ゲームデザイナーインタビュー:Paolo Mori
前書き:以下のインタビューはPaolo Mori(以下Paolo)に対しておこなわれたものである。インタビュアーはAndrea "Liga" Ligabue(以下Liga)。原文へのリンクはこちら。掲載元の許可を得て以下に和訳して紹介する。Paolo Moriはイタリア出身のゲームデザイナー。最初の商業ゲームは2006年のUR。代表作はVasco da Gama/バスコ・ダ・ガマ、Libertalia/リベルタリア、Augustus/アウグストゥス。アウグストゥスが2013年SdJノミネートとなったことが記憶に新しい。Paolo氏の発言はややくだけた調子で訳しているが、これは訳者が受けた印象にあわせたものである。
Liga:Paoloさん。このインタビューシリーズで、私はゲームデザイナーの世界を、ゲームデザインをアートの1つの形として、本を書くことや映画を撮ることのように見ていきたいと思っています。今回のインタビューでは、あなたの作品から、あなたのスタイルや特徴を一緒に考えてみたいのですが……あなたは様々なジャンルの折衷的なデザイナーなので作品に共通する要素を見つけるのは簡単ではなさそうですね。
あなたはゲームデザインの主要な流派(ドイツゲームとアメリカゲーム)のどちらにも属していませんし、より小さな流派(フランスゲームやイタリアゲーム)の一員というわけでもないですね。あなたのスタイルについて少しお訊きしても良いでしょうか。
あなたは若く、10個程のゲームをリリースしていますが、既に素晴らしい成功を収めた作品がありますね。バスコ・ダ・ガマはIGA(International Game Awards)にノミネートされて、DSP(Deutscher Spielepreis:ドイツゲーム大賞、2010年)の2位となりました。そしてもちろんアウグストゥスは2013年のSDJ(Spiel des Jahres:ドイツ年間ゲーム大賞)にノミネートされました。あなたの作品の中で特に誇りに思っているものはありますか?あるとすればその理由はなんですか?
Paolo:やあLiga。僕の作品に興味を持ってくれてありがとう。質問をごまかすようなことはしたくないけど、すべての作品をそれぞれ違う意味で誇りに思っているよ。すべての作品にはそれぞれ歴史があってどれも否定したくはないんだ。でももし1つを選べと言うのならば、アウグストゥスを選びたい。ゲーマーとカジュアルプレイヤーの両方から、幅広く評価されたゲームだからね。
Liga:この質問に答えられるデザイナーは多くないんですよ!私はアウグストゥスがとても好きですし、誇りに思って然るべき作品だと思います。あなたの作品はどれも洗練されたメカニクスを持っていますが、ゲームをデザインする上で、テーマとメカニクスのどちらを重視していますか?ドナルド X. ヴァッカリーノ氏はこの2つに加えてフレーバー(データ)も重要な要素だと語ってくれましたが、データ(より具体的にはテーマとメカニクスを繋げる細かなルール)はあなたのデザインでどのような意味を持っていますか?
Paolo:ヴァッカリーノ氏の言う“データ”が何を意味するのかよくわかっていないのかもしれないし、もしかしたらそれは僕のデザインに含まれていないだけなのかもしれない。僕の意見は、素晴らしいメカニズムは良いテーマを伴わなくてもそれだけでゲームになりうるが、その逆は成り立たない、ということだ。だから特に制約のない状況でデザインする場合にはテーマよりもメカニクスに重点を置いているよ。僕がデザインしたゲームのいくつかは、メーカーによってテーマを変更されている(リベルタリアや、ある意味ではアウグストゥスもそうだし、これから出るDogs of Warもそうだね)し、それについて僕はあまり気にしていない。それでも、僕のお気に入りのテーマというものもいくつかあるし、だからメカニクスを思いついたらお気に入りのテーマの1つを合わせてみるようにしているよ。そしてテーマとメカニクスが混ざり合って組み合わされば、最終的なコンセプトになる、というわけさ。メーカーがあらかじめテーマやライセンスを持っていてその注文に合わせてデザインする場合はもちろんこの限りではないよ。そういう場合はまずできる限り情報を集めてそれから「これをプレイするのはどんな人だろう?」と自問してからデザインを始めるんだ。
Liga: なるほど、わかります。ゲームデザイナーの中には、作品の歴史について語る人もいますし、しっかりとした作品をデザインする手法について語る人もいます。あなたは元々ゲーマーで、他のデザイナーのゲームもたくさん遊んだし、他のゲーマーのプレイテストにも参加していたと聞きます。デザイナーの中には、他のデザイナーのゲームを遊ぶことも仕事の内と考える人も、自分のゲームのデザインにほとんどの時間を費やす人もいますが、ゲームデザインの内、ゲームをプレイすることはどのくらい重要だと考えていますか?自身のゲームデザインに使う時間と、他のデザイナーのゲームをプレイする時間との比率はどのくらいなのでしょうか?
Paolo: ゲームデザイナーにとってもっと貴重なリソースは、(お金を除けば)時間なんだ。もっと他のデザイナーのゲームをプレイしたいのだけど、そのせいでなかなかできていない。でも、小説家にとって本を読むことが大事なのと同じくらい大事なことだと強く思っているよ。もし他のデザイナーのゲームを遊ばないなら、そして他のデザイナーのゲームを遊ぶことを楽しめないのなら、そういう人にとっては新しいゲームをデザインしたり自分のゲームをより良いものにすることは難しいと思うよ。
Liga: 昨年プレイしたゲームの中で、最も楽しかったゲーム、良くできていると思ったゲームを教えてください。
Paolo: 去年のゲームの中では、Gun-Hee Kimのカードゲーム、Koryoがとても良かった。本当に無駄のない綺麗なデザインだ。Cédrik Chaboussitのルイス&クラークも良かったよ。ちょっと要素が多すぎて大変だったけれど。それから、最近Rob Deviauのリスクレガシーのキャンペーンを始めたんだ。すごく魅力的なコンセプトだね。将来僕自身のデザインに使ってみたいよ。
Liga: あなたのゲームの中から例を挙げてデザインのプロセスを教えてくれませんか?どこからアイデアを得たのですか?どうやって最終的な形まで仕上げたのですか?プレイテストにどのくらい時間が掛かりましたか?
Paolo: 僕のゲームはそれぞれ違う歴史を持っているから、“例”を挙げるのは難しいんだけど、アウグストゥスについて話そうか。アイデアが生まれたのは、秘密でもないし簡単に想像がつくと思うんだけど、何かのチャリティイベントでビンゴをプレイしていた時だ。僕はその時正直楽しんでいたわけではないのだけど、それでもビンゴの中に気持ちの良いテンション(緊張感)があるのを感じていたんだ。そしてこれは“本当の”ゲーム(つまり、意味のある選択がプレイヤーによってなされるようなゲーム、のことだけど)に使えるんじゃないかと思ったんだ。だから僕は異なるカードに異なる特殊能力をつけて、どれを最初に完成させるかが大事になるようなアイデアを考えたんだ。ゲームの残りの部分はほとんど自動的に生まれてきたようなものだ。それでも数ヶ月間はプレイテストをしなくてはならなかったけど。あんまり面白い話じゃないと思うけれど、デザイナー日記というわけでもないんだよね【訳注:意味がうまくとれません】
Liga: いや、面白い話ですよ。リチャード・ガーフィールドは古典的なゲームを遊ぶことを勧めていましたよ。私たちの歴史の一部であるし、また何かを教えてくれるかもしれないから、と。ビンゴの楽しさを抜き出してボードゲームにしたのは素晴らしいアイデアだと思います。あなたは他のデザイナーと共同でゲームをデザインしてもいますが、チームでデザインすることについてどう思っていますか?
Paolo: 僕と一緒にデザインするのはすごく大変だと思う。僕は時々ゲームの最終的な形について、こうあるべき、という精確なイメージを持っていることがあって(でもどうやってそれを実現させてプレイするかはわからなかったりするんだけど)、そういうときは共同デザイナーが何を言っても気持ちは変わらないんだよね。それから僕はゲームをデザインする時にはひどく気分屋で、たくさんのアイデアがあって熱狂的になっている時もあれば、特にプレイテストが上手くいかなかった後なんかはがっくり落ち込んでこれ以上開発する意味なんてないと思う時もあるんだ。僕と一緒にデザインするのは大変だと知っているから、できるのであれば一人でデザインしたいと思っている。でもそうした僕の欠点に寛大な人であれば(Francesco Sirocchi【訳注:Pocket Battlesの共同デザイナー】とSimone Luciani【訳注:ツォルキンのデザイナー。共同でクレジットされているゲームは確認できなかったが、SimoneのWar of Wondersのプレイテスターの中にPaoloの名前が挙げられている】のことだけど)、共同デザインは素晴らしい経験になりうるよ。
Liga: 共同デザインする時にはなにか役割分担はあるのですか?メカニクスを考えるとか、調整する人とか、素晴らしいアイデアを持っている人、とか。あるいは完全に共同作業なのですか?
Paolo: 単純だよ。僕はいつでも正しい人さ!……という冗談はさておき、過去僕と一緒にデザインをした人達にとって、僕との共同作業は悪夢だったと思うよ。お互いが満足する形につくりあげられたことはほとんどなかった。僕が気分屋で、熱狂的でアイデアがどんどんわいてくる時もあれば、完全にモチベーションを失ってアイデアがどれもつまらなく見える時もある、というのが主な原因なんだけど。
Liga: あなたはゲームデザイナーのコミュニティwww.inventoridigiochi.itを設立しましたね。ゲームをデザインする上で、他のデザイナーと繋がって話し合うことはどのくらい重要だと思いますか?
Paolo: 自分のアイデアをしまいこまずに、他のデザイナーと話し合うのはすごく大事なことだよ。そういう“イタリア流”のやり方が、デザイナーとしての僕の“経歴”の基礎だと思っている。他のデザイナーにとってどうかは知らないけれど、インターネットのフォーラム上におけるこうした国や地域の中でのゲームデザイナー間の集まりや議論に関しては、過去10年間のイタリア人ゲームデザイナーの中でとても発展してきたんだ。
Liga: なるほど。ゲーム市場を知らない新人デザイナーが秘密にしているアイデアが、モノポリーの新版や、既に何年も前から市場に出回っているようなものであった、ということは、私も何度か経験しています。
ところで芸術家にはみな師と呼べる人がいると思いますが、あなたはゲームデザインを誰から最もよく学びましたか?誰がPaolo Moriの師なのでしょうか?
Paolo: まず言っておくけれど、僕はゲームデザインをアート・芸術だとは思っていないよ。もちろん想像力とインスピレーションはゲームデザインの重要な要素だけど、問題解決や数学、ある種のパターン認識力といった、開発やプレイテストで見えてきたバグや欠陥を解決する方法を生み出すための他の技術も、同じように重要な要素なんだ。だから僕に師はいない、と言っても高慢だとは思わないで欲しい。もちろん僕よりずっと優れたゲームデザイナーはたくさんいるし、その人達のようにデザインできれば、とも思っているよ。シャハトやムーン、ボザ、カタラ、ドーン……でもそういった人々も、僕にとっては倣うべき師、と言うわけではないんだ。
Liga: それではこのインタビューの核心に迫りたいと思いますが、あなたはゲームデザインをある種の芸術だと思っていますか?あるいはむしろ職人仕事のようなものだと思っていますか?
Paolo: もうその質問の一部には既に答えているけれど、ゲームデザインにはその両方の面があって、だからこそ素晴らしい仕事だと思っているよ。たくさんの異なる種類の技術が必要なんだ。
Liga: ゲームデザイナーにとって最も重要な技術はなんだと思いますか?ゲームデザインの最初の面、創造的な部分は小説家の経験するものとは懸け離れていると思いますか?
Paolo: 正直言ってわからないよ。僕は小説を書いたことがないからね!どちらも創造力と技術を必要とするから、似ている部分もあるのだろうけど、ゲームをデザインするために必要な技術は小説を書くのに必要な技術とはまったく違うからね。もしゲームをデザインする際に特に重要な技術を1つ挙げるなら、それは“問題解決”の技術だと思う。自分が直面しているバグや問題がどのようなタイプのものであるかを認識して、デザイナー・ゲーマーとしての経験の中からその問題を解決するための道筋を見つけ出す技術だ。ゲームデザイナーにとってもっと重要な技術だと思うよ。
Liga: ゲームデザインの理論についての本を読んだことはありますか?あるいはゲームデザインの創造的な部分はもっと直感的なものだと思いますか?
Paolo: そうした本を部分的に読んだことはあるし、ゲームデザインについての記事ならよく読むよ。刺激的だね。ただ、僕自身は直感的というより、もっと“実際的な”やり方でゲームをデザインするのが好きなんだ。理論は僕のゲームデザインの一部ではあるけれど、もっと深いところでは理詰めというわけではないんだ。
Liga: あなたのデザインに共通する特徴があると思いますか?私には見つけられなかったのですが。
Paolo: あまりないと思うな。でも、とてもシンプルな基本ルールに対して、“小さなルールの数々”が組み合わさって繋がって多様性を生み出す、というのは僕のゲームに良くある要素だと思う。これは特殊能力の形式である場合(リベルタリアのキャラクターや、Pocket Battlesのユニット能力、アウグストゥスのカードの効果など)もあるし、ゲームの中心的なメカニクスになっている場合(Urの5つのアクション、Olympicardsの異なるスポーツ種目、Mementoのスコアカードなど)もあるのだけど。
Liga: 基本ルールに多様性を生み出す“小さなルールの数々”……なるほど。あなたはゲームをデザインする際に、たくさんのルールから削っていくのですか?それともその逆ですか?
Paolo: 大抵の場合はむき出しのゲームエンジンから始めて、開発段階でゲームを面白くし、多様性を与えるのに必要な要素をどんどん加えていくよ。複雑なゲームから始めて簡略化していくようなやり方は滅多にしない。
Liga: あなた自身を3つのゲームで語るなら、どれを選びますか?その理由は?
Paolo: Ur。僕の最初のデザインで、初期のデザインの欠陥はあるけれど、それでも僕の最もオリジナルな作品だ。独特だよ。 Pocket Battles。最終的には最初に思い描いていた通りの作品になった。いつでも遊びたい作品だよ。 アウグストゥス。僕の最も“輝かしい”アイデアだ。長い間みんなの目の前にあったメカニクスを使ってみせたんだからね。
Liga: アウグストゥスは2013年のSdJにノミネートされ、”Gioco dell’annno”【訳注:イタリアのゲーム賞】の初代大賞になりました。これは今後役に立つと思いますか?あなたの生活は変わりましたか?
Paolo: 僕の生活はまったく変わってないよ。ただ、ゲームの、それとおそらく賞のおかげでゲームメーカーの目には留まるようになってきた。最近はメーカーから何か面白いデザインを見せてくれないか、というメールが来るようになったよ。アウグストゥスが出る前は、もちろん逆方向だったんだ。でもそれだけだね。別にお金持ちになったわけでもないし、本業を辞めるつもりもない。メーカーだってPaolo Moriの作品だからと言うだけでつまらないゲームを出してくれるようになったわけじゃないよ(ありがたいことにね)。
Liga: なぜゲームをデザインするようになったのですか?なぜデザインを続けているのですか?
Paolo: ゲームのアイデアがあったからゲームのデザインを始めて、ゲームのアイデアがあったからデザインを続けているんだよ!
Liga: 新人のデザイナーになにかアドバイスはありますか?
Paolo: みんな「諦めずに続けるんだ」と言うけれど、僕はもっと違うことを言おうと思う。ゲームデザインは情熱だけのものじゃない。仕事なんだ。仕事には技術や経験や、できれば才能も必要なんだ。必要な知識無くして医者や弁護士になろうと思う人はいない。ところがゲームデザインになると誰でも素晴らしいゲームをデザインすることができるように言われてしまう。それは間違いなんだ。だから僕のアドバイスは、「ゲームをデザインすることが楽しいなら続けなさい。でもゲームデザインは簡単ではないし、運や時間でどうにかなるものでもない。だから、楽しみよりも不満の方が大きくなったら後悔せずにすっぱり止める覚悟もしておくと良い」というところかな。ああ、それからアウグストゥスのデザインの中で僕が得た教訓はこれだ。あまり選り好みをしない方が良い。(ほとんど)どんなゲームにも面白くて利用できる部分はあるのだから。それがたとえビンゴであっても。
Liga: ありがとうございました!最後にこれからの予定について教えてくれますか?
Paolo: ゲームデザインについていえば、今は最高の状況にあるわけではないけれど、これからもゲームを作り続けるよ。人生はますます難しくなっていて、最近は以前にも増して新しいゲームを作るための時間と空間と気力を用意できなくなっているんだ。でも、2014年にも2,3の新しいゲームを出すことができると思う。まだ詳しくは話せないけれど。メーカーとの間のやりとりで思い違いをしたこともあるので、正式な発表があるまではあまり話さないようにしているんだ。
後書き:インタビュアーの意図なのかもしれませんが、ゲームデザインの具体的な手法というよりは、ゲームデザイン全般についての大きな話になっています。その中でも「テーマよりもメカニクスを重視する」「開発段階による問題解決」といったことをずばりと言ってのけるところはなかなか爽快です。Paolo Moriの作品も、Pocket Battlesの再販と新パッケージの追加が発表されていますし、インタビュー中に名前の挙がったDogs of Warも近いうちに登場(KickStarterのキャンペーンは2014年5月に終了しました)するようですので、今後も期待できそうです。Dogs of Warのアートワークが素晴らしいんだ……
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