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人造人間メトセラが夢見た創造性の彼岸「黄金の舟歌」

あらすじ

地球は既に滅亡し、人類という種の存続は第二の故郷を探して宇宙を漂流する方舟に託された。この方舟には一〇万人分の胚子が超低温で冷凍保存されており、それとは別に、新天地で文明の礎を創り上げるために地球から選出された三〇〇人の技術者と科学者が長々期睡眠槽で深い深い眠りについている。それら一〇万三〇〇人分の人命と舟の管理を任されていたのが、人造人間メトセラだった。彼は非常に長命にして聡明、その脳は狂気とは完全に無縁の筈だった。しかしいつしか彼は夢を見始める。私の神は、ここに眠っている。

SF大好き

SF、良いですよねぇ。ただの「非現実」は大抵が狂人の所作であり、故に真に評価に値する芸術的な妄想や譫妄は「ただの非現実」という言葉に集約することすらできますが、ここではないどこか、いまではないいつかに、科学という細い蜘蛛の糸を紐帯に「現実」と結び付けられた「非現実」にたまらなく惹かれます。なぜならそれは、あり得たかもしれない「ここ」であり、やがて来るかもしれない「いま」だからです。それは狂人の所作でも益体のない妄想でもありません。幼き日の私は暴力的な父から逃れながら枕の上に自分だけの国を作ったりして現実逃避に没頭していました。そんな私が科学的でさえあればどれだけ突飛な妄想でも、ジャンルとして、或いはコンテンツとして成立するのだと理解してからは、積極的にSF作品を鑑賞し、雛が偉大な親鳥の羽ばたきを見て飛び方を悟得するかのように(いささか尊大な例えではありますが)努めて科学的な妄想を続けてきました。

そういった「科学的な妄想」が文章として結実した1つの例が、今回紹介させていただく自作「黄金の舟歌」なのです。これを書いた頃は、まだ物書きとして走り始めたばかりの頃であり、物語的な余裕を介在させる余裕もなく、ただひたすら胸に秘めた何かを吐き出し続けるの様相を呈しておりましたが、今にして思うと、それが却って自分の奥底に眠っていた何かを引き出せたような気がするのです。

人間大嫌い

そうです。もしも本作を読んだ方ならなんとなく察しているかもしれませんが、本作を書いた当時の私は今の私がそれこそ無抵抗な幼子に思えるくらい暴力的なまでに人間が嫌いでした。できることなら自分以外の全ての人間の抹殺したいとすら思っていました。これに関しては垂直に掘り下げると地雷が埋まっていそうな気がするので、水平に掘り進めていきます。つまり、物語周辺の事情を語っていきます。

人造人間大好き

私は人造人間が好きです。それは、人間が嫌いでありながら、自分も人間であるという致命的な矛盾、人間の欲望を憎みながら自分もまた食事や睡眠といった欲望を行使するという堕落、それらを唯一解決する方策があるとしたら、それは人造人間に他なりません。人間の姿形をしていながら、中身は全く人間とは異質な存在。ある意味では人間と同一だからこそ、人間的な欲望の行使を意図的に行うという方便が成立し、本質的には人間と食い違う存在だからこそ、人間に対して一切の慈悲をかけずに済むのです。人造人間というフィルターを介せば、当時の私は他者を愛せる気がしたのです。だから、小説ではあんな結果になりましたが、あれはあれで憎悪と愛情の一粒で二度美味しい的なやつだったのかもしれません。なんちゃって。人間嫌いと人造人間好き。この2つを年季の入った大鍋にぶち込んで煮詰めたら「黄金の舟歌」が出来上がっていたような案配です。

創造性崇拝

これについては私が今でも信じて疑わない信念をメトセラに代弁させているので、読んで下さい。っていうか買って下さい。ははは!

音楽について

メトセラはとある音楽を愛していますが、その曲とはずばり「ヴァルハラ城への神々の入城」です。

なぜかこの曲なのか。私が好きだから。はい。いえ、それだけではありません。ちょっくらWikipedia先生から引用します。

フローが神々の城に虹の橋を架ける。ヴォータンは城に「ヴァルハル」と名付ける。「剣の動機」がトランペットで現れ、英雄の登場を予告する。虹の橋を渡って神々は入城してゆく。彼らに続いて入城しようとしたローゲは、神々の没落を見通し、炎となってすべてを焼き尽くしてしまおうと独白する。ラインの娘たちが嘆く歌が谷底から聞こえてくる。

そんな感じです。そして、勘の良い方はお気づきかもしれませんが、そうです。
「湖畔の……」
「(゚A゚ )」
それです。それが好き過ぎて。こんな感じに仕上がっちゃいました。

と言う訳で、楽しんでいただけたなら幸いです。感想なんか頂けると心の栄養になります。それを捕食して生存する生命体なのです。

ちなみに本作は一冊目の短編小説集「エウカリスト」に収録されています。
全体的に「おれ、にんげん。でも、にんげん。きらい」な感じでまとまっています。
もしよければどうぞ。

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