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毒の密造酒事件を描いたドラマ「メタノール」

東欧のドラマを見てみよう

この間アマゾンプライムビデオを覗いていたら、薬の瓶のサムネイルに「メタノール」というシンプルなタイトルのドラマを見つけました

珍しいことに、チェコの作品で前後編の、実話に基づいたドラマらしい
これは日本の地上波ではまずお目にかかれませんね

気になって見てみたところ、これがとても面白く、
また自分がいかに酒について無知なのかと痛感したので、今回はその紹介をしてみようと思います

このドラマは2012年にチェコで実際にあった密造酒による中毒事件を扱っています
中毒の原因は酒に含まれていたメタノール

この流通元が不明な危険な密造酒が国内に広く出回り
多くの人々が病院に運ばれ、最悪の場合失明や死に至るケースもありました
(判決が確定しているだけで死者は38名)

要するにメタノールは人体にとって毒だということです

ではなぜこのメタノールが酒に混入されたのか…

実はドラマを見ても最低限の知識がないと
登場人物が何をやっているのかよくわかりません

なので僕も途中40分ぐらい見て、わからないことが多くモヤモヤしたので
もう少し調べながら最初から見直しました

せっかく調べたので、このドラマを見るときに最低限知っておくと
より楽しめるよということをまとめておきます

酒とアルコールについての基本

お酒には当然アルコールが含まれていますが、
この「アルコール」って何でしょう

「アルコール」は広い意味の言葉で、
一口にアルコールといっても様々な種類があります

代表的なものに「エタノール」と「メタノール」があります

エタノールはエチルアルコール、酒精などとも呼ばれ
人が飲んでも平気(飲み過ぎはダメですが)なので
酒に含まれるアルコールはエタノールなのです
酒に関してなら、このエタノールを我々はアルコールと呼んでるだけなのです

一方メタノールはメチルアルコール、木精と呼ばれ
人体には毒です
なので飲用にはせず、工業用によく使用されます

そしてもう一つ覚えておきたいのが「変性アルコール」という言葉
エタノールは工業用にも使われますが、
これが飲用に転用されないように、または酒税の対象外にするために
意図的にメタノールなどの添加物を加えて飲めなくしたものです
これが、変性アルコール

基礎的なことですが、とりあえずこれを頭にいれておけばこのドラマを見る準備はOK!

以上のことを踏まえると、ちょっと分かりづらいドラマ内の次のセリフのやりとりがだいたいわかるようになります

鍵となる会話

まず、この話のキーマンである工業用の洗浄液の工場を取り仕切っているルドルフ・フリンという人がいます
彼は商品の契約をとることを任されているようで
業績がかんばしくないので、社長のシコラにクビを勧告されてしまいます

これはそのルドルフと、工場の作業員との会話です
この会話はルドルフが事件の発端となるアイデアを思いつくための
大切な場面ですが、知識ゼロだとわかりづらいので細かくみていきます

作業員「このアルコールは最後の1000リットルだ
今週いっぱいになくなる」
ルドルフ「あっちにまだ6つあるだろう」
作業員「シコラさんに使わないように言われている
しかも変性されていない
ムダになるだけだ」
(中略)
作業員「割合を調節すれば来週には間に合う」
ルドルフ「割合を調節?」
作業員「ここに変性アルコールがある
色もいつもどおり
夏用にもう少し水を加えてメタノールを注ぎ足す」

変性されていないということは純粋なエタノールということです
これは余っているが、使わない分だそうです

作業員はルドルフに、変性アルコールのかさ増しをする許可を取ろうとしているようです

(中略)
作業員「メタノールは変性アルコールとほぼ同じだ
凍らないし匂いもマシだ
その上安いときている」
ルドルフ「ならどうして…
メタノールを増やさない?」
作業員「体に毒なんだよ」

「メタノールは変性アルコールとほぼ同じだ」というのは
誤解を招きそうな表現なのであまり深く考えないようにします
先ほど説明したように、変性アルコールはエタノールにメタノールなどを混ぜたものです

ルドルフの立場がいまいちよくわからないですが
自分が販売してる商品についての知識はあまりないようです

ともかくこの会話でルドルフは
「メタノール=安い」という事にピンときて

「メタノールの毒さえなんとかすれば、コストを下げて、かつアルコール度数が変わらない酒を作れるんじゃないか」

と考えたのだろうと思います
実はこのルドルフも上司のシコラも税金逃れした非正規の値段で品物を扱ってるようなちょっといかがわしい奴らなので、酒に転用するような考えに至るのです
そしてルドルフはネットのあやしい情報に飛びつきます…

ここからは見てのお楽しみ…

社会問題に切り込んだ作品

この作品、映画2本分ほどのボリュームの中で
長く共産主義国家だったチェコの裏側の社会を浮き彫りにします

悪質なブローカーが暗躍し、密造酒が普通に出回り
安くて怪しい酒でも一般庶民が何の疑問なく手を出すという社会が
ついに最悪の中毒事件を招くのです

政府はこのメタノール入りの密造酒が出回っていることが発覚すると
これがどの程度国内に流通してしまっているのかわからないため
酒類の取り扱いを一時的に禁止します

このドラマの後編では警察の大規模捜索がメインですが、
禁止令が警察の調査が終わらぬうちに解除されてしまうという場面があります
酒の流通が1日でも止まれば経済に大打撃を与えるためです
なんだか現在の我々の状況と通じるところがあります…

この事件をきっかけにチェコの酒の流通は厳しく管理されるようになります
日本では当たり前ですが、
このようなメタノール中毒の事件は貧しい国でたびたび起こります

これは2012年というごくごく最近の事件であり、
今でもネット検索すれば当時の日付のニュースがすぐに出てきます
我々が当たり前に享受している食の安全について改めて考えるきっかけになるのではないでしょうか

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