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書を持って旅へ出よう


旅の楽しみのひとつが、読書だ。
あんなにまとめて本が読める時間なんて、そうそうとれるものではない。


うちから、たとえばヨーロッパの都市までだと何時間くらいかかるだろう?
丸1日くらい?往復時間をつかって丸2日くらい、みっちりと読書できる計算になる。(現地ではあまり読書はしない。)


「どんな本を何冊持っていくか」という問題は、「旅先で何を食べるか」というのと同じくらい、私にとっては重要だ。

荷物が重くなると辛いので、持参するのは文庫本、かつ、小説限定。読むのになるべく時間がかかるよう、極力ぶ厚い本を3~4冊。


問題はその内容だ。
もしもつまらなければ、まったく意味のない荷物を運んだことになる。持参する本を書店で選ぶときは、ものすごく真剣だ。1時間以上かけて選ぶ。


好きな作家の本であれば、間違いない。
できれば、上下巻に分かれているくらいの濃いストーリーが良い。時間を忘れるくらい、物語の世界に入り込みたいから。

しかしうっかり1巻から4巻などの続きものを持参して、1巻で面白くないことに気づいたら悲惨なので、長くても上中下の3巻。そして1冊で完結する本も必ずチョイス。

本当にこれらが面白いのか…これは出発までのお楽しみ。表紙を眺めて出発を待つ。


最寄り駅から鉄道に乗った瞬間から、お待ちかねの読書タイムが始まる。

本のチョイスが良ければ、空港までは気づけばあっという間だ。ここまででかなり読み進む。
搭乗して最初の食事の時間が終わったら、またぐっと集中して読む。
読んだ本が面白ければ、その旅の思い出に、本の内容も刻み込まれる。

これまで旅に持参して、「これは旅にぴったりだった。我ながら良いチョイス」と思った本はこんな感じ。

ここに地終わり

宮本輝「ここに地終わり海始まる」上下 

ポルトガル・ロカ岬の話題が登場する。この本は「これを読むならいまだろう!」と、ポルトガルに向かう際に読んだ。ロカ岬の絵ハガキの話題は登場するものの、ポルトガルの地そのものは出てこない。しかし、主人公がロカ岬に憧れるという設定のため、実際に訪れた岬では感慨深さもひとしお。主人公を現地に連れてきてあげたかのような、不思議な達成感も味わった。

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このときの経験から、宮本輝さんは旅にぴったりと確信し、ドイツひとり旅には「ドナウの旅人」、イタリア新婚旅行には「月光の東」を選んだ。これら2作は、実際に主人公があちこち訪れる、ロードムービーのような内容。旅先で味わう、心細いような、切ないような感覚に共感できる。

このほかに……

スティーグ・ラーソン「ミレニアム」シリーズ 

北欧・スウェーデンを舞台にしたサスペンス。北海道に出張するときに持参。まだまだ雪の残る春先だったため、なんとなく北欧っぽい気分で読み進めることができた。あと、スリリングなストーリーというのは夢中で読めるから、移動中にはちょうど良い。(ホテルの部屋で撮影した写真と出張先で食べたイクラ丼↓)

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高村薫「神の火」上下

福井の原子力発電所へのテロ計画を巡る物語。大阪に日帰り出張し、往復の新幹線と待ち時間のカフェで一気読みした。東海道新幹線の車窓から時折見える海岸線は、物語に登場する、海近くの原子力発電所を想像するのにもってこい。テロ計画がひっそりと進行する大阪の街の混沌とした描写と、出張先の大阪で聞こえてきた関西弁。本の内容と絶妙にマッチしたため印象に残っている。原子力に関する重たい内容なので、移動時間にぐっと集中して読めたのがとてもよかった。(その車内での夕食↓ 缶ビールと新幹線と小説って最高。)


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このように、今でも、どの旅に何の本を持参したか思い出せるほど、旅と本は深く結びついている。


だが、電子書籍の登場で、私の旅は様変わりした。(様変わりした、と思うほど、私の旅に占める読書の割合が大きかったということだ。)

行きの飛行機で持参した本を全部読み切ったらどうしよう、という妙な不安がない。その時の気分で、読みたい本をいくらでも買い足せる。しかも、軽いのが素晴らしい。


ずっと読みたかった本を電子書籍にダウンロードして、いそいそと旅の準備をする。目的地までの間、物語の世界にどっぷりとつかる。
やっぱりこの楽しみは、ほかの何ものにも代えがたい。

(text;Noriko  photo;Noriko,Shoko)©elia

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