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遺伝子発現を思いのままに制御する?「エピゲノム編集」ってなに?

最近の科学の世界では、DNAを自由に切ったり修復したりできる「ゲノム編集」の技術が当たり前に使われる様になりました。

「ゲノム編集」技術を使えば、自分が狙った通りの遺伝子変異を持った細胞や遺伝子改変マウス(トランスジェニックマウス)を簡単に作れます。

トランスジェニックマウスに関してはこちらの記事↓に簡単にまとめています。

「ゲノム編集」は2012年に報告された技術ですが、その進化系の技術である「エピゲノム編集」が2016年に報告されています。

今回はこれから盛んに取り入れられるであろう技術、「エピゲノム編集」について簡単にまとめておこうと思います。

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◇エピゲノムとは?

「ゲノム編集」の「ゲノム」とは生物を構成する遺伝情報全体のことを指します。

では「エピゲノム」とはなんでしょう?

簡単に言うと、遺伝子の発現をオンにするか、オフにするかのスイッチのことです。

私たちの体には皮膚の細胞があったり、歯の細胞があったり、毛の細胞があったり...と様々な種類の細胞で成り立っています。

細胞は全て同じ遺伝情報(DNA)を持っているのに、なぜこんなにも見た目からして全く違うものになれるのでしょう?

これは「エピゲノム」が働いているからです。

遺伝子発現スイッチが、「この細胞はこの遺伝子をオンにして、この遺伝子をオフにする」と言う調整をしていたのです。

特に、DNAのメチル化と脱メチル化(DNAの塩基の一つであるシトシンにメチル基(-CH3基)が結合)による遺伝子発現調節に関して「エピゲノム編集」技術が確立されました。


遺伝子発現スイッチがうまく働けなくなる例としては、「がん」があります。癌細胞では、(通常発現しているべき)がん抑制遺伝子の発現がオフになってしまっています。

また、山中先生が報告したiPS細胞ではOct4の遺伝子発現がオンになっているため万能性を持つ様になっていると言われています。


◇「エピゲノム編集」の元は「ゲノム編集」

「エピゲノム編集」の話をする前に知っておいた方が良いことを2つ挙げておきます。

① DNAのメチル化で遺伝子発現はオフになる
  脱メチル化されるとオンになる

② ゲノム編集CRISPR/Casは狙った遺伝子のみを切断する
  Cas9タンパク質がCRISPR配列を認識してDNAを切断し、DNA修復の時に変異が入る。ガイドRNAを使って特定の配列を切断することができる。

群馬大学の森田先生や畑田先生のグループは「ゲノム編集」の技術を応用して「エピゲノム編集」技術を樹立しました。


手順としては、

遺伝子切断活性を無くしたCas9(dCas9)にDNAメチル化をはずす最初の反応を起こす酵素(TET)をつなげる。

TETが標的遺伝子に結合してメチル基を外してオンにできるのでは?

結果は、ある程度はオンにできたけど十分ではない(弱い)


脱メチル化能力を向上させるためには?

・dCas9の端にタグ(短い目印アミノ酸配列)を数個繋いだもの

・タグを認識して結合する抗体にTETをつなげたもの

を同時に細胞に導入した。

特定の遺伝子に複数のTETが作用して効率的に脱メチル化された。


オフターゲット効果は?

スイッチがオンになるのは良いけど、がん遺伝子などがオンになってしまっていたら使えません。

次世代シークエンサーを使って、狙った遺伝子のみのメチル化がはずれているのか確かめたところ、狙った遺伝子だけがスイッチオンになっていることがわかりました。

(オフターゲットがないことを確認しています)


この新しい技術は2016年に「Nature Biotechnology」に発表されています。

Targeted DNA demethylation in vivo using dCas9-peptide repeat and ScFv–TET catalytic domain fusions

DOI:10.1038/nbt.3658


「エピゲノム編集」はDNAを切断しないため、安全性が高く治療に応用しやすいと言うことで期待されている技術です。

科学の世界は、どんどん新しい技術が生まれるから楽しいですよね。

紹介したのは2016年の文献ですが、4年も経っているのでまた技術の進歩をしていると思われます。

最新研究を読んでアップデートできたら良いなと思っています。


それでは、また!


他にも遺伝子工学系の記事を書いています

参考文献


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