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ネビラキカフェ3rdシーズンを目前にして思うこと

この2年間で地域に起こった変化

寂れてしまった駅前通りにカフェをオープンしてから2周年を迎えました。
自分たちがほしい暮らしから逆算して事業を考え実行してきた2年間。
想像通りに進んだことやそうじゃないことは多々ありつつ、継続することの大変さと、暮らしという遠心力に振り回されない強い意志を保ち続けることへの挑戦の日々でした。

「カフェを開いてから地域の変化は感じられますか?」
と聞かれることがあります。外から見れば色々変化があるのでしょうが、暮らしの渦中にいる我々にとって、それを感じ取るのは意識していないと難しいことではあります。ですが、大きく挙げてみると

街の景観がよくなった
カフェ(プレイヤー)が増えた

カフェを始めた理由①

事あるたびに言っていますが、カフェを始めたいと思ったきっかけはこの景色を誰かと共有したいと思ったからです。

満水の錦秋湖

人の営みや文化・社会がどんなに変動していこうが、ここから見られる景色が大きく変わることはないでしょう。心の底からここの景色に一目惚れし、ここに暮らすことを決意しました。そして、この景色を持つ暮らしを手に入れた時、自分だけいい思いをしているのはもったいないと感じました。例えばこの世に自分だけいて、自分だけで悦に浸っていてもそれは幸福とは言えないと思います。幸せな時間を誰かと共有した時、この世界に生きていて良かったという時間があるのだと思います。その幸せな時間をおすそ分けしたかった。この場所にカフェを作ったのはそのことの手段に過ぎません。カフェという名目はついていますが、日本茶屋でもチャイ屋でもレモネード屋でもよかったのかもしれません。価値を付けたかったのは、過ごしている時間や空間です。

4月上旬。
この時期の錦秋湖はどんどん雪が溶けていくので楽しい。
7月
ここのテラスは対岸のステージが一番良く見える場所でもあり、向こうに行きたがる人、実際に歩く人が確実に増えた。ステージを散歩している人を見られるのもこの場所の良さ。
満月の日は言葉で表現できないくらい美しい。東山魁夷の『月唱』を彷彿とさせる。
2021年の晩秋にテラスのデッキに屋根をかけた。これがいい味を出しており、空間そのものの面積は変わっていないのだが、以前より広くなったように感じる。屋根を支える柱が額縁の役割を果たし、絵画の世界にいるよう。今までも多かったのだが「時間の流れがゆっくりに感じる」と言ってもらえることが今年に入って増えた。

雪解けが終わる頃、DIYでテーブルやカウンターやレンガ畳を作りました。普通は絵を描いてから作るのでしょうが、ほとんど絵は描かずに作りました。不思議な話ですが、景色が語りかける声を聞き取り手足を動かした結果です。

カフェを始めた理由②

もう一つ、カフェを始めた理由としては30年後の故郷を憂いてのことでした。空き家が増え景観が悪くても、行動に移す若い人が少なくなっても、「なんとかするのは行政の仕事」という依存意識が強かったこの地域では、本当に将来まで持続しているのかは不安なことです。市町村というユニットが仮に無くなったとしても、小さな共同体で自分たちが望む幸せを作っていくこと、自身の身体性と感受性を起点に豊かに暮らしていくこと、これができればこの故郷はきっと輝く場所になるという確信がありましたので、暮らしを作る主体性を育むこと(仲間づくり)、美しいものを美しいと当たり前に言える感受性を育むことを目的にカフェをオープンしました。

景色は変えられる

我々が錦秋湖湖畔に暮らし始めた時、隣には雪の重みで潰れてしまった空き家がありました。雪が多いこの地域では、空き家を放っておくということはそのまま自然に帰るということです。驚いたのはこういう空き家があっても暮らしている人たちは抗議をしたりすることは殆どないということです。最初地域や行政に掛け合ったら相手にしてもらえませんでしたが、カフェができてから地域で要望書を上げてもらえたおかげで、不本意ではありましたが、行政代執行という形で撤去されました。遠回りではありましたが、ビジョンを描き、行動に移すことで景色は変えられるという自信に繋がりました。

2018年の大雪で潰れた空き家。2021年、2022年と大雪の年が続き、町内の空き家は崩壊したところが多数。景色を変える→空き家撤去という流れでは到底間に合わない。国全体で考えていかなければならない問題の一つだと思う。そうしないとどうせ抗議しても無駄という諦めにつながる。

あと、発信方法でお客さんの質が大きく変わることも段々わかってきました。もともと想定顧客設定を細かくやっていたので、ある程度想像通りのお客さんが多いのですが、最近、近所の高校生に短い動画を作ってもらったら、そこからまたお客さんの雰囲気が変わりました。

tik tokっぽい動画。
西和賀では見かけないようなファッションの若者やカップルが増えた。

今起こっていること

カフェ自体、もともと夫婦2人+αくらいで運営できるサイズに設定していました。駐車場のサイズや席数、キッチンの広さから逆算してギリギリ2人いれば運営できると考えておりましたが、カフェをオープンしてからすぐくらいに2人では無理だということに気が付きました。紅葉の時期等のハイシーズンにはすぐに満席になってしまい、入り口の前に行列ができることもありました。もともとは通年雇用は考えていなかったので、人探しには苦労しましたが、近場で3〜4人なんとか確保ができ(どの方も若い女性)、お店を回していくことができました。

まだまだ小さいですが、フレキシブルに働きたいお母さんや、時間を自由に使えるフリーランスの方の働く場所になりつつあります。

カフェを開きたいと思っていた頃、同時期に同じようなことを考えていた方が何名かいて、ネビラキカフェがオープンした翌年に町内に新たに2つカフェがオープンしました。初めの頃、周りから「ライバル出現か〜」と言われたりもしていましたが、カフェとは不思議な属性を持っており、具体的に言うと汎用性が高いので、お客さんを奪い合ったりということは少なく、むしろお客さんを紹介し合ったり送客しあえるいい関係だと思っています。自家焙煎の本格コーヒーが楽しめる店、こだわりの食材を使ったランチが食べられる店、時間を忘れて景色に溶け込める店、それぞれがカフェという看板はついてますが、ジャンルは全く違うそれぞれに豊かな世界観が広がっています。

最近プレイヤーも増えてきました。大手旅行会社を退職し錦秋湖で水上アクティビティを生業にしたいと思っている方、町内各所でフリーマーケットを開きながら鍛冶細工を生産するアイアンマン、ここ西和賀で不動産業を開業しヤギがいるコワーキングスペースを間もなくオープンする高学歴な人。

それぞれはとても小さな取り組みで、インパクトも弱いのかもしれません。ですが、誰から言われるでもなく、それぞれがビジョンを持ち、有機的に繋がってお互いを高め合う存在になりつつある今、これは面白いうねりになってきていると感じます。


カフェ向かいの廃ガソリンスタンドで小さなフリーマーケットが開催された。近所の子供やお年寄りまで集まって売って買ってをして関係性を再構築している。個人が内発的に企画した素敵なイベント。

賛否はあるかもしれませんが、個人的に思う西和賀のいいところは、コンビニが無くて、大きな企業も入っていないところ。時間はとてもかかっていますが、自分たちの手足を動かせる範囲を拡大し、手触りのある暮らしづくりやまちづくりができているところだと思います。

これからのビジョン

何もなかった場所に人が集まる場所を作ることで、徐々に他の動きも出てくることが体得しつつあることの一つですので、他所から来た人たちだけでなく、ここに暮らす人達も「ここにいて良かった」「この場所でこんなことがしたい」というポジティブな空気を蔓延させていきたいと考えています。そのためにもう2・3アクションを起こし、もう少しここの景色を整えていきたいと思います。カフェで培った世界観を駅周辺のエリアに広げていくイメージです。この川尻エリアはJRほっとゆだ駅があり、他所から人が来る町の玄関口でもあるともに、外の世界と繋がるステーションでもあると言えます。ゲストの滞在時間を伸ばし、全体でここの暮らしが体感できるエリアへとしていきたいです。春になるとゼンマイを揉んでいる人が路肩に現れたり、決まった時間に一斉に外に出て除雪している風景はそのままここに暮らしている人の尊いアイデンティティです。

風景の価値付けができて自信がついてきたので、今度は人々の暮らしている営みに世界中の人々が共感し感動する価値付けをしていきたいと思います。

カフェをオープンした年に生まれた息子はもう少しで2歳になります。暮らしを犠牲にすることなく、稼ぎつつなおかつ自由に生きるためにはどうしたらいいのか自問自答と対話の日々です。カフェに縛られてついつい暮らしのルーティンに飲み込まれてしまわぬよう、書くということを通して自分の意志を繋ぎ止めたいと思います。

zen

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