ジョブ理論の限界

アイデアを考える際に行われる知的活動をシンプルに分けると、解く課題を再発見することと、解決策を考えることだと思う。新しいアイデアの条件には、少なくともこのどちらかがユニークであることが求められる。ありふれた課題だとしても、従来の手法より機能する解決策が思いつけば良く、課題がユニークであれば解決策は平凡で良い。そして、目に見える課題を演繹的に解決し尽くした先進国では、今、どちらも枯渇している。

特に、この解く課題を再発見することは、必要とされる技術がそれほど高くなりにくいことから、注目されがちだ。ジョブ理論もそこに注目した考え方の一つで、様々な過去のイノベーション事例を分析しているが、このような分析が新しくアイデアを考える上で役立つかというと、中々難しいと考えている。確かに、ミルクシェイクを通勤中に買う客など、フォーカスしている部分に近い所で顕在化されたジョブが確認されるときには機能するかもしれない。しかし、例えば、ジョブ理論でも語られているサザン・ニュー・ハンプシャー大学が通信教育課程で成功した事例も、普通なら通常の全日制課程の改善に着手しようとする可能性が高い。新しい宿泊サービスを考えるために、ホテルに泊まる観光客をいくらエスノグラフィ調査したところで、Airbnbというアイデアにたどり着くのが至難の業なのは想像に難くない。つまり私が言いたいのは、後から見れば課題と解決法にかなりの合理性が見受けられたとしても、その解決法に普通の思考で辿り着ける可能性は低いということだ。なぜなら、演繹的に考えられるほどの近さなら、他の誰かが既に解決しているからだ。ジョブ理論は、この解く課題を再発見する難易度を覆い隠している。

これに対して採るべき方策は二つで、一つは、心にささくれ立った小さな不満を探して、掬い取ること。自分は常々、エスノグラフィで他人の心理に共感することなど不可能で、自分が体験し、内省しなければ本質は見えてこないと考えている。この考えは、デザイン思考があまり機能しないことに気づいた人たちが最近語っているアート思考に近い。

そしてもう一つは、大量の事例を分類化して、その切り口を片っ端から当てはめる思考実験を繰り返すやり方。例えば、男性の精子の活動量を計測することで不妊は男性にも原因があることを示したアプリの事例からは、ターゲットを転換するという切り口を学べる。そうした切り口をそれこそアジャイルに考えていけば、いつかはピタッとハマりそうな解決策が見つかるかもしれない。

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大学院で生体計測やロボティクスに関する研究に従事.現在,広告代理店にてテクノロジー系とコピーライティングが仕事.Ph.D取得したさが今MAX.
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