読書レビュー「双頭の鷲」

こんばんは

なんだかんだで4日連続で毎日投稿ができています。

やる前はできても週1くらいかなと思ってたんですけど、奇跡的なペースでモチベーションとネタが続いています笑

そして4日目にしてようやく、重い腰を上げて読書レビューを書きます笑

●双頭の鷲

佐藤賢一著 新潮社刊

もうこの本に出会ってから、かれこれ二十年近くになります。

当時東京で金融系のシステムを管理するSEをしていた私は、ふらりと立ち寄った本屋に作られた直木賞受賞者のコーナーが気になって、何気なく眺めていました。

平積みされた本の中から、肝心の受賞作である1冊を手に取り、粗筋を読んで、ぱらぱらめくり、何となく気に入って買って帰りました。

それが佐藤賢一先生の王妃の離婚という作品。

当時、というか今でも珍しい歴史ミステリーで、一言で言うと、王妃の離婚裁判を戦う弁護士のお話です。

裁判なので法廷ミステリーの形式ではあるんですけど、その時代の法律は今と違ってカノン法、いわゆる聖書に基づいた宗教色の非常に強い裁判で、おまけに三権分立も確立していない時代のお話で法の理屈だけでは解決しません。加えて、王妃の離婚なので戦う相手は当時の最高権力者である王様です。

これだけでもなかなか面白そうなお話なんですが、裁判に歴史物ということで、普通に書いたらかたっ苦しくて小難しい専門用語のオンパレードになるところを、軽妙な語り口でとても読みやすく書かれている。

一発で佐藤先生の虜になった私は、ほかの本も読みたい、とまた同じ本屋に赴き、手に取ったのが「双頭の鷲」でした。

佐藤賢一先生は中世フランスを舞台とした歴史小説を数多く書かれていますが、双頭の鷲の舞台はそのど真ん中の英仏百年戦争の時代。

ご存知の方も多くいらっしゃると思いますが、英仏百年戦争はフランスの王位を争って、イギリスとフランスの間で長きにわたって繰り広げられた戦争です。なぜイギリスがフランスの王位を主張するんだというと、簡単に言えばイギリスの王様のお母さんがフランス王家の人間だからです。

この戦争は大まかに言うと、前半五十年と後半五十年に分けられます。後半五十年の主役が、有名なジャンヌ・ダルクで、彼女の登場によって長きにわたって続いた戦争に終止符が打たれます。

そして、前半五十年の主役が、戦神と謳われ列聖もされたフランス大元帥、ベルトラン・デュ・ゲクランという人で、この本の主人公です。

ブルターニュの片田舎の傭兵隊長からフランスの大元帥に上り詰めたベルトランの立身出世の物語なんですが、この本でベルトランは、戦は滅法強いけど政治感覚ゼロで破天荒な人物として描かれています。

そんな破茶滅茶なベルトランがなぜそこまで上り詰め、イギリス軍を打ち負かす事ができたのか。そこで出てくるのがもう一人の主人公とも言える、賢王と謳われたシャルル5世です。

この二人の出会いによってシャルルは力を得て、ベルトランは知性と権力を持ちました。この最強タッグをフランス王家の紋章に擬えて、双頭の鷲となるのです。

この本に出会った当時の私は本当に頭でっかちで、ぶっちゃけ勉強は昔から得意だったのですが、はっきり言って口ばっかりで中身のない人間でした。もっと言うと、そういった知識や理屈をどうやって使っていけばいいのかわかっていなかった。

そんなつかみどころのない「現実」をどうやって動かしていくのか。知識のための知識ではない、屁理屈でもない、現実の力として活かしていく術をこの本から教えてもらった気がします。

そしてもう一つ、これは佐藤先生の作品全般の作風でもあるのですが、先生の作品は基本的に三人称で書かれている中で、突然一人称のような独白が入り混じる文体が多々みられます。そんな文体はとても読みやすく感情移入しやすくて、それまで苦手意識のあった歴史小説にもこんな書き方があったのかと感動すら覚えました。

読みやすいんですが、軽いわけではなく、文章の密度は非常に濃い。それが先生の作品の魅力です。

僕も、こんな風に人の心を動かす作品を書きたい。そうやって、読んだ誰かの気持ちが軽くなったり、大袈裟ですけど、明日を生きる力になるような作品を作る事ができれば、というのが僕が小説を書き始めたきっかけです。

でもまあ、双頭の鷲はかなり長い大作で読むのに結構な時間がかかるでしょうし、相性もあるので、好き嫌いは結構分かれるかもしれません。

佐藤賢一先生の作品には他にも前述した王妃の離婚をはじめ、黒い悪魔やカルチェラタンにハンニバル戦争など、面白い作品があるので、興味のある方は是非手にとってみてください。

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