夢のような一人旅・オーストリア
つい先日、オーストリア・ウィーンでテロが発生し、多数の死傷者が出た。
私にとってオーストリアは、初めて海外一人旅をした国であり、最初から最後まで夢のような時間を過ごした場所だったので、ショックだった。亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、安全で美しい街が戻ってくることを願って、今回は記事を書こうと思う。
到着日、粋なサービスに感謝!
そう、オーストリアは私にとって初の海外一人旅の目的地で、日程は3泊5日。
いまでこそ、弾丸ツアーが珍しくなくなっているが、旅をしたちょうど20年前はこの日程を言うと誰もが驚いた。
日本からの直行便でウィーンに到着したのは、夕方4時。
ボストンバック1つしか持たない私は荷物を預けておらず、すぐに到着ロビーに出ることができた。
すると後ろから「Norikoさん!」と声をかけられた。あまりに親し気だったので「あれ?私オーストリアに知り合いいたっけ」と思い振り向くと、日本の旅行代理店でお願いしていた空港送迎サービスの、Vさんという女性だった。
名前は完全にオーストリア風だが、見るからに日本人なVさんは、きっとこちらに嫁いできたのだろう。当時の日記に「明るくて気さくなインテリおばさん(失礼!)」と記していた。
Vさんの運転する乗用車(ベンツだった!)でウイーンの基礎知識を教えてもらいながらホテルに着くと、なんとVさんは、「本当はだめなんだけど、Norikoさんとっても早く到着ロビーに出てきてくれて、時間あるからオペラ座に一緒に行こうか」と提案してくれた。
私は、もしもチケットが買えればオペラが見たい、と話していたのだ。
そこで急いで荷物だけ置いて、早速Vさんとウィーンの街に出た。
Vさんは、路面電車の乗り方を教えてくれるという。
どこの国でも、最初に公共交通機関に乗るときはどきどきする。これは非常にありがたい。
Vさんとしても、弾丸旅行の私に少しでも多くウィーンの素敵なところを見せたかったようで、路面電車から車窓を眺めながら、翌日私が行く予定の場所への行き方や、おすすめのお土産屋さんなどを教えてくれた。
ウィーンの街並みはとても清潔で落ち着いた雰囲気だった。Vさんに伝えると、嬉しそうに「街は年々きれいになっているのよ」と話していた。
ウィーン国立歌劇場に着くと、Vさんは親切にも窓口でチケットを買ってきてくれるという。
演目はかの有名な「カルメン」で、立ち見も覚悟していたのだが、「最後の1枚だった!」と窓口から戻ってきたVさん。何から何までラッキーだ。
Vさんとの別れ際に言われたのは、「ウィーンは、夜中に女性1人で歩いていても大丈夫な安全な街よ。いっぱい楽しんでね」。
今回のテロで、どれほどウィーン、そしてオーストリアの人たちがショックを受けていることだろうか。
さて、オペラである。
まずは観客の服装の華やかなこと。まるで結婚披露宴のようだと思った。
絢爛豪華な装飾が施された劇場で、2階のバルコニー席からうっとりと舞台を見つめた。
Vさんの友人がこのオペラ座の衣装部にいるとかで「このオペラ座の衣装は時代考証がしっかりしていて、下着まで当時のデザインのものを再現している」そうだ。
誰もが耳にしたことのある、ビゼー「カルメン前奏曲」は、リズムを力強く刻むイメージがあったが、ここのオーケストラの演奏はものすごく軽やかで上品で、さすがウィーン、と思った。
長いフライトと時差ボケもあり、いろんな意味で夢見心地のひと時だった。
ウィーンの街を歩く歩く・・・
翌日は丸1日、ウィーンの街を歩きに歩いた。
まずは朝7時半に開くスーパーへ、開店と同時に訪れた。ここで、チョコレートなどのお土産をたくさん買い込んでいったんホテルに置きに行く。
このあとは、ヴェルヴェデーレ宮殿のクリムト展、シュテファン寺院、旧市街をぐるりと囲むリンク大通りなど、とにかく歩いた。
ところでウィーンの街中では、ドイツ語表記ばかりで英語表記がとても少なかった。そこでお楽しみのランチも、とにかく英語メニューのありそうな店をさがした。
入った店では、名物のウインナー・シュニッツェルを頼んだ。
仔牛のもも肉を薄く薄くのばし、細かいパン粉をつけて焼いたものだ。
20㎝四方くらいのかなり大きなカツレツだが、薄いので完食。これが大変おいしい。付け合わせのじゃがいもはバターとレモンが効いていてこちらもおいしい。白ワインとともに堪能し大満足だ。
あとから知ったのだが、私が入った店は1846年に創業した有名店だったようだ。
1日ツアーも出会いの宝庫
翌日は、ザルツカンマーグート地方の1日ツアーに参加した。こちらは日本から予約していったものだ。
ウィーンの駅に集合し、6人ずつに分かれて鉄道のコンパートメントに座る。
ここで一緒になったのは、旅好きで、あちこち海外旅行にでかけているという結婚9年目のMさんご夫婦。海外旅行が初めてという母娘2人づれ。そして、私と同じ年くらいの女性で、9日間の一人旅の途中というYさん。
ウィーンからザルツカンマーグート地方の玄関口、ザルツブルグまで3時間だが、6人で話がはずみ、あっという間に到着。そこにはガイドの日本人女性が待っていてくれ、マイクロバスに乗り込んだ。
フシュル湖、ザンクト・ヴォルフガンク湖、モーツアルトの母の生家、そしてモント湖とまわる。
この日は見事な秋晴れで、青空と湖がとても美しい。
映画「サウンド・オブ・ミュージック」で、トラップ大佐とマリアの結婚式シーンを撮影した教会にも訪れた。
教会の外では、ちょうど村の秋祭りが開催されていて、村中の人がいるのでは?と思うほどのにぎわいだった。
そこでは、大きなチーズを少しずつ溶かしながら削って食べるラクレットの屋台や、ワインの屋台などが出ていた。
「モスト」という、白ワイン用にしぼったジュースがジョッキで売られていて、私とYさんは、なみなみとつがれたモストで乾杯した。
Yさんとはすっかり意気投合し、ずっと2人で行動していたものだから、ツアーに参加した人たちはみな、私たちがこの日出会ったばかりだというと驚いた。
少しずつ日は傾きはじめ、教会そばの菩提樹の並木道からの木漏れ日が、きらきらとまぶしい。Yさんと「いいねー、いいねー」を連発していた。
初めての一人旅で、少しだけ不安もあったけれど、初日に出会ったVさんを始め、Yさん、Mさんと、素敵な方たちと出会うことができ、自然も、建造物も美しい。
この日の日記には、「頑張って働いてお金稼いで旅行できて良かった。もっと稼ごう」と書いていたのでよほど幸せだったのだろう。
このあとYさんはザルツブルグに2泊するということでお別れし、帰りの鉄道ではまたMさんご夫婦とおしゃべりしながらウィーンに戻った。Mさんご夫婦はわざわざホテルまで見送ってくれた。
最後の最後に甘~い名物を
さて最終日。
空港に向かう前に私がどうしても行きたかったのは、ホテル・ザッハーのザッハー・カフェ。本場でザッハトルテを食べたかったのだ。
高級感漂うホテル内のカフェだが、ウエイターの男性はとても感じが良くにこにこと案内してくれた。
念願のザッハトルテは、じゅわーっと甘いジャムのしみ込んだチョコレートスポンジにチョココーティング。上にはザッハーの刻印入りの丸い小さなチョコレートが乗っていて、生クリームが添えてある。
それはそれは甘かった……。
覚悟はしていたが、頭がしびれる甘さ。基本的になんでも残さず食べる私だが、これは無理だった。
ホテルには再びVさんが迎えに来てくれ、どこに行って何をしたのか、車中であれこれ報告した。
ちょうどこのとき、シドニーオリンピックが開催されており、Vさんは閉会式を現地の日本人たちで一緒に観戦した、と話していた。
そして空港でまたまたMさんご夫婦と会い、出発までひとしきりおしゃべりを楽しんだ。
弾丸オーストリア、小走りに見て回った印象だったが、一人旅にはこのくらいの長さがちょうど良かったのだと思う。
そして、一人でどこか海外旅行に行きたい、という方には、オーストリアを心からおすすめしたかったのだが、このようなテロが発生してしまい、残念でならない。
私に夢のようなひとときをくれたあの街に、再び安全と平和が訪れますように。
(text , photos : Noriko) Ⓒelia
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