には参考書や児童書、漫画、洋書などがあった。1階から順番にエスカレーターで上に上がっていく。1時間くらい平気でいられた。

 街中に広い売り場面積を誇る大型書店ができて喜んでいたら、長年親しんだこの書店が閉店してしまった。同じ系列の店が郊外のショッピングモールにできたこともあったようだが、閉店を知った時はさびしかった。
 最近は個性的な書店やブックカフェも増えているようだ。旅先でそんな店を訪ねたのも楽しい思い出だ。

本との偶然の出会い

最近出会った本たち

 自宅の本棚がいっぱいになってきて、最近、電子書籍も利用するようになった。もうすぐ読み終わりそうな本があると2冊バッグに入れていたので、一度に何冊も持ち歩けるというのは便利だ。でも紙の本もやっぱり好きだ。読みながら前のページの内容を確かめることも多いので、紙の方がさっと戻れる。友人が話していたが、ページをめくるという行為も大事らしい。目で頭で、そして手で読んでいる。

 大人になって読書量は減ったけれど、変わらず本が好きだし、書店が好きだ。地元で大きな地震があり、しばらく街中の店が軒並み閉店していた頃。書店が再開した時には、うれしくてほっとした。そんなこともあって、地元の書店をできるだけ利用したいと思うようになった。
 先日目にした新聞記事によると、全国的に書店が減少している。私の住んでいる町でも、売場を縮小した書店が複数ある。電子書籍が広まり紙の本を購入する人が減っているだろうし、通信販売も進化している。ネットで夕方注文した本が、翌日に届いた時には驚いた。サイトのおすすめで知った本も多いし、検索も簡単だ。その便利さも享受しながら、書店にも出かけたい。

 本屋さんには、本との偶然の出会いがある。店に入ったら、店頭の特設コーナー、書棚の前の平積みの本を眺める。好きな作家の名前を探すと、まだ読んだことのない本が見つかる。興味のある分野の書棚の前に立つと、本と目が合うこともある。
 偶然の出会いの機会が減ってしまうので、これ以上書店が無くなったり、小さくなったりしたら困る。しかし、限られた自宅のスペースも悩ましい。数年前に思い切って本を整理したのだが、まただいぶ棚から溢れてきてしまった。

 先日、ちょっと気持ちが落ち着かないことがあって、真っ直ぐ帰ろうかと思ったけれど、書店に立ち寄った。結局、大手チェーン店と地元の老舗書店、2店をはしごした。その間にだんだん気持ちが落ち着いてきた。そしてまた、本棚に新しい本が加わった。

(Text&Photos:Shoko)©︎elia


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